明星山・P6南壁 クライミング報告

玉井進吾郎

◎日 程:200710月6〜8日

◎参加者:L.玉井進吾郎、上田治、井上智雪

 

 10月連休をどこにしようかと迷ったが、脚の弱い玉井に合わせてもらってアプローチの楽な明星山に決まった。ここは7年前の200010月の連休に坂崎と来て以来だ。その時はフリーはやり始めだったのでACC−J直登ルート(人工登攀)を登った。明星山がすでにフリーのマルチピッチの岩場として知られていたのでフリースピリッツ等にたくさんのクライマーが取り付いていた。アブミルートは我々だけだった記憶がある。(但し、左岩稜は除く)その後2〜3回計画したが、天候や中越地震等で立ち消えになっていた。

 フリースピリッツは前回登ったACC−J直登ルートをフリー化したルートでトラバースや蛇行しているのが特徴でもある。南壁最初のフリーのマルチルートで是非とも登っておきたい由緒ある1本である。今回のメンバーはこのところ雪彦山等で一緒に登っている上田と東京の大学入学と同時にJECCに入会して登りまくってる井上であり、2日目のパーティーは最年長(65歳)と最年少(18歳)というギネスものであった。

 

10513時、西宮を一人で車を運転して出発した。名神、中央道から信越道に入り、豊科ICで国道に出る。道の駅「白馬」に19時に到着し、一杯飲んで車の中で寝る。

1064時に起きると一面濃いガスが漂っており、天候が心配になった。4時半に車を走らせJR白馬駅でビバークしていた井上とまず合流出来た。霧で列車が少し遅れたが上田を乗せて5時50分にR148を北に向けて走る。ガスは次第に晴れて来た。小滝駅を過ぎると国道と分かれて左の小滝川方面に入る。目の前に明星山、続いてP6の白い石灰岩の岩壁が見えて来る。小滝川は上流がヒスイ峡と言われ翡翠が取れるそうだ。駐車場に6時半ごろに到着出来た。登攀ギア類をザックに詰め込み、展望台でP6南壁の全貌を観察するが、フリースピリッツのルートは今ひとつはっきり分からない。朝露で濡れた踏み跡を下って小滝川を飛び石伝いで渡り、左岩稜の基部に着いた。1〜3ピッチを上田、その上を井上がリードすることになった。空は曇っており寒いくらいだ。8時10分登攀開始。1P:上田は体調が良くないのか慎重し過ぎで時間が掛かっていた。ビレー点にはペツルが1本あり。2P:4級の易しいピッチ、3P:左上するランペが濡れており立ち込みに時間が掛かる。前傾壁には古いリングボルトに沿ってペツルボルトが連打されており安心!ここで下から北海道のパーティーが登って来た。ヘルメットに「長水」と書いてあったので尋ねるとやはり北海道労山の長水さんだった。20年以上振りにこんな所で会えるなんて奇遇である。4P:ここで井上にリードを交代する。このピッチはフリーで登ると5.9らしいが、A0も交えて登る。雲が消えて今度は暑くなって来た。5P:3級プラスの易しいピッチで松の木でビレー。6P:北海道パーティーに先行して貰う。彼らはとにかく速い。バンドを回り込み左岩稜に沿って登る。ここで実質的な登攀は終わるがあと2ピッチ登って大岩に14時到着。休憩後、ロープを片付けるがもう1ピッチはロープを付けて行動した方が良い。

下降路でうろついていると後続のガイドらしき横浜の勝野?さんにアドバイスしてもらった。それでもまた迷っていると「待っておれ!」と言われ、彼らの後に続いて下った。7年前に比べてクライマーが減っており、テープも色褪せて踏み跡が分かり難かった。勝野さんの下った径は途中から7年前とは違う径を通っていた。下の道に出てからも水道管が渡る小滝川を飛び石伝いに越える近道のルートを教えて貰った。

前回4時間半だったので3人でももう少し早く登れるだろうと思っていたが、意外に時間が掛かった。このペースだと明日のフリースピリッツは中央バンドまでしか行けないだろう。展望台でもう一度P6南壁を眺めてキャンプ場に16時半に帰った。前は無料だったが今は一張り1泊800円の有料となっていた。夕食は定番のキムチ鍋、前菜は冷奴。上田は風邪気味と疲れですぐに寝て高鼾となった。井上と北海道のテント場を訪ねて懇談する。札幌登攀倶楽部の4人パーティーでアルパイン界を席捲している「中川・伊藤ペアー」の伊藤君も来ていた。全国労山の中では今や北海道がトップレベルである。それに引き換え兵庫労山は、、、、。井上も良い刺激を受けたことだろう。

 

1074時半起床。上田の風邪が悪くなっており、彼はテントに居ることになった。井上と二人でツルベで登ることにした。今日の天気は快晴で心配なし。小滝川に下り、チロリアンブリッジのある手前で井上が嵌り、玉井は自信がなかったので渡渉となった。北海道の長水―安藤パーティーは1ピッチ目を登り始めていた。取り付きはチロリアンの左岸側にある石の左、ルンゼ状で砂が堆積したところである。0650分、井上リードで登攀を開始する。以下奇数ピッチは井上、偶数は玉井がリードした。

1P:V 草付きバンドをトラバース気味に左上、ボルト1本のみ。岩に土が乗っているので要注意。ツゲの木?のようなブッシュでランニングビレーが取れる。

2P:W−出だしの小垂壁は少し難しい。バンドをトラバース、残置支点なし。

3P:X+ スラブから凹角をクラック沿いに、カムが使える。ビレー点にペツルが1本あり安心!

4P:W− 凹角から残置ハーケンありでスラブを少し下る。易しいバンドを右上。ここもビレー点にペツル1本あり。

5P:X ハング下に沿ってスラブをトラバース気味に左上。ガバカチ。

6P:X 急な凹角を登り右手の梅干岩の上から右へトラバース。ハンドトラバースも出来るガバあり。残地のスリングがあるが、動くハーケンに掛かっているので要注意。(北海道のパーティーは5〜6ピッチを一気に登っていた)ここもビレー点にペツルあり。

7P:X+ カンテ左の凹角からカンテを右に越え、易しいフェースを直上するのであるが、井上はルートミスで左上して難しい岩を越えて立ち木でビレーした。(50m)

8P:X ルートミスしたので緩傾斜の浮石帯を越え、崩れそうなハングの下を登り、右に移って正規ルートに戻る。ハングの間の凹角を越えて、中央バンドを10m登り、岩角でビレー。(50m) 11時ごろ。壁の上部を見上げると北海道パーティーがパノラマトラーバースから最後の核心を登っていた。

9P:V 中央バンドを10mほど登り、右手1段上にテラス状あり。そのまた、1段上の新しいボルトでビレー。(井上はランペを勘違いしていたようだ)

10P:W ランペというが分かり難いが、ハーケンは要所にある。ビレー点には立派なペツルボルトが2本あって感激するが、もっと大事なところに使って欲しい!

11P:X  登り始めはビレー点の右手にハーケンがあるので分かる。への字ハング右のカンテから垂壁を越え、クラックとバンドを右上する。ここも2本のペツルあり。

12P:W 凹角状を登り、パノラマバンドのトラバース。バンドをホールドにする。残置支点は3本くらい。ビレー点はハーケンが数本ある。ここにペツルが欲しい。

13P:Y− 凹状のスラブを登り、右にカンテを越える。核心とあって残置ピンは多い。高度感あり。ビレー点は残置ハーケンに2本打ち足して作った。14時半頃か?

ここからブッシュ混じりの岩場を左上60m(W〜V)で左山稜に出るのであるが、我々は南壁の頭を目指して4ピッチ登り、さらにビレー無しで2ピッチ登って頭の少し下で左山稜に出た。時間はすでに16時半。おまけに下山ルートを間違えたようで25mの懸垂を5回して大岩からの下降路に出合った。ほどなくヘッドランプを点けて下る。井上は元気だが、玉井は脚が攣りそうになるほで疲れて来た。何とか1845分にキャンプ場に帰ることが出来た。上田が夕食を用意してくれていたので早速無事完登を祝って乾杯した。

 

108日 夜半から雨で本降りとなった。雨の中でテントを撤収し往路を車で帰る。大町温泉郷で温泉に浸かって松本駅で上田、井上と別れて帰途についた。

 

 10月連休山行も予定していた明星山P6南壁の左岩稜とフリースピリッツを登ることが出来た。今回はヒヤリハットとして指摘事項はなかったと考える。上田君は風邪を悪化させ、フリースピリッツが登れなかったのは残念であった。彼は左岩稜の下りが嫌だったと言っていた。雪彦山に来た時も同じようなことを言っていた。アルパインクライミングを目指すのならこんな下降路は走って下ってもらいたいくらいだ。課題として克服して欲しい。また、仕事が忙しく睡眠時間が取れないことはよく分かるが、折角山に入るのだから体調は万全で臨むように努力をしてもらいたい。井上君とは初めての本チャンのクライミングであった。ルートミスがあったが、これはトポを見て、ルートを観察すると言う経験を積むことによって解決できると考えている。この5月に大学に入ってJECCというメジャーな山岳会にも入った。今回は5級プラスや6級のグレイドを割りに余裕を持って登っており、いつの間にこんなに上手くなったのかと驚くばかりである。バイトもし、勉強もし、彼女も出来て山も行きまくっている。自分が同じ年の頃には想像も出来ないことをやっている。だから今はまだ安心すると言うより怪我をしないかとついつい心配になって来る。最後に65歳を目前にフリースピリッツが登れて本当に嬉しかった。若い仲間のお陰と思っている。出来れば来年はマニュフェストに挑戦してみたい。井上君には鷹ノ巣ハングの5.10dのピッチを頼みたい。今から予約しておくよ。

 

左岩稜を登っての感想               上田 治

明星山は、登るより下りが核心とはよく言ったものだ。今、思い返すと一番印象に残っていることは、ブッシュを掴みながら降りた樹林帯の下降だ。

106()、曇り→晴れ。ムーンライト信州で、集合地の白馬駅へ。電車から降りたら風邪気味だった。コンビニでドリンクとのど飴を買った。玉井さんの車で、テン場に向かう。テン場から岩場までのアプローチは1020分くらい。沢が増水していなければ、飛び石伝いに対岸に渡れる。河原で準備し、初日は、3人で左岩稜を登った。

1P()、上田リード。茶色に変色した岩から取付き、ブッシュを抜けバルジからバンドに上がる。朝早いと夜露で滑りやすい。浮石が多く、岩も浮いており、脆く欠けやすいので注意。ランニングは、ブッシュが豊富なので事欠かない。バルジには、残置ピトンが2〜3本ある。バルジを超え右に回りこんでバンドに立つ。ハンガーボルトの支点あり。

2P(W)、上田リード。初めは、右にトラバース。ランニングは豊富。クラックも使えるがあえて使う必要がなかった。凹角を直上し、左のバンドに上がる。ハンガーボルトの支点あり。バンドには、浮石が多い。落石注意。

3P(V、A1)、上田リード。ランペの入り口が、昨夜の雨のせいか水が滴り濡れていた。手がかりがなく、かなり苦労した。しかし、左に一歩移動すれば、岩の陰に残置ピトンが隠れていた。この1本は、ありがたかった。垂壁は、ペツルが連打されている。バンドに立つ。その先もペツルが連打されている。

4P(X+)、井上リード。本ルートの核心。岩が乾いており登りやすかった。石灰岩特有の岩肌の皺をホールドに快適に登る。終了点は、失神テラスと命名されている。名前の由来は、失神しても落ちないほど広いためか?

5P(V+)、井上リード。凹角を上がって松ノ木テラスへ。井上君は、浮石の多いバンドを伝って右にトラバースし、名前通りの松ノ木が生えているテラスでピッチを切った。ここは、ハルシオンの5P目の終了点だ。

6P(V)、井上リード(以下、同じ)。左にトラバースし、カンテを直上。ロープ一杯まで登り立ち木でビレー。7P、ガレ場のような稜線を登って、立ち木でビレー。8P、稜線からはずれ左側に巻き気味に、立ち木の下のカンテを登ってブッシュの中でピッチを切る。9P、ブッシュの中を直上し大岩に辿り着いた。大岩で、ロープを解いて一息入れた。

 

下山に取り掛かる。大岩の左を登り、凹角の下に出た。凹角の左を越え。カンテを登ってブッシュに入る。左にトラバースして大木を目指す。が、皆で迷う。後続パーティーのリーダーは、この辺りを熟知しておられ、道案内役をかってでて頂いた。ありがとうございました。下降路には、良く見ればテープが付けられている。

 

フリースピリッツを登っての感想          井上智雪

1ピッチ目からランナウト!!簡単だからこんなものかと思い、核心部にはペツルがあることを疑わない。というのも前日登った左岩稜は殆どペツルでボルトラダーもペツルだったからだ。しかし、3ピッチ目X級あるのに残置が殆ど無い。ペツルなんて見あたらない。錆びたハーケンやリングのとんだボルトすら見あたらない。こういうルートだと思い、気を入れ直して登る。途中4〜5個しか取れず、確実に信用できるのは赤のカム一個だけ!!ん〜難しくは無いが、快適な登攀とは言えない。梅干し岩のところで上からまわるのを下から行く。玉井さんから言われて、上から行こうとするが、トラバースなので、ロープが引っかかって上に回り込めない。腕が疲れてくる。殆どパンプしながらもロープを伸ばして乗り越える。昔は確実にテンションしていたが。次の両手でぶら下がってのトラバースが消耗していたのできつかった。(写真は、5P目、セカンドの玉井をフォローする井上)

中央バンドにでる手前でルートを間違えた。面白そうなスラブを登れず、やけに難しい所に来てしまった。ま〜ぁナチプロと残置で乗り越えるが、2ピッチ分登ったので5.8と5.9のピッチが全部自分に来てしまった。5.8のピッチ、そんなに難しくないが、何せ落ちれないので必死に登る。次のトラバースはフォローなので難なく越えるが、次に5.9のピッチが来る!! 最後の疲れている時には厳しい。しかもハーケンとRCCボルトだけ!!高度感抜群のフェースにクラック?に……40mあるが最初の15mが核心らしい。あそこのカチを持って……と登り方は分かるのだが、やっぱり怖い。一部A0を使い乗り越える。後は順調に越えたものの、終了点が分からず適当にハーケン2枚を打って終了点を作る。この時点で大体2時。余裕で5時には降りれるかなぁと思っていたものの、ブッシュを登り……下降路が見つからない。フリー用の靴なので足が痛い。結局、ヘッテン残業になってしまった。いつものことなので慣れている。内心苦笑いしながら降りる。なんか毎週末残業してるような気が……

玉井さんとは、初めて本ちゃんの岩でザイルを組んだが、岩を一から教えてもらった人なので、安心して登れた。玉井さんの足を引っ張らずに登れたと思うので良かった。毎週末どっかに行ってて、本ちゃんもこの夏だけで10本くらい登ってるので、初めてのX級ルートも余裕を持って登れた。先行していた北海道のパーティーは速かった。最初の簡単な2ピッチ目まではそんなに大差は無かったと思うが、3ピッチ目から難しくなると、実力の差は歴然として、ランナウトをものともせず自信を持って登る姿には凄いと思った。また、キャンプサイトでは、いろいろ面白い話を聞かせてもらって楽しかった。