白馬岳主稜登攀の報告

報告者:大杖哲司

山域:北アルプス・白馬岳

参加者:L大杖哲司、上田治

期間:2008年4月28日()〜29日()

コースタイム:

28日  二股(6:10発)→猿倉(7:50発)→白馬尻(9:40発)→

八峰(12:15)→七峰(13:10)→三峰(16:15)

29日  起床(3:30)三峰(5:40発)→白馬岳頂上(6:10着)→

白馬尻(7:45着)→猿倉(8:35着)

 

白馬駅で上田と落ち合って車で二股まで行く。予想通りにゲートが閉まっているのでここから歩き始める。下山してから聞くと、この日に開通して猿倉まで車が入れるようになったとのこと。猿倉でスパッツをつけて白馬尻へ。下山してくるパーティによると前日は天気が悪くて何も見えなかったとのこと。次に登山者に会ったのは下山する大雪渓の中だった。

白馬尻からルートは正面の急斜面にとった。ここはトレースがあると思ったが予想に反してなかった。交代でラッセルする。途中で上田に「ダブルアックスにしよう」と言うと「忘れてきた」とのこと。そのまま登り右からのトレースに合流した。白馬沢寄りの緩斜面からとりつくパーティが多いのだろうか。ここからはラッセルもルートファインディングにもあまり気を使わなくてもよくなった。上田がしんどそうだ。3月初旬に八ケ岳に行って以来山歩きをしていないので体力不足ということだった。それで大杖が終始先頭を歩くことにする。八峰付近に幕営跡があった。ここから三峰にかけて雪面を整地した幕営跡を3〜4箇所ほどみかけた。八峰から七峰にかけて木登りのピッチもあった。トレースは踏み固められているのだが雪が腐って足をとられることが何回もあった。登るにつれて杓子尾根の展望がよくなり白馬頂上への稜線も見渡せるようになった。ナイフ状のリッジもあるがロープを使うほどに雪の状態は悪くはない。姿勢を低くして注意深く歩けば大丈夫だ。上部に行くと日陰になり気温が下がってきた。それによって腐れ雪も少し締まってきたようだ。上田の体調と装備が万全でないので今日は頂上へ抜けずに幕営することにした。小さなピークが連続しているのでどれが何峰なのか判断しにくい。しかし頂上直下のピークまで行くつもりで歩き続ける。やがて頂上の雪壁が近くに見渡せるところに来た。雪面を掘って整地した跡があった。小さいので拡張して幕営地とする。ここは三峰だろうか。ここからなら雪が硬く締まっている早朝に雪壁を登ることができるだろう。

朝はできるだけ早い時間に出発したかったが、広いとは言えない稜線に幕営しているので、安全を考慮して完全に明るくなってからテントを撤収した。最初の壁は岩混じりで少し緊張する。最後の壁は完全に雪壁だ。最大斜度60度くらいか。ロープで確保されていないという緊張感はある。トレースは昨日の風によって雪で埋められているがそれと分かる。しかし硬いのでアイゼンの前爪がよく効いてくれる。ピッケルのピックを使ったローダガーポジションが有効で早く登れる。幕営地から30分で頂上に抜けた。大雪渓はシリセードとグリセードで降りる。スピードが出すぎて滑落停止態勢をとることもあった。白馬尻まで降りると登山者に何度も会うようになった。そのなかに会友の井上もいた。今から主稜に登ると言う。猿倉で休憩してから歩き始めると私たちを追い越していった軽のワンボックスカーがバックで戻ってきた。乗せてくれるという。若い男女が乗っていた。スキーで白馬に登ったがテントが故障で雪洞に泊まったとのこと。スノーボードをしたくてこの地方に昨年移住したそうだ。彼女らの親切に感謝した。

 

 

白馬岳主稜登攀を終えて

                                上田 治

快晴に恵まれ最高の白馬岳主稜を味わうことができた。白く輝く白馬岳の稜線を目指しながら、幾重にも連なった峰々を越えて行く。雪面の蹴り込みに疲れて一息入れる。白馬岳の右には、壁のように小蓮華岳がそそり立つ。その柔和な容姿から、その山頂を吹き抜ける烈風は想像できない。左に目を転ずると、杓子岳と鑓ヶ岳が仲の良い兄弟のように寄り添って聳えている。温和な杓子岳と鑓ヶ岳の険しさが対象的で面白い。見下ろす谷は大雪渓だ。どこからか人の声が聞こえてくる。後続パーティかなと思って、肩越しに背後を見る。けれど誰もいない。雪面に残された踏み跡が稜線の縁を忠実になぞっていた。写真で見た風景がそのままそこにあった。トレースを眺めて、ああ、ここまで登ってきただと、しみじみと感動する。人の声は大雪渓から風に乗って聞こえてくるのだろう。呼吸を整えて、ピッケルを刺し、アイゼンの前爪を再び蹴り込んで登る。この動作の繰り返しが頂上を踏むまで続く。一時も気が抜けない。雪面を横断する亀裂、左右が切れ落ちたリッジ、斜度のきつい雪壁。これらを超えて、4月29日午前6時過ぎ、目標の頂に立った。

反省:トレーニング不足による体力低下が最も反省すべき点だった。猿倉までの林道が閉鎖されていたため、二俣から歩いた。白馬尻に着いた時点で息が上がっていた。取り付きから稜線に上がるまでの登りが苦しかった。出だしの数回、トップを交代しただけで、その後は頂上まで大杖さんにトップを務めてもらった。

次に、登攀用ピッケルを忘れたこと。今回は、縦走用ピッケル1本だけで問題なく登れた。しかし、ルートのコンディションが悪い場合、1本より2本の方がより安全に登れる。

朝食は、出発を早くできるよう麺類がよい。レトルトの五目飯を朝飯にしたため、温める時間15分が出発時刻に響いた。5時半出発予定のところ、5時40分になった。

最後に、ザックの右肩の止め具(プラスチック)が折れてしまった。ザックの点検を怠っていた訳ではない。物は劣化により何時壊れるかわからない。アイゼンが壊れたり、靴紐が切れたりしたときのことを想定して、針金、小型ニッパ及び替え紐は、常に所持している。が、まさかザックが壊れるとは。大杖さんの手助けをかりて応急処置を施し、登攀を継続することができた。

大杖さんには、大変心配をお掛けして申し訳ございませんでした。しかし、無事、登頂できて、最も印象に残る山行の1つになりました。ありがとうございました。

 

 

 

 

まとめ

大杖哲司

今季は大杖が雪山に行けたのは3月の大山が最初だった。そこでは条件が良くて予定通りに登れたので白馬主稜に行くことに決めた。大山の後は半日のボッカが2回とアイゼントレ1回を何とかこなすので精一杯。それで本番の結果をみればあまり不足は感じなかった。しかし、それは天気がよくトレースもあったからだ。それがない場合はまったく別物である。上田も大杖も仕事の負担が大きいが、できるだけトレーニングをしたいものだ。

 「まとめ」から少し外れるが、青年の海外旅行が激減していると報道されている。JTBの調査結果によれば、その理由は第1に休暇が取れない、第2にお金がない、である。登山も似たようなものだろう。「平和なくして登山なし」と同様に労働条件や社会保障と登山も切り離せないものだ。私たちがこのような問題に関心を持ち続けることが登山のための条件改善につながるのだと思う。