アルパイン・クライミング報告(バリエーション) 2006年山行記録   ホーム

八ツ峰六峰Cフェース

〜山岳でのクライミング〜


山 域

剣岳(八ツ峰六峰Cフェース剣稜会ルート〜本峰)

日 程

2006年8月17日(木)〜20日(日)

参加者

L.大杖哲司(記)、 食糧・医療.有元眞理子、 装備・記録.井上智雪

日程詳細

17日(木)

大杖、有元:大阪19:45発JR特急サンダーバード→富山駅23:10着(仮眠)
  井上 :室堂13:10〜剣沢15:45

18日(金)

大杖、有元:電鉄富山駅5:44発富山地方鉄道本線急行〜6:34立山駅着
      〜室堂8:10〜剣沢11:30幕営〜偵察出発12:30〜剣沢15:00
  井上 :剣沢4:20〜別山5:15〜室堂7:20〜大杖・有元と合流

19日(土)

剣沢3:00〜長次郎雪渓出合4:15〜六峰Cフェース取り付き6:00
〜登攀開始6:50〜Cフェース頭10:50〜六峰の頭11:30〜八峰の頭14:20
〜池ノ谷乗越14:55〜本峰(16:35〜16:55)〜剣沢21:30

20日(日)

剣沢9:00〜室堂12:20〜大阪20:30


行動報告
18日(金)
 室堂の建物を出ると井上が待っていた。井上は高校の夏休みで昨日早朝に先発していた。剣沢で幕営し今日は立山を縦走して迎えに来たのだ。剣岳はいつ見ても雄大だ。剣沢のテントで休憩してから大杖、井上は源次郎尾根の取り付きまで偵察に行った。武蔵谷から平蔵谷の間にも沢、ルンゼがあるが地図ではわかりにくい。平蔵谷の出合には大きな岩があり目印としてわかりやすい。出合は意外に狭い。明後日に登る予定の源次郎尾根の取り付きには踏み跡があり明瞭だ。長次郎谷の入口も下流に見える。

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長次郎雪渓の登り

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夜明けの八つ峰六峰フェース群

19日(土)
 3時に出発した。星が見える。九州にある台風の動きを心配したが天気はもちそうだ。剣沢雪渓に下りてアイゼンを着けて歩いた。暗かったが長次郎谷の入口はわかった。長次郎雪渓を登るにつれて明るくなってきた。雪渓はところどころ氷化している。熊の岩が上方に見えてからも長いあいだ歩くと六峰フェース群が姿を現してきた。フェース群のこちら側には陽が射していないがCフェースは簡単に見分けがつく。雪渓からガレ場に移って登ると取り付きに着いた。すでに二人のパーティが登る準備をしていた。我々は二番目だ。最初の3ピッチは井上がリードした。この剣稜会ルートはグレードが3級程度で易しくルートファインディングも困難ではない。
問題は支点の強度と間隔だが、それを補強するトレーニングはしているので井上はうまくやるだろう。傾斜がゆるいためか残置支点が少ない。キャメロットをセットしたり登りやすいところを探したりで時間がかかっている。終了点付近からハーケンを打つ音が聞こえてきた。1ピッチ目終了点はRCCボルト1本とハーケンの残置があったが井上はさらにハーケンを打ったのだった。2ピッチ目と3ピッチ目も時間はかかり理想的なルートどりとは言えないが初めてのホンチャンとしては許容範囲と言えよう。3ピッチ目までの終了点は3人が立てるほどに安定している。4ピッチ目からは大杖にリード交替。ここはナイフリッジで高度感がある。切れ落ちた壁の向こうに雪渓も見えて雄大な景色を楽しみながらの登攀となる。中間支点は相変わらずハーケンだ。新しく残置されたものもある。5ピッチ目でルートの終了だ。登攀に4時間かかった。確保支点作りに時間をかけたことも影響した。幸い他パーティは少なく自分達のペースで登れた。源次郎尾根で懸垂下降する人が観察でき、その向こうには剣沢のテント場も見えている。後続パーティ2人が追いついてきた。昨日に剣御前小屋前で会ったパーティだ。昨夜は真砂に泊まって、今日は三の窓に行くという。

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早朝のアタック

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リードする井上

 我々はここから八つ峰と北方稜線を縦走して剣沢に帰るのだ。六峰の頭で先行パーティ4人が懸垂下降している。われわれが懸垂下降してロープを回収しようとしたが落ちてこないので半分以上を登り返して回収した。岩角の摩擦が原因のようだった。その後は七峰のとりつきに行くと上部にいる先行パーティ4人から大きな落石があった。あんな落石の直撃を受けたら体がつぶれてしまうだろう。幸い離れていたので影響はなかった。この登りはなるほど浮石ばかりのようで注意深く登った。この登りで学生の3人パーティが追いついてきた。先行4人パーティは不慣れなメンバーがいるのかクライミングダウンするところを懸垂下降し、登りも極端に時間がかかっている。このあたりから順番は学生3人、われわれ、4人パーティの順で行動した。七峰の下りは短い懸垂下降とクライミングダウンで狭いコルに下りた。ここから八峰への登りの出だしはザックをかついだままでは登れないと判断し吊り上げた。ここは大杖、井上は確保なしで登った。有元はロープで確保しテンションがかかった。ここを突破すると容易な登りで八峰に着いた。ここから八つ峰の頭はすぐだった。ここからクライミングダウンし池ノ谷乗越で休憩した。学生はここから長次郎雪渓を下っていくという。
この時点で日没までに剣沢に帰るのはあきらめた。ここからまた2級程度の岩場が続いているのを登った。ガスで視界が悪くなっていたのでルートファインディングに注意が必要だった。一箇所はコンパスで方向を確認して進んだ。大杖は20数年前の夏にここを歩いているのだがルートがずいぶん変化しているように思えた。当時は視界が良かったこともあるがルートファインディングに苦労した覚えがなかった。若い男女2人のパーティが追いついてきた。チンネから剣沢に戻るという。彼らは往路にここを通っているのでルートを把握していた。岩稜をまき小ルンゼを登下降しガレ場の斜面を横断したりで彼らの後についていく。が、彼らも何度か迷う有様だった。協力してルートをみつけた。本峰に着いた時は出発から14時間近く経過していた。前剣と一服剣の間のコルで休憩したときに日が暮れた。井上は「疲れた、腹減った」を連発するようになった。大杖も疲れたのでゆっくり慎重に下った。ライトをつけて剣山荘の灯火を目指して歩く。剣山荘をすぎてようやく剣沢雪渓に着くと目印のあるルート付近は雪渓に穴があいている。これでは渡れない。暗闇のなかで上流と下流の状況を観察した結果、上流に渡れるところを見つけて渡った。トレースはなかった。これで30分を消費した。テントに戻ったのは21時30分だった。18時間30分の行動になってしまった。こんな長時間行動は初体験だった。帰幕が遅くなったことで明日の源次郎尾根登攀を中止し1日早く下山することを決めた。

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長次郎雪渓

 Cフェース剣稜会ルートを登るのはあまり問題なかったが、そこから八ツ峰と北方稜線の縦走は危険がいっぱいだった。基本的にはロープによる確保なしで登山靴で岩を登下降する。おまけにザックは重い。落石・浮石に気を使う。ルートファインディングが求められる。長時間行動で疲れてくる、等々。心して行くべきところだが、雪と岩と空を見ながらの周遊は印象に残るものだ。

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フォローする有元

有元の感想
 荷物は持てない、岩はリード出来ない、手足は痛い、突然体調異変に。こんな私でもメンバーに入れてくれるという仲間がいて、久しぶりに本ちゃんの岩登りに行けた。それも大好きな剣だ。この3年間、雨にたたられまともな登山が出来なかったが、今回はお天気にも恵まれた。

 八ツ峰Y峰Cフェースの剣稜会ルートは本ちゃんの岩が初めての井上にはいいルートだった。あれこれ言いながら登る井上を見ていると、自分が始めて本ちゃんでリードした時のことを思い出す。剣だった。ビレー点が見つからず大騒ぎしたり、登るより下降路が怖かったり・・・。そして岩登りの魅力を知った。
 井上も大杖も原則的な登りに徹した。スピードより安全な岩登りを実践した。私の時にはカムやナッツは持っていなかった。二人ともこれらを駆使して支点を補強する。井上はハーケンを打つ音も楽しんでいた。登り終えたのは11時。この時間から本峰を越えて剣沢のテン場へ戻るとなるとかなり遅くなる。井上とコルから帰るのかな?とおしゃべりしながらリーダーの大杖を迎える。
 大杖は迷わず八ツ峰縦走へ向かう。夏の八ツ峰は予想以上に手強く時間がかかった。Y峰の懸垂でザイルが回収出来なかった。大杖が登り返した。巻き道を取らずに積極的にザイルを出して八ツ峰の縦走を終えて、北方稜線へ。こちらは巻き道ばかりになっていてこれまた時間がかかった。本峰からテン場までの長いこと。剣沢の小屋はあんなに高いところにあったのか?小屋の灯は距離は近づくがどんどん高くなる。

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3ピッチ目終了点にて

ヘッドランプをつけての岩場の下りは本当に分かりにくい。終始大杖がトップで慎重に下る。剣山荘が工事中で道が分からない。丁度窓から顔を出していた人に道を聞くと、目印の旗ざおをライトで照らして呉れた。雪渓を1つ渡る。2つ目の雪渓のトレースに穴ぼこがあいている。これは無理だな。大杖は「ここで待っといて」と言って上流へ行ったり下流へ行ったりして諦めずに渡れる場所を探している。
 井上と岩に寝転がって待つ。空には満点の星。「天の川ってわかる?」「そこの白っぽいとこ違う?」視力が悪い私にもぼんやりと見える。「やっぱり、そやな。星が多すぎてどれがどれがわからへんな」「北斗七星がわかったらな」「それもわからへん」「ここでビバークやな」「それでもええけど、ちょっと寒いな」「雪渓のそばはあかんよ」
大杖が戻り、行けそうなところを見つけたと言う。自分が空荷で行ってみるという。「大杖さんは探検部やからな」無事対岸に到着。大杖の指示に従って距離をあけて無事渡り切る。それからひと登り。テン場に到着。
 いつもチョコチョコ動き回る井上がへたり込んでいる。余程疲れたのだろう。食事もせずに眠ってしまった。長時間の行動になった。それもかなりの荷物を担いでだ。岩登りを終えてからは私のギアーも担いで呉れていた。
 今回の山行は大杖の積極的なリーダーシップと井上のフォローがあって成功した。もう一つの目的だった源次郎は登れなかったが本ちゃんの岩登りの多くのことが経験し、目標を達成出来た。

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4ピッチ目のナイフリッジ

井上の感想
 荷物は30kgを超えた荷物と一人での行動、それに天気がかなり悪い。ガスがかかって、視界もかなり悪い。室堂を出て雷鳥沢までは殆ど登りが無く快調に行くが、途中で大日岳の方から雷の音が聞こえてくる。かなり怖いが、観光客は何とも思っていないらしくなんだかんだ言いながら先に進んでいる。雷鳥沢でテントを張ることを考えるが稜線を歩くことは無いので様子を見ながら先を急ぐことにする。急がないといけないのは分かっているが、最初からスピードが上がらず苦労する。30分で休憩で、その後は15分ずつで3分程休憩する。荷物がかなり影響する。何とか剣御前に到達するが、心配していた雷は無く15分程休憩する。小屋に泊まっているおじさんたちと話していると、ビールを勧められるがさすがに断る。高校生と聞いて荷物の大きさと共に驚いていた。 剣沢まで急いで15分で到着する。ヘトヘトになりながらも、テントは風が無くてすんなりと張れた。水を汲みに行くとぽつぽつ雨が降り出してじきに雷雨になった。ぎりぎりセーフだった。二日目は三時半に起床。四時二十分に行動を開始する。室堂に七時二十分に到着でちょうど3時間で立山を縦走した。4年前はかなりきつかったのだが・・・・。

 室堂で大杖さんたちと合流。荷物が軽いのと一緒に行く人がいるので快調に雷鳥沢を登り剣沢に到着。19日は2時前に人の足音で目が覚める。朝食を急いで摂る。剣沢に下る時に何度か道を失う。前日に下見をしていたが、暗いと感じが全然違う。下見をしていて良かった。基部でルート図を確認するように言われるが、もってきていなっかった。装備ばかりに気がいき、普段からルート図を見ないので思いもよらなかった。
 初めてのルートをリードして、ルート図を見てもあんまり分からないが、それで岩の感じをつかまなければいけないと思った。Cフェースは登ること自体はかなり易しかったが1ピッチの1ピン目をとった所からルートを間違えてしまう。残置ハーケンが無くカム、ナッツを使いながら登るが、かなり間隔が開いてしまう。辛うじて終了点に到着するが、ハーケンの状態が良くないと思い、一本打ち足す。カム、ナッツ、ハーケンの使い方をしっかり練習していて良かった。2、3ピッチ目とも一部ルートを間違うが、快調にリードできた。ルートファンディングは難しい。最も簡単なところを登れば良いと言うがどこも簡単に思えてしまう。ある意味堡塁の成果か??
 4,5ピッチはフォローで快適に登る。ピークに到着して登山靴に履き替えるが、わりとシビアで緊張するクライミングが連続する。Cフェースより難しく感じる。八峰を越えて北方稜線に行くとクライミングと言うよりは、ガラ場の連続であんまり面白くなかった。八峰から2時間ちょっとで剣岳に着いた。日没までに到着できないと思っていたので拍子抜けした。剣に着いたので後は下るだけでテントに着いて寝るだけで余裕と思いきや大間違いだった。前に行ったときは何とも無かったが、意外とアップダウンがあってしんどかった。特に、前剣を下りた辺りから大杖さんと有元さんの後に着いていくのがやっとという状態だった。とにかく、寝不足?でしんどくて、リードしてくれる人がいなければ確実にビバークしていたと思う。剣山荘に着いてからも、テントはかなり遠く途中の雪渓で渡れなかったりと、なかなか時間がかかり、ますます疲労と睡魔が増してきてよくもまぁ歩けたなぁと思った。今までで一番きつくて、限界ギリギリだった。

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 最後に、わずかですが、クライミングの様子をご覧いただきましょう!
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Animation





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