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   <TITLE>Buccaneer</TITLE>
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<P><CENTER><B>Buccaneer</B></CENTER></P>

<P><CENTER>海賊ダッザの女房、嘆きのヴェルドレ。
</CENTER></P>

<P>
<HR>
<BR>

「大人しくしろって。手当てしてやるからよ」<BR>
本当にツキのない…。<BR>
下卑た男たちの声を聞き、女はそう思った。<BR>
<BR>
今から数日前、女は夫を殺されていた。<BR>
そして今日、その仇討ちにも失敗し、重傷を負わされた。<BR>
激情を抑え、貴重な転移石を使って逃げてきたばかりだというのに、<BR>
今、その逃げた先…アウトローが集まる港街、オミシュの郊外で、<BR>
海賊たちに目をつけられてしまったのだ。<BR>
全く、自らの不運を呪わずにはいられなかった。</P>
<P>
「ほらほら、今にも倒れそうじゃねえか」<BR>
「近寄るな…ッ！」
にじり寄ってくる海賊たちに向かって、女が槍を振り回す。<BR>
つい先刻まで海賊たちの同類を従えていた彼女は、<BR>
彼らがかける甘い言葉の裏にある真意を見抜いていた。<BR>
「危ねえ！ このアマ、下手に出てりゃ付け上がりやがって…！」<BR>
海賊の１人が剣を抜き、振り上げた。その瞬間、轟音とともに、金属を叩いた衝撃音が響く。<BR>
海賊の手を離れた剣が回転しながら宙を舞い、弧を描いて地面に突き刺さった。</P>
<P>
「おいおい、女１人に何人がかりだよ。それでも海の男か、情けねえ」<BR>
少し離れた場所から、しわがれた声がかけられた。見れば、<BR>
派手な赤い鍔付きの帽子に、同じ色のコートを羽織った老年の男が立っている。<BR>
構えた銃の先からは硝煙が流れ出ており、<BR>
どうやら老人の放った弾丸が、海賊の剣を弾き飛ばしたようだった。</P>
<P>
「ぶっ殺すぞジジイ！」怒号とともに、海賊たちが一斉に剣を抜く。<BR>
「ハハハッ、オレがジジイならお前らは小僧もいい所だ」<BR>
せせら笑いに激昂した海賊たちが、老人に襲い掛かった。<BR>
そんな海賊たちの斬撃を、老人は軽くいなし、次々と斬り伏せていく。<BR>
ばたばたと倒れる仲間の姿を目にし、海賊たちが怯んだ。<BR>
「く、くそッ！」<BR>
「ハハハッ、怪我で済むうちに女を諦めたほうがいいかもしれんぞ！」<BR>
自身の勝利を疑っていない老人の台詞を聞いて、女は急に瞼が重くなった。<BR>
意外な助太刀によって敵の数が減り、無意識のうちに安心したのだろうか。<BR>
ダメだ、隠れ家に辿り着くまで、気を失っては…。<BR>
そう自分を叱咤するのだが、今日は血を失いすぎた。<BR>
すぐに瞼が視界を完全に覆い、女の意識は闇の中へと落ちていった。</P>
<P>
女が気がつくと、ベッドの上だった。<BR>
ゆっくりと上体を起こし、辺りを見回す。<BR>
「ここは…」<BR>
「お目覚めか」ソファに腰掛けていた赤い服の老人が、声をかけた。<BR>
「助けてくれたんだね」<BR>
女の問いに、飄々と老人が答えた。<BR>
「ま、そういうことになるんだろうな」<BR>
「この手当ては、爺さんが…？」<BR>
腕や体に巻かれた包帯を見て、女が尋ねる。<BR>
「ああ。裸を見られたからって文句を言うなよ、<BR>
そもそもこの家には誰も入れるつもりはなかったんだ。<BR>
宿屋が血塗れのお前を入れるのをイヤがりやがったから、仕方なくここに運んだんだからな。<BR>
この街にはまともな医者なんて居やしねえし」そう言って、老人は酒瓶を煽った。<BR>
「命を助けられたんだ、裸を見られたくらいで文句なんて言いやしないよ…」<BR>
女は、再び横たわった。<BR>
「そいつは何よりだ。で、お前さんはどこの誰で、どこへ行くつもりだったんだ？<BR>
言いたくなければ言わなくても良いが、<BR>
オレのベッドを占拠している以上、それなりの事情は聞かせてもらいてえな」<BR>
「あたしはヴェルドレ。ダムサ砦の海賊ダッザの女房って言えば分かるかね…」<BR>
女は、自分の素性を正直に告げた。<BR>
溢れ者の集まるこの街では、自分の過去を偽る必要はない。<BR>
「おうおう、ダッザか、聞いたことあるぜ。今、売り出し中のヤツだな。<BR>
派手にやってるらしいじゃねえか」老人が眉を上げた。<BR>
「それも何日か前までの話さ。賞金首を殺ろうとして、逆に殺られちまった…」<BR>
「そうか…ま、殺るか殺られるかの世界だからな。で、行く当てはあるのか？」<BR>
「…ダムサ砦を根城にする前は、この近くの洞窟に隠れ家があったんだけど…今もまだ使えるかどうか…」<BR>
「そうか。じゃあオレが明日見て来てやるよ」<BR>
礼を言おうとして、相手の名前をまだ聞いていないことに気づき、ヴェルドレは尋ねた。<BR>
「爺さん、あんた、名前は？」<BR>
「オレか。オレはディエゴだ」<BR>
「ありがとうよ、ディエゴ…」<BR>
「いいってことよ」<BR>
老人の返事を聞きながら、再びヴェルドレは眠りに落ちていった。</P>
<P>
「ダメだった。地下水脈の流れが変わって水没したようだ」<BR>
翌日の夜、ヴェルドレから隠れ家の場所を聞き、様子を見に行ったディエゴが言った。<BR>
「そうか…」行き場をなくして意気消沈したヴェルドレが呟く。<BR>
「ま、歩けるようになるまではここに居てもいい」<BR>
「すまないね」ヴェルドレは、ディエゴの好意に対して素直に感謝した。<BR>
「せっかく助けたのに、野垂れ死なれたんじゃあ助けた意味がねえからな」<BR>
「あたしが腹ボテでなけりゃ、あんたに抱かれてあげられたんだけどねえ」<BR>
ヴェルドレが、少し膨らんだ自分の腹をさすると、ディエゴは肩をすくめた。<BR>
<BR>
「お前がオレの好みじゃないのが残念だよ」<BR>
「言ったね！」ヴェルドレが枕を投げつけようと構えると、ディエゴが手で顔を庇った。<BR>
「命の恩人になんて態度だ！」<BR>
「あたしはね、こう見えても貴族のお嬢様だったんだよ」ヴェルドレは鼻を鳴らす。<BR>
「ハハハッ、お前がお姫様ならオレは伝説の海賊だな」ディエゴが混ぜっ返した。<BR>
「あたしゃ真面目に話してるんだよ！」再びヴェルドレが枕を抱える。<BR>
「落ち着けって。お腹の子に良くねえぞ」ディエゴがなだめると、ヴェルドレは枕を下ろした。<BR>
<BR>
「母親は王子の世話をしてたんだけど、事故で王子が死んじゃってね。<BR>
それで暗殺じゃないかってあたしたちの家族は疑われた。そのせいで、身内でも色々もめたんだ。<BR>
あたしはそんなしがらみがイヤになって、家を飛び出したのさ」<BR>
「へええ、じゃあ今の戦争は元はと言えばお前の親のせいってわけだ」<BR>
「事故だったって言ってるだろ！ …ッ」傷の痛みにヴェルドレが脇腹を押さえる。<BR>
「そうカッカするなって、傷が開くぞ」<BR>
「誰が怒らせてる！」<BR>
「まあまあ。話の続きを聞かせろよ」<BR>
ディエゴに請われ、ぷりぷりしつつもヴェルドレは続けた。<BR>
<BR>
「旅の途中で、乗ってた船が海賊に襲われた。<BR>
あたしは木箱の中に隠れたんだけど、海賊は積荷を全部奪ったんだ。<BR>
それで、木箱に入ってたあたしも一緒に持って行かれちまったのさ。<BR>
その海賊たちの頭領が、ダッザだったというわけ」<BR>
「で、それがなんでダッザの女房に収まったんだ？<BR>
王子が死んだのは15年以上も前の話だろ。<BR>
逃げ出すチャンスなんていくらでもあったろうよ。<BR>
それともなにか、ダッザってのはそんなにいい男だったのか？」<BR>
「どうしてかねえ…顔だってそんなに良くはなかったんだけど…。<BR>
優しかったからかねえ…命を助けてくれたし、乱暴もしなかったし…」<BR>
ぼんやりとヴェルドレが言った。<BR>
「おいおい、それじゃまるでオレみてえじゃねえか。<BR>
おっと待った、だからってオレに惚れるなよ」<BR>
「そうさね、あんたが本当にアゼルスタンなら考えてやってもいいよ」<BR>
バカにしたようにヴェルドレが目を細めて言うと、ディエゴがまた軽口を返した。<BR>
「そうか、それじゃお互いのために良かったな、ハッハッハ！」<BR>
ディエゴの顔に、枕が命中した。</P>
<P>
それから月日が過ぎ、歩けるまでに傷が癒えると、<BR>
ヴェルドレはディエゴの勧めに従って、酒場に住み込んで働くようになった。<BR>
大きな腹を抱えて海賊稼業を働くわけにもいかなかったからだ。<BR>
荒くれ者をまとめていたヴェルドレは、気風の良さで、すぐに周囲とも打ち解けた。
<BR>
尻に手を伸ばす助平親父を叩いて怒鳴りつけたり、テーブルに花を飾ったり、<BR>
膨らんだ腹を見て近づいてくる老婆と談笑したり、<BR>
残り物を、口が利けない少女を始めとする、孤児たちに分け与えたり。<BR>
こんな生き方もあるんだなと、ヴェルドレは新鮮な思いだった。</P>
<P>
そんなある日、ヴェルドレは、実はディエゴが伝説の海賊アゼルスタンであり、<BR>
神竜騎士団に参加したという噂を耳にした。<BR>
切っ掛けは唖の少女の死であったことや、<BR>
自らへの復讐として幼い娘を殺された彼が、世を儚み、隠遁していたことも。</P>
<P>
ディエゴの正体を聞かされても、あまり驚きはなく、<BR>
むしろ、ああ、やっぱり、という気持ちの方が強かった。<BR>
ディエゴの銃や剣の腕を見れば只者ではないことは分かったし、<BR>
ふざけながら話す冒険譚にも、どこかしら真実味があった。<BR>
夫を殺した神竜騎士団にディエゴが加わったのは複雑だったが、<BR>
隠棲していたにも関わらず、またも自分のために幼女が殺されたとあっては、<BR>
ディエゴが選べる道は他にはもうないようにも思われた。<BR>
そしてヴェルドレは、身寄りのなかった少女の冥福を祈った。<BR>
</P>
<P>
やがて臨月を迎え、ヴェルドレは産気づいた。<BR>
幸い、親切な酒場の女将が、初産だったヴェルドレを励まし、何くれとなく世話を焼いてくれた。<BR>
ヴェルドレの子は、娘だった。かくしてヴェルドレは、孤独ではなくなった。<BR>
それが愛情なのかは分からなかったが、娘を抱いていると、不思議と心が穏やかになった。<BR>
この娘が頼れるのは自分だけなのだと考えると、守ってやらねばという気持ちになるのだった。</P>
<P>
娘の誕生からしばらくして、ヴァレリア島は統一され、<BR>
ディエゴがオミシュに帰ってきた。<BR>
だが、以前から患っていた胸の病が悪化し、
先は長くないということだった。</P>
<P>
義理人情に篤いヴェルドレは恩返しの意味を込めてディエゴを看病したかったが、<BR>
彼の周りには、少数ながらも、常に王立騎士団がいた。<BR>
統一戦争の功労者であるアゼルスタンには、王国から警護を兼ねた世話係が宛がわれていた。<BR>
元海賊のヴェルドレが王立騎士団に捕まれば、縛り首に処される可能性もある。<BR>
ディエゴの家が町外れにあり、王立騎士団が酒場までやって来なかったのは不幸中の幸いだった。<BR>
<BR>
幼い娘のためにも、ヴェルドレは危険を冒すわけにはいかず、<BR>
見舞いにも行けないまま時が過ぎていく。歯がゆくはあったが、それでも、<BR>
様子を見に行くという知人に差し入れの品を渡すよう頼むのが精一杯だった。<BR>
後日、その知人からは一言、「すまん」とのメッセージを預かったと伝えられた。<BR>
<BR>
それからそう日を置かず、ディエゴが逝った。<BR>
結局ヴェルドレは、最期までディエゴと会えなかった。<BR>
せめて葬儀にだけでも出たかったが、葬儀を執り行うのはやはり王立騎士団だった。<BR>
王立騎士団の中核を担う神竜騎士団に敵対した身では、参列は難しく、<BR>
できることと言えば、参列するという知人に手向けの花を預けることくらいだった。</P>
<P>
そして、葬儀を翌日に控えた日の夜、ヴェルドレの部屋を尋ねる客が現れた。<BR>
用心のためにドアチェーンをかけたヴェルドレは、わずかに扉を開けた。<BR>
その隙間から、まだ少年と言ってよいほど若い男が声をかけてきた。<BR>
「あんたがヴェルドレか」<BR>
「人様に名前を聞く時はまず自分から名乗るもんさね」<BR>
ヴェルドレの返答を聞き、少年はやや緊張しつつ口を開いた。<BR>
「そうだな、すまない。オレは…ヴァイス。ヴァイス・ボゼックだ」<BR>
「！」<BR>
「名前くらいは知っているようだな」<BR>
名前を告げても襲われなかったことに、少年は少し安堵したようだった。<BR>
<BR>
「解放軍のナンバー２だね」<BR>
「今はヴァレリア王立騎士団だがな」<BR>
「何の用だ」<BR>
「心配しなくていい。あんたに危害を加えるつもりはない」<BR>
「ひとの亭主を殺しておいてよく言う！」<BR>
声を荒げたヴェルドレをなだめるように、ヴァイスは片手を上げた。<BR>
「もっともな言い分だ。だが、<BR>
アゼルスタン…ディエゴがオレたちと一緒に戦ったことも忘れないでくれ」<BR>
「…」命の恩人の名前を出されて、ヴェルドレは押し黙った。<BR>
「ディエゴが伝説の海賊アゼルスタンだったってことは知ってるか？」<BR>
「ああ、噂を聞いたよ」<BR>
「本当のことだ。明日、アゼルスタンの葬儀が行われる。あんたも参列してほしい」<BR>
「誰があんたらと!!」ヴェルドレは眦を吊り上げたが、ヴァイスは静かに言った。<BR>
「死者を悼むのに敵も味方もない。オレたちはそう思っている」<BR>
「…」疑惑の色が濃い視線を向けるヴェルドレに臆せず、ヴァイスは続けた。<BR>
「あんたの亭主はクァドリガ砦に葬った。あんたが望むなら案内もしよう」<BR>
「！」ヴァイスの言葉に、ヴェルドレは衝撃を受けた。<BR>
「ともあれ、今はアゼルスタンの葬式だ。<BR>
明日の朝、３時課の鐘の後から始まる。話はそれだけだ」<BR>
そう告げると、少年は去っていった。</P>
<P>
迷いに迷ったが、翌朝、ヴェルドレは、葬儀へ足を運んだ。<BR>
参列者には女が多く、そこらかしこですすり泣く声が聞こえた。<BR>
軽薄なようでいて、面倒見の良かったアゼルスタンは人望があった。</P>
<P>
昨夜の少年の姿を探すと、神竜騎士団の団長であり、夫の仇でもあるデニムのすぐ隣に居た。<BR>
ダッザの墓の在り処について尋ねたかったが、王国のVIPだけあって警備は厳重で、<BR>
罪状持ちの自分が捕らえられたときのことを想像すると、近づくのがためらわれた。</P>
<P>
司祭の説教が終わると、アゼルスタンの棺は遺言通り、オベロの海に沈められた。<BR>
ダッザのことはひとまず置いて、ヴェルドレは、アゼルスタンの永遠の安息を祈った。<BR>
</P>
<P>
こうして式は終了し、ヴェルドレはついぞ、ヴァイスと話す機会を得られなかった。<BR>
</P>
<P>
その夜、再びヴェルドレの部屋を訪れる者があった。<BR>
誰が来たのか予想は付いたが、ヴェルドレは尋ねた。<BR>
「誰」<BR>
「オレだ。ヴァイスだ」<BR>
「何の用だ」<BR>
「入れてくれないか。話があるんだ」<BR>
「用件を言え」ダッザの墓について聞きたかったが、それでもヴェルドレは警戒を解かなかった。<BR>
「少し込み入った話なんだ。でも、悪い話じゃない」<BR>
「…」<BR>
「頼む。入れてくれ。あんたを捕らえるつもりならいつでもできた。そうだろ？」<BR>
「…」ヴェルドレは疑念を抑えきれなかったが、ヴァイスの言葉には道理を感じた。<BR>
娘が眠る揺り篭を部屋の角へと押しやり、ナイフをガウンの帯に差し込むと、<BR>
ドアを開け、間髪入れずに揺り篭の前に立つ。<BR>
「で？」<BR>
ヴァイスが少しでも妙な仕草を見せれば、喉笛にナイフを突き立てるつもりでいた。<BR>
<BR>
「そう殺気立たないでくれ。<BR>
この街は安全とは言い難いから剣を佩いてきたが、ほら、この通り、渡すよ」<BR>
そう言ってヴァイスが差し出した剣を、ヴェルドレは素早く受け取った。<BR>
「それで」<BR>
「ちょっと長い話になるから、座らせてもらうぜ」<BR>
ヴェルドレの催促を聞き流し、ヴァイスは勝手にソファに座った。<BR>
「次はないぞ」<BR>
怒気をはらんだヴェルドレの言葉に、心底呆れたようにヴァイスが口を開いた。<BR>
<P>
</P>
「分かった分かった。オレがあんたに会いに来た理由は３つある。<BR>
１つ目は、オレがあんたの亭主との戦いには参加していなかったこと。<BR>
その頃オレは、デニムと反目していたからな。<BR>
つまり、王国は、一度敵対した者でも受け入れる用意があるということだ。<BR>
２つ目は、あんたも海賊だったなら知っているだろうが、<BR>
この辺りの海流はほとんど南洋に向かっていて、<BR>
この街とほかの街との行き来にはゴリアテを通過しなければならない。<BR>
そして、ゴリアテの次期領主はこのオレというわけだ。<BR>
海賊の跋扈するこの街を放置してはおけないのさ。<BR>
そして３つ目…これが最も大事なんだが、<BR>
オレが、アゼルスタンの一番の戦友だったということだ」<BR>
<BR>
「ディエゴの…？」<BR>
老人と少年が剣を並べる姿を想像して、ヴェルドレは少し言葉を和らげた。<BR>
「そうだ。まあ、アゼルスタンはある意味オレの師匠と呼べるのかもしれん。<BR>
それでだ、自分の死期を悟った爺さんは、今後のことを考えた。<BR>
そして、あんたやオミシュのことを、オレに託したというわけだ」<BR>
「…どういうことだ」<BR>
「オレは爺さんから、海賊にさらわれた、王子の世話係の娘について調べてくれと頼まれた。<BR>
調べてみると、確かにそんな事件があった。<BR>
それを爺さんに伝えると、爺さんはあんたのことをオレに教えたんだ。<BR>
親と別れて育ったあんたが、亭主の仇を討とうとして返り討ちに遭い、<BR>
今はオミシュにいるってな。そこで寝ているあんたの赤ン坊と一緒に」<BR>
「それで？」<BR>
「単刀直入に言おう。あんたに、この街の領主になってほしいんだ」<BR>
<P>
</P>
「なに？」ヴァイスの言葉は、ヴェルドレの想像外の内容だった。<BR>
「知っての通り、この島はヴァレリア王国として統一されたが、復興はまだ進んでいない。<BR>
無論、復興には金が要るんだが、そのための資金を捻出する方策の１つとして、<BR>
バルバウダ大陸との南方貿易の再開が挙がったんだ。<BR>
そして、南洋へ出やすいこの街は、輸出の中継基地としてうってつけというわけだ。<BR>
だがこの街にはならず者が多く、商人たちが進出に二の足を踏んでいる。<BR>
それで、王国はこの街に秩序をもたらすことに決めたのさ」<BR>
「…それとあたしに何の関係がある」<BR>
ヴァイスの説明を咀嚼しつつ、ヴェルドレが訊ねた。<BR>
<BR>
「この街の無法者が、王国の法を大人しく受け入れるとは思えん。<BR>
場合によっては、血が流れるかもしれない。いや、ハッキリ言えば、<BR>
血の気が多く、ほかに行き場のない海賊たちとは、まず間違いなく戦いになるだろう。<BR>
だが、王国としてはそれは避けたいんだ。<BR>
そこで、あんたの家を再興して、あんたをこの街の領主に封じる。<BR>
あんたは元貴族で、名の売れた海賊の女房でもあった。<BR>
断絶したはずの家系に、後継者の生存が確認されたので再興するってことなら、<BR>
利に聡い他の貴族たちへの言い訳も立つ。<BR>
この街の住人にすれば、余所者の貴族に支配されるよりは、<BR>
あんたに統治されたほうがマシだろう。<BR>
そこらのゴロツキを取り立てるなんてのは論外だ。<BR>
そうだな…言ってみれば、あんたはこの街にとってのベルサリア王女というわけだ」<BR>
<BR>
「…あたしに、お前たちの駒になれというのか」<BR>
「そう捉えられるのも無理はない。だがな、これはアゼルスタンの案なんだ。<BR>
そして、オレたちはそれに乗るつもりでいる。<BR>
いずれにせよ、この街をこのままにしておくわけにはいかないしな。<BR>
気の荒い海の男を束ねていただけあって、アゼルスタンの人を見る目は確かだった。<BR>
あんたも海賊どもを率いてたんだろ？ 酒場での評判も上々だし、何より美人だ」<BR>
「調べは済んでるというわけだ」<BR>
ふざけたようなヴァイスのお世辞を無視して、ヴェルドレは言った。<BR>
「そりゃ調べもするさ。未来の重要拠点を任せようっていうんだからな」<BR>
「…さっき、家の再興と言ったな。あたしの一族はどうなった。皆死んだのか」<BR>
ヴェルドレの問いに、ヴァイスは声の調子を落とした。<BR>
<P></P>
「…そうだ。あんたの両親は政争で謀殺された。王子の死の責任を取らされたんだ。<BR>
爵位を継いだ叔父は反政府ゲリラとの戦いで戦死した。<BR>
そして、その跡を継いだ娘…あんたの従妹、ミモザだな…も、<BR>
王子殺しという一族の汚名を雪ごうと、オレたちに戦いを挑んで…死んだ。<BR>
殺したのは…アゼルスタンだ。<BR>
だが聞けよ、そのときは彼女があんたの従妹だなんて、誰も知らなかったんだ」<BR>
「そうか…」すまん、とはそのことか。ヴェルドレは、ディエゴのメッセージの意味を理解した。<BR>
<BR>
「それとなくは聞いていたようだな」<BR>
ヴァイスの言葉に、ヴェルドレは頷いた。<BR>
ミモザとは、よく一緒に遊んだことを覚えている。<BR>
ころころとよく笑う、明るい子だった。<BR>
娘を除けば最後の血族であるミモザがディエゴに殺されたと聞いても、<BR>
怒りは湧かなかった。ただ、世の無常を思い、体の力が抜けるようだった。<BR>
「あんたがこの話を受ければ、
王子の死の責任はあんたの一族にはないというアピールにもなる。<BR>
ミモザが取り戻そうとしていた、一族の名誉も挽回できるんだ」<BR>
ヴァイスはヴェルドレの答えを待った。<BR>
<BR>
「デニムは…この話を知ってるのか？」<BR>
「勿論だ。あんたをダッザやミモザの墓へ自ら案内したいとさえ言っている。<BR>
今日の葬儀でだってあんたに話しかけようとしてたんだが、オレたちが止めたんだ。<BR>
今みたいなあんたの態度じゃ、どうしたって騒ぎになるからな」<BR>
色々な話を聞かされ、ヴェルドレの思考は錯綜しつつあった。<BR>
<BR>
「…少し、考えさせてくれ」<BR>
「分かった。だが、デニムは近々島を離れる。<BR>
それと、この街を長く放置しておくわけにもいかない。財政再建は急務なんだ。<BR>
猶予はそうないと思ってくれ」<BR>
「分かったからもう帰ってくれ」<BR>
「いいか、これだけは覚えておいてくれ。<BR>
施政のために側近は付けるが、傀儡になれというわけじゃない。<BR>
度が過ぎなきゃあんたの裁量に任せてもいい。<BR>
あんたなら海賊や孤児たちの気持ちが分かる、そう考えたからこそ、この話を持ってきたんだ。<BR>
貿易の規模が大きくなれば、水夫が必要になるし、街も栄える。<BR>
そうなれば、海賊に身を落とした奴や、大勢の孤児たちにも仕事ができる。<BR>
そしてそれは、アゼルスタンの望みでもあった」<BR>
「帰れと言ってるだろ!!」<BR>
「…分かった。良い返事を期待している」<BR>
ヴァイスが差し出した手に、預かっていた剣をヴェルドレは乗せた。<BR>
それを腰に吊るしたヴァイスは、ちらりと赤ン坊に視線をやった。<BR>
そして、ヴェルドレの目を見ると、ヴァイスは部屋を出て行った。</P>
<P>
ヴェルドレは、揺り篭の縁に両腕を付いた。<BR>
正直、何が何だかよく分からなくなっていた。<BR>
デニムたちはダッザを殺した。あたしは自分をさらったダッザを愛した。<BR>
両親はバクラム貴族に殺された。バクラム貴族はデニムたちに負けた。<BR>
そして、ディエゴはあたしを助けてくれた。でも、ミモザはディエゴに殺された…。</P>
<P>
一体誰を恨めばいいんだろう。<BR>
ミモザもあたしと同じ気持ちだったんだろうか。<BR>
世の中の誰も彼もを恨むなんて、想像するだけで疲れた。<BR>
心が麻痺してしまったのか、誰が誰を殺したのかなんて、最早どうでもよかった。</P>
<P>
ただ、この子には幸せになって欲しい…。<BR>
静かに眠る娘を見る。<BR>
どうしたらこの子を幸せにできるんだろう。<BR>
ヴァイスという少年は帰り際には何も言わなかったものの、目は雄弁に語っていた。<BR>
死んだ唖の少女ことが思い浮かぶ。<BR>
あの子の親も、自分と同じように思っていただろうか…。<BR>
戦いの果てに娘を失ったディエゴの気持ちが、その願いが、<BR>
今、急に分かったように思う。</P>
<P>
娘を起こさないよう、静かに頬ずりをする。<BR>
小さな手のひらに軽く指を添えると、柔らかく包みこまれた。<BR>
何故だか、涙が溢れて止まらなかった。<BR>
少年に返事をしよう…。<BR>
やるべきことは、１つしかないような気がした。</P>
<P>
今日までの古文書の解読によれば、港町オミシュは、ヴァレリア王国勃興期において、<BR>

バルバウダ大陸との南方貿易の拠点として大いに発展を遂げたとある。</P>
<P>
また、当時の統治者として、ヴェルドレの名が残されている。<HR>
</P>

<P><CENTER><B><A HREF="../../saga.htm" TARGET="_self">BACK</A></B>
</CENTER></P>
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