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   <TITLE>Fallen Angel</TITLE>
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<P><CENTER><B>Fallen Angel</B></CENTER></P>

<P><CENTER>愛ゆえに…。哀しき天使、ミザール。</CENTER></P>

<P>
<HR>
<BR>

吹雪の止んだ、冷たく空気の澄んだ夜。天使は煌めく星々の浮かぶ、空を見上げた。
</P>

<P>英雄の一人として天上へと昇ってきた魔導師を初めて見た時、<BR>

ミザールは、まさかこの男のために堕天する事になるとは思ってもみなかった。
</P>

<P>今から30年ほど前、ミザールが天使長として神の御座の右側に控えていた頃、<BR>

男は四人の仲間と共に天の王国へとやって来た。<BR>

その折、ミザールは天界になる木の実を携え、英雄一行に力を貸した。<BR>

彼らの行いは、聖なる父に受け入れられるものであったから。</P>

冒険の途中、魔導師は天使の長ミザールに、盛んに物事を訊ねてきた。<BR>

魔導師は世界の全てを知りたいのだと言った。<BR>

知識の探求者がそう思うのは無理なからぬ事と思ったから、<BR>

ミザールは男の問いに、自分の知っている限り、全て答えてあげた。<BR>

オウガバトルの事、天空の三騎士の事、十二使徒の事など、最早地上では伝説と化した事どもについて。<BR>

更に反逆の使徒の事、その力が封じられた禁断の魔石の事、そしてそれが、天上に保管されている事…。<BR>

魔導師を相手に、あらゆる魔道を修めた者…ドュルーダの話が上がったのは、不思議な事ではなかった。
</P>

<P>それから暫くして英雄達は見事戦乱を平定し、天使達は神の王国へと還る事になった。<BR>

が、その頃にはもうミザールは、稀代の才能を持ったこの魔導師に心奪われていた。<BR>

どうして私は、この男の生きる、この時代に生まれてこなかったのだろう…。悲しかった。
</P>

<P>地上を離れてから数年の時が流れたが、ミザールは男の事を忘れられなかった。<BR>

あの人は、今どうしているのだろう。もう、私の事など忘れてしまっただろうか…。<BR>

天にあってそう物思いに沈むミザールは、ある日、自分を呼ぶ声を聞いた。<BR>

間違える筈もない、愛しいあの魔導師の声だった。<BR>

あの人が私を呼んでいる！ミザールは、すぐに地上へと舞い降りた。</P>

<P>果たして魔導師はそこにいた。ミザールの胸は高鳴った。<BR>

逸る気持ちを抑え、何の用かと男に訊ねた。<BR>

男は微笑みながら言った。お前を迎えに来たのだと。<BR>

あの時、聖なる父は、俺とお前との契約を認めてはくれなかった。<BR>

だが、大陸に平和をもたらした今ならば違うはずだと男は言った。<BR>

涙が出るかと思った。愛する男が、自分を迎えに来てくれた！嬉しかった。</P>

<P>聖なる父は天使達に、小国の皇子と契約を結ぶ事は許したが、<BR>

この魔導師との契約は許さなかった。その言は未だ翻されていなかったが、<BR>

僧侶でもないこの男が、天使長たる自分をそうそう召喚出来る筈もない。<BR>

この機会を逃せば、次に男と会えるのは、何時になるか知れなかった。</P>

<P>この魔導師も天に昇る資格のあった者の一人。<BR>

聖なる父の教えに従って、大陸を平定した功労者である。<BR>

英雄との契約が禁忌に触れる事はないはず。聖なる父も、きっと分かって下さる…！
</P>

<P>ミザールは魔導師と契約を結んだ。老いる事のない天使と、<BR>

転生を繰り返し、齢を重ねる魔導師との契約は、永遠を約束された誓いだった。<BR>

愛し合う二人を分かつ物は、最早何もなかった。至福の時だった。</P>

<P>こうして愛に盲いたミザールは…天から禁断の魔石、キャターズアイを持ち出した。<BR>

あらゆる叡知を得たいという、魔導師の望みを叶えるためだった。</P>

<P>力自体に善悪は無く、向ける方向次第でいずれにも傾くもの。<BR>

英雄の一人である魔導師は、更なる力を手に入れ、下界の平和の為に力を尽くす。<BR>

そしてその傍らには男を支える自分がいる…。ミザールは甘く夢想した。
</P>

<P>それがどれほど恐ろしい行為か、ミザールが気づかなかったわけがなかった。<BR>

しかしミザールは、これは下界に永遠の平和をもたらす為だと考えた。<BR>

愛する男の喜ぶ顔が見たいという、自分の本心とすりかえた。<BR>

十一人の使徒が力を合わせて封印したという、<BR>

強大な魔導師の力を秘めた、禁断の魔石を持ち出す…。<BR>

大罪だった。天を逐われるのも当然の事だった。分かりきった事だった。<BR>

そしてミザールは…天の栄光に俗する事を許されなくなった。</P>

<P>覚悟はしていたが、ショックは大きかった。しかし、<BR>

神の祝福を失った代わりに、魔導師の愛を得た筈だった。<BR>

それさえあれば、他に欲しい物は何もなかった。<BR>

平和な地上に、二人で生きていければ、それで良かった。</P>

<P>だが魔石を渡すと、次第に魔導師は人が変わったようになった。<BR>

魔導師は、ミザールと二人、静かに暮らそうとはしなかった。</P>

<P>やがて魔導師が、ゼテギネア大陸にある五王国の内の一つ、<BR>

ハイランドに助力しようとしたのはまだ良かった。<BR>

ハイランドは北の大国、ローディスの脅威に晒されており、<BR>

その防衛の為に他の四王国に支援を求めたが、<BR>

それを拒絶されたばかりか、かえって攻め込まれる羽目になっていたから。
</P>

<P>しかしあろう事か、そのために魔導師が示した力は暗黒道だった。<BR>

暗黒道の力を得たハイランドは瞬く間に四王国を攻め滅ぼし、神聖ゼテギネア帝国を打ち建てた。<BR>

その間に行われた非道の数々は、目を覆いたくなるほどだった。しかし、<BR>

全てを招いたのは自分だという思いはミザールに、惨劇から目を逸らす事を許さなかった。
</P>

<P>ハイランドと共に大陸を統一した後、住まう領土を与えると言う魔導師に、<BR>

ミザールはかつて、ホーライ王国の穀倉地帯だった、バルハラ平原の統治を願った。<BR>

暗黒道に染まった帝国の手に委ねるよりは、自分が治めた方が人々の為になるのは明らかだったし、<BR>

魔導師のせいで極寒の地に暮らす事になった人々に、償いたい気持ちだった。
</P>

<P>バルハラ平原は、侵略戦争時に魔導師が禁呪、アイスレクイエムを用いた場所だった。<BR>

禁呪は本来ならば人間が用いる事の出来る代物ではないのだけれど、<BR>

ミザールが魔導師に渡した魔石、キャターズアイがそれを可能にした。<BR>

禁呪の威力は絶大で、冷気を呼び込むために歪められた時空は二十年以上経った今も修復しておらず、<BR>

そこから漏れ出す冷気は気候さえも変化させ、辺りでは、<BR>

戦争以前は年に何度か降る程度だった雪が、珍しくもなくなった。<BR>

その影響は遠く南のガルビア半島にまで及んでおり、ここバルハラ平原は、<BR>

一年を通して雪の降り積もる、永久凍土となっていた。
</P>

<P>今にして思えば、四王国がハイランドに攻め入るよう仕向けたのも、<BR>

魔導師だったのかもしれない…。ミザールは絶望した。<BR>

ミザールを天界へと連れ戻すため、多くの天使達が下界へと光臨してきた。<BR>

彼女達は、ミザールの罪を、聖なる父に取りなそうとしてくれていた。<BR>

天使長だったミザールが、天使達から受けていた信望は厚かった。<BR>

しかし今更、魔石も持たずにおめおめとミザールが天へと戻れるはずもなかったし、<BR>

例え聖なる父の許しが得られたとしても、愚かな自分にはそれを受ける資格など無いとミザールは思っていた。
</P>

<P>挙げ句、ミザールを連れ戻しに来た天使達は、帝国兵に殺されたり、<BR>

捕らえられたりしていた。中には天を舞うための翼を折られ…陵辱された天使もいた。<BR>

それを知ったミザールは、呻き苦しみ、自ら命を断とうかとも考えた。しかし、それは出来なかった。<BR>

聖なる父の教えは、それを禁じていたから。これ以上聖なる父に背きたくはなかった。<BR>

だがそれを知るからこそ、ますます捕らえられた天使達の事を思って、彼女は苦しむのだった。<BR>

どうか私の事は放っておいて欲しい。こうして生きて苦しむのも全て、自ら犯した罪への報いなのだから…。
</P>

<P>でも…私が自ら命を断たない理由は…本当にそれだけ…？ミザールは思った。<BR>

本当は、魔導師が自分の元に帰ってくるのではないかという期待があるでしょう…？<BR>

今一度、あの男の腕に抱かれたいという想いがあるでしょう？<BR>

罪深い自分を許せない。だが魔導師への想いを断ち切る事も出来なかった。
</P>

<P>人間としての命を終えた時に、忠実に神々に仕えた褒美として、<BR>

聖なる父から与えられた清らかな体も、今では穢れてしまっていた。
しかし、その事に後悔はなかった。<BR>

人であった時には得られなかった我が子の顔を見た時、これまでに感じた事のない充実感があったから。<BR>

しかしその子供も、産んでまもなく魔導師に奪われてしまっていた。</P>

<P>ああ、娘は今どうしているのでしょう…。<BR>

身を斬るような寒さの中、輝く星々を眺めながらミザールは思った。<BR>

知らなければ良かった。出会わなければ良かった…。<BR>

天の軍勢の一員であった時には、あんなに誇らしい気持ちでいられたのに…。<BR>

悩む事など何一つとしてありはしなかったのに…。知らず、涙が頬を伝った。<BR>

ラシュディ、何故貴方は私の許に帰ってきてはくれないのですか…。<BR>

貴方は私を欺いたのですか…。あの時交わした誓いの言葉は、嘘だったのですか、ラシュディ…。
</P>

<P>裏切られたという想いと、男を信じたいという想い。<BR>

しかし勝つのはいつも後者だった。</P>

<P>犯した罪を贖う事も出来ず、救われる事もなく、自ら死を選ぶ事も出来ず、<BR>

ただ男を想い続け、希望に縋り、悩み、傷つき、嘆き、苦しむ…。</P>

<P>哀しい彼女の魂が、聖なる父の御許に還るのは、もう少し時を置いてからの事である。
<HR>


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