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   <TITLE>Silent Knight</TITLE>
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<P><CENTER><B>Silent Knight</B></CENTER></P>

<P><CENTER>ダルムード砂漠出身の白騎士ミルディン。</CENTER></P>

<P><CENTER><B><A HREF="../../saga.htm" TARGET="_self">BACK</A></B>
</CENTER></P>

<P>
<HR>
<BR>

「…父上」騎士は闇に向かって呼びかけた。しかし、返事はない。<BR>

「父上」もう一度、騎士は呼びかけた。<BR>

「…一度呼べば分かる」明かりのない部屋の中で、低い男の声がした。<BR>

「反乱軍が近づいてきております」<BR>

「うむ」<BR>

「…父上」騎士は、これまで幾度となく述べた提案を、今また述べようとした。<BR>

「くどいぞ、ミルディン」<BR>

「ではどうしても…どうあっても、反乱軍と剣を交えるおつもりなのですか」<BR>

「それがエンドラとの盟約だ」ホルモズッサ城主、プロキオンは言った。
</P>

<P>ミルディンの父、プロキオンは、”西風”の称号を持つ、忍びの頭領であった。<BR>

そして、かつてオファイス王国の陰の部分を担っていたらしい。<BR>

それは有り体に言えば、諜報活動であったり、暗殺だったという事だ。<BR>

確かに、王国を統治する為には、そういった役割を果たす者は必要だ。<BR>

しかし、それは必ずしも歓迎されるものではないし、公に出来るものでもない。<BR>

こういった役目に就く者が、華やかな表舞台に立つ事は無かった。</P>

<P>「聞けば反乱軍は王道に法っており、民衆は大いに彼らを支持しているとか。<BR>

彼らならば、忍びを軽んじる事もありますまい。<BR>

戦端は既に開かれましたが…まだ間に合うはずです」ミルディンは粘り強く訴えた。
</P>

<P>ミルディンは、プロキオンの同意が得られなくても反乱軍に参加するつもりではいた。<BR>

これ以上帝国の暴挙に協力するのは、ミルディンの騎士としての誇りが許さなかったからだ。<BR>

だが、生業は違っていても、プロキオンも自分と同じ気持ちのはずだった。<BR>

父が、何を求めてかつて王国に反乱を起こしたのか、<BR>

ミルディンは理解しているつもりでいた。</P>

<P>しかし、その父の答えは、ミルディンの期待した答えとは違っていた。<BR>

「…ワシは一度主君を裏切り、弑した。今またここでエンドラとの約定を違えたならば、<BR>

二度と誰もワシの言葉を信用すまい」静かにプロキオンは言った。</P>

<P>沈黙が流れた。</P>

<P>忍びはその素性を知られてはならぬ。敵に囚われたならば速やかに自決せよ。<BR>

それが忍びの掟だった。忍びの未帰還は、即ち死を意味した。<BR>

若き日のプロキオンは、何処ともなく、誰に看取られるでなく死んで行く忍び達と、<BR>

城内に居室を与えられ、華やかな世界に生きる騎士達とを見比べるにつけ、やり場の無い憤りを感じていた。<BR>

同じように王国に仕えながら、いや、泰平の世にあっては、より重要な役目を果たしている我らと、<BR>

剣の握り方すら忘れた豚どもとの間には、何故こうも開きが有るのか。<BR>

何より耐え難かったのは、騎士どもが彼ら忍びを見下していた事だった。
</P>

<P>…沈黙を破ったのはプロキオンだった。</P>

<P>「ミルディン」名を呼んで一呼吸おいてからプロキオンは続けた。<BR>

「これまで黙っておったがな。…ワシはお前の真の父ではない」<BR>

「え？」一瞬、ミルディンは呆けた。<BR>

「無論、母親もだ」プロキオンは付け加えた。<BR>

父が突然何を言い出したのか、ミルディンにはよく分からなかった。</P>

<P>自分は父の子ではないのではないか？幼い頃にはそう思った事もあった。<BR>

ミルディンは、自分は忍びになるのだと思っていた。<BR>

父のような忍びになって、父の跡を継ぐのだと。しかし、プロキオンはそれを許さなかった。<BR>

どうして？どうして僕が忍者になる事を許してくれないの？<BR>

僕にはその資格が無いの？僕は、僕は父上の子供じゃないの？<BR>

母は、お父様にはお父様のお考えがあるのよ、と慰めてくれた。<BR>

プロキオンは何も言わなかった。</P>

<P>やがて優しかった母が、病で他界した。ミルディンは泣いたが、<BR>

プロキオンは涙ひとつ見せなかった。その後しばらくして、プロキオンはミルディンに、<BR>

オファイスの中でも高潔な騎士の下について、騎士として学ぶように命じた。<BR>

ミルディンはそれに従った。最早父のような忍びになりたくはなかった。
</P>

<P>数年が過ぎ、ミルディンは立派な騎士に成長したが、<BR>

国内のほとんどの実権を帝国に握られた挙句、砂漠に追いやられ、<BR>

その自治のみを許されるという、今や形ばかりの国主となったプロキオンに仕えた。
</P>

<P>成長したミルディンは、何となくではあるが、父の意図した事が分かるようになっていた。<BR>

君主が高潔な騎士である事は、民が支配者に求める必要最低条件らしかった。<BR>

忍びと騎士ではその生き様が違いすぎた。<BR>

父は、歴史の闇に生きて来た忍びでは、そして今や主君殺しの汚名を浴びた自分では、<BR>

民の心を得られない事を知ったのだ。…いや、もしかすると、始めから分かっていたのかもしれない。
</P>

<P>成長した今でも、プロキオンとミルディンは似ていなかった。<BR>

しかしそれは、自分が今ではもう記憶も朧気になった母親似だからか、<BR>

あるいはその生業や、重ねて来た辛苦の違いかもしれないとミルディンは思っていた。
</P>

<P>ミルディンは、自身をプロキオンに似せようとした。<BR>

だが、足音もなく歩く父の身のこなしを、<BR>

鋼の甲冑をまとう騎士の自分に真似られる筈もなかったし、<BR>

それが出来れば、プロキオンと同等の力量を持つ忍びとなれた。</P>

<P>そこでミルディンは、プロキオンの寡黙さを真似る事にした。足りない言葉は笑顔で補った。<BR>

幸い、ミルディンは美男子だった。これは父に似なくて良かったのかもしれない。<BR>

プロキオンは精悍な顔つきで醜くはなかったが、美男子とは言いかねたし、<BR>

ミルディンは、父が笑っているところなど、一度も見た事が無かった。</P>

<P>淡々と、プロキオンは続けた。</P>

<P>「お前の真の父はな」<BR>

「こんな時に、何を…」ミルディンはプロキオンの言葉を遮ろうとした。<BR>

だがプロキオンは言葉を止めなかった。「前オファイス王だ」<BR>

「！？」ミルディンは言葉を失った。</P>

<P>プロキオンが冗談を言うような男ではない事を、ミルディンはよく分かっていた。<BR>

自分が、オファイス王子…？それは…それは本当の事なのか？だとすれば、<BR>

そうだとすれば、プロキオンが自分に忍びを継がせなかったのは、<BR>

やはり自分が実の子ではなかったからなのか…？</P>

<P>実の父である前オファイス王がプロキオンに殺されたという事実よりも先に、<BR>

ミルディンの脳裏をよぎったのはその事だった。<BR>

「行くがよい。止めはせぬ」プロキオンは言った。</P>

<P>プロキオンに言われたまま、ミルディンはふらふらと部屋を出た。<BR>

混乱していた。考えをまとめたかった。<BR>

だが時間がない。このままホルモズッサ城に逗留したのでは、<BR>

帝国の同盟軍として反乱軍と戦う羽目になるかもしれなかった。</P>

<P>そうだ、まずはコンシュへ戻ろう…。ミルディンは思った。<BR>

ミルディンは、ホルモズッサから最寄の拠点であるコンシュを、<BR>

居城としてプロキオンから与えられていた。</P>

<P>コンシュへの道中、馬を飛ばしながらミルディンは考えていた。<BR>

何故、プロキオンはオファイス王子たる自分を生かしておいたのか？<BR>

何故、自分を忍びにせず、騎士にしたのか？<BR>

何故、自らの居城、ホルモズッサ防衛の最終拠点、コンシュを自分に与えたのか？<BR>

そして何故今、自分の出自を明かし、反乱軍への参加を許したのか？</P>

<P>答えは一つしか考えられなかった。<BR>

プロキオンは多くを語らなかった。今までも、そして今も。<BR>

しかし、昔の幼い自分とは違う。言葉にされなくとも、今ならわかる。</P>

<P>ミルディンが着いたその日のうちに、反乱軍はコンシュまで進軍して来た。<BR>

ミルディンは城門を開け放ち、反乱軍を迎え入れた。</P>

<P>反乱軍の指導者は若かった。<BR>

自分と同じ位の年齢であったが、何か圧倒されるものがあった。<BR>

革命の英雄は、理解と協力を得られて嬉しいと言った。</P>

<P>ミルディンは、自分はプロキオンの一人息子であると告げ、解放軍への参加を申し出た。<BR>

英雄は、ミルディンの事は賢者ギゾルフィから聞いていると言い、<BR>

ミルディンの革命への参加を承諾してくれた。</P>

<P>ミルディンはギゾルフィを、ハイランドから派遣されてきた賢者探索部隊から保護するために、アリアバードへ匿っていた。<BR>

領内で山賊行為を働くような帝国軍に、徳の高い賢者を引き渡す気にはとてもなれなかった。
</P>

<P>英雄との話を終えたミルディンは、ふと、ヒゲ面の騎士をそばに従えた、<BR>

美しい金髪の女騎士が自分を見つめている事に気がついた。<BR>

彼女は神聖ゼテギネア帝国の大将軍の娘だという事だった。<BR>

やがての自分の立場をミルディンに重ねて見たのだろう。<BR>

彼女はミルディンを労わってくれた。</P>

<P>今後の進軍についての軍議が持たれた際、<BR>

ミルディンは父を説得する機会を与えて欲しいと英雄に願った。<BR>

英雄は、避けられる戦いならば避けるに越した事はない、と承諾してくれた。<BR>

ミルディンは英雄に感謝した。</P>

<P>それから僅かな休息の後、解放軍はホルモズッサ城へ向けて進軍を開始した。<BR>

ホルモズッサに到着すると、予定していた場所に陣を張った。<BR>

すぐさまミルディンは城へと向かったが、城壁から矢を射掛けられ、近づくことが出来なかった。<BR>

矢の届かない距離で馬を巡らせ、自らが和議の使者であることを従者に叫ばせるうちに陽が傾き、やがて沈んだ
。<BR>

何時までもここで、解放軍に足止めを喰わせるわけにはいかない。<BR>

「…父上…ッ！」やり切れない思いを胸に、ミルディンは本陣へと戻った。
</P>

<P>帰還するとすぐに、ミルディンは、解放軍首脳の待つ天幕へと向かった。その足取りは重かった。<BR>

中に迎え入れられると、中央に置かれた円卓の上にはホルモズッサ城の見取り図が広げられており、<BR>

ミルディンの気持ちをまた沈ませた。当然の事だが、ミルディン不在の間にも、軍議は進められていた。<BR>

「…申し訳ありません」ミルディンは目を伏せて交渉の失敗を告げたが、<BR>

解放軍首脳は、戻ってきたミルディンの顔色を見て、交渉の結果を察していたようだった。<BR>

「…そうか」英雄は一言呟いた後、ホルモズッサ城攻略を宣言した。
</P>

<P>翌日、夜明けとともに解放軍は城門を破壊し、城内へとなだれ込んだ。<BR>

だが、ミルディンはまだ諦めてはいなかった。乱戦の中、出来るだけ元同胞の命を奪わず、<BR>

戦闘力を削ぐだけに留めながら進み、プロキオンの姿を捜した。</P>

<P>城主の子が、反乱軍の中にあると知った城内の兵士は、浮き足立っていた。<BR>

しばらく後には、ほぼ大勢は決していたが、司令官を抑えて完全に決着をつけるため、<BR>

城内各所の制圧を他の指揮官達に任せた英雄が、ミルディンについてきていた。<BR>

ミルディン以上にこの城の構造を熟知している者がいるとは思えなかったからである。<BR>

英雄はミルディンの剣技を見て感嘆していたが、ミルディンは気づかなかった。
</P>

<P>ミルディンたちは城内の要所を幾つか回ったが、プロキオンは見つからなかった。<BR>

そこには代わりに、賢者探索に派遣されてきた帝国軍兵士がいた。<BR>

彼らは独自の指揮系統で動いており、プロキオンの指揮下にはなかった。外様のプロキオンを、<BR>

軽んじてもいたこともある。本来ならばホルモズッサ兵が防衛すべき所を、帝国兵が占拠している。<BR>

城には過剰な人員を収容する余裕はない。当然、ホルモズッサ兵は前面に押し出される。乱戦になるはずである。
</P>

<P>すると…。幾つ目かの要所を制圧した後、ミルディンは、父が何処にいるのか思いあたった。<BR>

ミルディンは足早に歩き出した。そして辿りついた部屋の前で剣を鞘に収め、深く息を吐き、静かにドアを開ける。<BR>

ミルディンの考えが正しかったことは証明された。最後に言葉を交わしたこの場所に、プロキオンは居た。
</P>

<P>「刀をお収めください、父上」ミルディンは話しかけた。<BR>

「ワシは貴様の父などではない」般若の面を被り、白い忍び装束をまとったプロキオンが答えた。<BR>

「それでも構いません。貴方がこれまで私にしてくださった事の意味が、今なら分かります」<BR>

ミルディンは静かに言った。<BR>

「一体貴様に何が分かるというのだッ！？」プロキオンが声を荒げて言った。<BR>

「貴方が本当に望んでいる事、そして貴方のその気高さです！」<BR>

「口だけでは何とでも言えるわッ！！」<BR>

ミルディンの言葉を振り払うかのように、プロキオンは刀を振り下ろして続けた。<BR>

「ワシは歴史に名を残すッ！惰眠を貪る犬どもにとって、我が名は永劫に忘れられぬ悪夢となろうッ！！」<BR>

「違うッ！貴方が真に望んでいるのはそんな事ではありません！<BR>

貴方と解放軍の求める物は同じのはず！お願いです、どうか刀を！」ミルディンは手を広げて訴えた。<BR>

「くどいッ！！既に結論は出たのだ！最早語るべき事は何もない！ゆくぞッ！！」<BR>

言ってプロキオンはミルディンに飛びかかった。<BR>

「他に道があるはずです！まだ遅くはないのです！！」<BR>

ミルディンは悲痛な声で叫んだが、プロキオンはもう答えなかった。</P>

<P>「ミルディンッ！」英雄が加勢に入ろうとしたが、ミルディンはそれをおし留めた。<BR>

「手出しは無用です！」プロキオンはもう止まるつもりが無いようだった。<BR>

止まってしまえば、誇り高い彼はもう動く事が出来ないのだろう。<BR>

彼をここまで追い詰めた前オファイス王が、ミルディンは恨めしかった。<BR>

この決着は自分の手でつけるのが正しい事のようにミルディンには思えた。
</P>

<P>忍びの総帥たるプロキオンの動きは素早かった。<BR>

どうにか目で追っていけてはいるが、気を抜けば一太刀で首を刎ねられそうだった。
</P>

<P>斬り結ぶ事数十合、プロキオンの撃ち込みの速さに、ミルディンは次第に圧されてきた。<BR>

「まずい！」思った瞬間、咄嗟に剣を出したが間に合わない。<BR>

「ミルディンッ！」英雄が叫んだ。<BR>

「やられたか！」ミルディンは思った。だがしかし、<BR>

プロキオンの刀は、ミルディンの頬をかすめただけだった。<BR>

よく見れば、プロキオンの胸を、<BR>

ミルディンが騎士に叙任された時にプロキオンが贈ってくれた名剣、<BR>

デゼールブレードが貫いていた。</P>

<P>「ぐふっ」プロキオンの口から血が溢れた。<BR>

見る見るうちに、白い忍び装束が真紅に染まっていく。<BR>

「なっ…馬鹿なッ！！」ミルディンはくずおれるプロキオンを抱きかかえた。<BR>

プロキオンが、自らミルディンの剣に飛び込んで来たとしか思えなかった。
</P>

<P>「何故…何故です！？」言いながらミルディンは、プロキオンを床に横たえた。<BR>

出血が酷い。助かる見込みはまず無さそうだった。<BR>

「ミル…ディ…すま…」プロキオンは息も絶え絶えに呟いた。<BR>

「喋らないで！分かっています、分かっております、今の私があるのは貴方のおかげです」<BR>

ミルディンは早口に言った。<BR>

「おま…跡…継ぐ…言…嬉し…かッ」プロキオンはまた血を吐いた。<BR>

「お願いです、黙って、父上！」ミルディンは叫んだ。<BR>

「ワ…シを父…」プロキオンの目はミルディンを見つめてはいたが、最早見えてはいないようだった。<BR>

「私の父は貴方だけです」ミルディンはプロキオンの手を強く握りしめた。<BR>

最後に唇の端を歪めるようにしてプロキオンは笑い、息絶えた。</P>

<P>英雄は何も聞かなかったし、<BR>

ミルディンも何も話すつもりはなかった。<BR>

自分は暗殺者プロキオンの息子。それで良かった。</P>

<P>時が流れ、神聖ゼテギネア帝国を倒しゼノビア聖騎士団団員となった今も、<BR>

ミルディンが多くを語ることはない。ただ静かに微笑むだけである。
<HR>
</P>

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