■ 6月の戯言 ■
6月2日
波平さんが時折、額に眼鏡を乗せていたのを忘れて「わしの眼鏡、眼鏡」と探すシーンを目にしますが、わたくし、両手で石鹸を泡立て眼鏡を掛けたまま顔面を洗ってしまい「あぁ、こりゃやばい。眼鏡を掛けていたのを忘れるとはボケ症状の始まりだな。以後気をつけねば」と思ったその日の夜、風呂に入り、まずかかり湯をしておりまして、鏡に写る日増しに醜くなっていく我がボディーの様を確認しようと覗き込むと鏡は既に思い切り曇ってまして、掌でその曇りを拭い、改めて鏡に映った己の顔を見てそのとき初めて気づきました。眼鏡かけたまま風呂に入ったことを。
あぁぁぁぁ。
今朝の朝ごはん、何食べたんだっけかなぁー。
6月4日
愚犬2匹を連れて散歩へ出かけた途中、キャバリアを連れた奥様と立ち話。そこを通りかかった小学生の女子2人。それぞれが、ダックス、黒ラブを連れて仲良く散歩しておりました。おばちゃん2人のちょうど目の前で、女子児童Aが連れたダックスがモリモリと糞をひねり出す。
「ぎゃー!やっちゃったよー!もぅ、やだー」
Aはおばちゃんたちをチラチラと見ながらも、一緒に歩いていた女子児童Bに話しかけてます。
おばちゃんたちは、手ぶらのAにすかさず声を掛けました。
「うんこ取る袋、持ってんの?」
Aはおばちゃん2人をキッと交互に睨みつけると、顎をちょっと上げ、ふて腐れた顔を左右に振ります。ぐわーっ、なんて可愛くないガキなんだこいつは。
「ったく、犬の散歩になーんでうんこ袋持って出ないかなぁ」
キャバリア奥様は、バックから透明のビニール袋(スゥパの袋とかぢゃなく、お金出して買ったと思われる袋)を1枚取り出し、Aに渡しました。
「えー?どうすんのよー、これー!」
手渡されたビニール袋を振り回すAに、Bが「その袋に手を突っ込んで、その状態でうんちを掴むんだよ。で、袋をひっくり返せばいいのー」と教えています。
「やだー!キモいー!できないー!」
「大丈夫だってばー。平気だよ。直接手でうんち触るわけぢゃないんだしー」
黒ラブを連れた女子児童Bは、「ほら、うちのラッキーのうんちなんて、その3倍はあるんだからー」とバックから重そうな袋を取り出し愛犬の糞塊をAに見せます。
「やだやだやだー!だったらBちゃん、やってよー!」
一向に拾う気配がないA。そのうち、ダックスはヒョコヒョコと彼女の周りを歩き始め、終には自分が数分前にひりだした糞の山を踏みつけてしまいました。
「あー!踏んだしー!汚い!もぅ、やだー、あっちいけーマロン!もぅ、マロン嫌い!汚い!キモい!」
半べそをかき、今度は愛犬のダックスを足で蹴飛ばしはじめました。
おばちゃんたち、怒りがとうとう沸点へ。
「あんたが、すぐ拾わないからでしょ!なんで蹴飛ばしたりすんの!自分の非を犬のせいにしちゃダメでしょ!」
Aはホッペをプーっと膨らませて、おばちゃんらを睨みます。おばちゃん、負けじと浴びせます。
「ほら、さっさと拾う! うんこは臭くて当たり前! あんたのうんこだって臭いでしょーが。つか、今日がお散歩デビューってわけぢゃないでしょ、その犬。今までずーっとうんこを放置してきたわけ?」
仁王立ちで睨み続けているおばちゃんら。諦めたAは、やっと腰を下ろし文句を言いながら拾いました。
「ちゃんと家まで持ってかえるんだよ、途中で捨てたりせずに」
おばちゃんの忠告に、クルリと背中を向け、無視ですよ。このクソガキ!
「分かった?!」
背中を向けたまま、臭いーきたないーキモいー!と叫ぶA。
「ビニールの口をしっかり結べばいいんぢゃ。分かったか!絶対家までちゃんともって帰れよ!」(キレ気味)
おばちゃん2名は、ビニール袋を指で摘み、なるべく体から遠ざけようとその腕を思い切り伸ばしたままダックスを引きずりながらその場を立ち去っていくAとその同級生Bをじーっと見送っておりました。
キャバリア奥様がその姿を見ながらふと口にします。
「逆恨みされて、刺されたりして…ね」
先日の事件。同級生をカッターナイフで切り殺してしまったとゆーアレ。そういえば、つい最近13歳以下の犯罪リストなんてのも目にしましたっけ。
子供は残酷なものなのよ。残酷って、うーんと、そうね、例えば人を傷つけるコトを平気で言ったりね。そうねそうね。言葉を知らないから。言動だけぢゃなくって行動だって。そうそう。現に、おばちゃんが子供の頃だって、虫の足を一本ずつ引っこ抜いたり、カエルのケツにストロー突き刺したり爆竹突っ込んだりしてたしね。でもねえ、対人間だったら痛みっつのが自分でも分かるから普通はやらないよね、などと喋りながら別れる。
そして、今朝。
昨日と同じコースを愚犬2匹を連れて歩きました。
ガードレールの下にポツンと置かれたビニール袋。その中に入った犬の糞。結び目も糞の色も形状も見覚えがある代物です。紛れもなくAがあのとき、拾ったダックスの糞。
ネット上でブリッコだって言われたから殺しましただと? 殺意とゆーのはな、こーゆーときにムラムラと起きるのだよ、聞いてるか、A(こんなクソサイト、見てないって)。今度会ったら、伸してやっからな(多分、今度という時にはこっちが忘れてる)。
6月7日
某チャットではじめましての男性。「最近、ロッキーが元気なくって」などと言い出すものだから、彼が飼っているペットの話なんだろうと話を進めるも、どうも会話がかみ合わない。もしや…。
ちょ、ちょっと待って。ロッキーってのは、もしかして、キミのちんこのことなのかね?
ちんこの3文字に、返って来た言葉が「俺は男なのに、ちん子などとゆー女みたいな名で呼んでくれるな」って、あーた。
そういえば、よく覗きに行かせてもらってるサイトの管理人さんは、自分の一物のことをスグルと呼んでいましたっけ。殿方はみなさん、それぞれこっそり名前をつけていとおしんでるものなんでしょうか。
それにしても、ロッキーって?
「打たれ強いしね」
ふーん。願望ですね。タテ!タツんだロッキーて?あぁ、あれはジョーか。つか、殴打されたりしてんのか、おぉ怖っ。
「女性は名前をつけたりしないの?」
しませんな。聞いたこともない。でも、是を機につけてみようかしらん。
うーんうーん。
キミがロッキーなら、ほいぢゃエイドリアン。
そう答えた瞬間、頭にドリアンが思い浮かぶ。
ぎゃー!あ、あ、あんなに臭くないってば…多分。
6月8日
金はちっとも溜まらないのに、頭髪だけはズンズンとよく伸びて、お菊人形を遥かに超える恐ろしさ〜。抜け毛が多く、しだいに薄くなってきている上に、キューティクルナッスィング。寝起きの頭は強風に煽られた加藤純ですよ。フォッフォッフォ。床屋にでも行って(床屋でいいのか?)短く刈り込んでもらいたいところですが、なんかそこへ行くのも面倒で…。
普段は、後ろにまとめクルクルと捻り上げ、ヘアピンで留めてるんですが。
風呂に入ると、椅子に座り前かがみになり、股間を覗き込むような体勢で洗髪をしとります。
で、洗い終わったあとは、そのままの体勢で頭髪を一つに纏め、クルクルと捻って絞る。まるで、雑巾を絞るようにです。
捻ってピンで留めるという行為は同じなんですが、纏めたときの支点の位置が普段は後ろ、洗髪後は頭の天辺と、10センチ以上も移動するわけです。
で、風呂上り、自分のヘアスタイルを鏡で確認すると、まるで漫画グソを頭に乗せた女のようだな、と。
てなわけで、次回からのコミックのりえぴさんは漫画グソヘアーにイメチェンの予定です(散髪するまでの期間限定)。
あぁぁ、そんなことより、とっととPLAY SPOTの続きをアップしろよこのイカレポンチめ!ですね、ですね、そうですね。
6月9日
オロナミンCの新CMで上戸彩と共演し、日本のCM界にデビューしたペ・ヨンジュン。冬のソナタだか冬のどなただか、ドラマのことはよく知らんのだけれども、なにやら日本中の婦女子がキャーキャーと色めきだつほどの人気らしいですね、この男のことはよく知らんのだけども。
ワイドショーのおばちゃんコメンテーターまでが「ヨン様」などと様付けで呼んでいるのに、ちょっと違和感を覚えてしまうわたくし。
ペ・ヨンジュンですよ。
様を付けるなら「ペ」に付けてあげたほうがよいんでわ?
ペ様。
ううむ。どうもしっくりきません。
ほいぢゃ、伸ばしてみましょう。
ペー様。
いい感じ。
でも、頭に浮かぶのは林家ペーの顔。ダメぢゃん。
彼が、某番組のインタビューで、「日本、よかとこですねー。日本の女性は純粋やしー。将来は日本に住んで仕事をしてみたいかもー」みたいなことを言うとられました。
永住とかしちゃうつもりですか?
やめときなはれ。
わたくしには、どうも「ヨン様」という字が「ヨソ様」に読めて仕方がないのですよ…。
関係ないですが、友人は「あのテの顔は包茎顔だ、間違いない」と力を込めて言うとります。ま、わたくしにはどーでもいいことですけど。
6月10日
ぐへー、ついに買っちゃいましたヨ。
LODGEのダッチオーブンを。
父の日のプレゼント。本人に何がいいのかと尋ねると、決まって「テニスに使うもん」とおっしゃるもので、ほいぢゃぁとスポーツ店に足を運んだわけです。適当なテニスウェアをカートに放り込み、レジの方へとふらふらと歩いていたらおや、いつの間に!
カートの中にダッチオーブンと火遊びキッドが入っておりました。
店員の仕業でしょうか(違)。スポーツ店の摩訶不思議。
うはは。
早速、これで昼食建造です。
調理器具がいいと、腕はどうあれどんな食い物も数段旨くなりますからね。
昼間からなんとゆー贅沢だ。
「あーうまうまー、やっぱダッチオーブンで茹でた素麺は一味違うわぃ」
6月11日
夕方の散歩の時間、車の往来の少ない道路でいつも遊んでいる3家族がいる。といっても幼稚園児3人と、その子供たちの母親であろうと思われる女性3人なのだが。会うたびに、子供たちはワンコに触ってもいいか?と尋ねて走りより、2匹を取り囲むように座り込む。
某局の番組の影響か、数週間前からこの子供たちがわたくしと2匹を発見すると「ゴルディー!」と叫ぶようになった。
「ちゃうよ、茶色いこっちがサラで、こっちはBJだから」
何度教えても、我が家の愚犬は彼らにとってゴルビーらしい。しかも、2匹まとめて。まぁ、2匹揃っても半人前の犬なんですけどね。
昨日は、いつもと違うコースを歩こうと、彼らが遊んでいる道に曲がらず、そのまま直進しようとした。
「あ!」
しまった、気づかれてしまったか。
でも、今日はキミたちの相手をする気分ぢゃないんだよ、ごめん。
聞こえなかったフリをして通り過ぎようとすると、後ろから彼らの叫ぶ声が聞こえてきた。
「ゴルディー!」
「ほんとだー、ゴルディーとモモちゃんだー」
え?
子供たちの声に混じって、母親の声も聞こえてきた。
「ほんとだねー、ゴルディーとモモちゃんだねー」
なぬぅぅー!?
モモちゃんて。わ、わ、わたくしの、どこがチンパンジーに見えるとゆーんですか!?ウキィー!
6月15日
日本語というのは難しい。アテネオリンピック出場が危ぶまれたテコンドーの岡本某選手をはじめ、話し手の立場になったときの尊敬語と謙譲語の使い分けができない人が仰山とおるようで。要するに、「うちのお父さんがね」「うちのお母さんがね」と家族を指すのに頭に「お」をつけて人に話すというやつ。子供が喋っている場合はともかく、いいトシしてそれはないだろう、とこれだけは特に気になってしまうわたくしなのですが…。きっと、敬語そのものが尊敬したり謙譲したり丁寧になったりと3パターンもあるから迷ってしまうんですな。
それに引き換え、わたくしは育ちがたいそうよろしいので、敬語の使い方は完璧でございます。
昨日、残高不足で引き落としができなかった生協の支払いにサービスカウンターまで出向いたのですが、わたくしとほぼ同時にカウンターの前に辿り着いた年配の女性がいらっしゃいました。そもそも、2万ちょいの金額が、口座に入ってなかったとゆー高橋家の経済状態の方が問題ですが。
「アタシの方が0.5秒先にカウンターに手をついた。故に、アタシが先ぢゃ」
といった一瞥を彼女が向けたので、心の広いわたくしは譲歩の気持ちを込めてこう言ったわけです。
「あ、どうぞ、先にイカレてください」
最近、北九州生まれで結婚して茨城に住んでいるというフレブル飼いのオーナーRさんとチャットをしたりメールの交換をしているのですが、そのときの文面が北九州弁なのでついつい口からポロリと出てしまったわけです。
「イカレてください」
年配女性、一瞬怪訝そうな顔、とゆーか眉間に縦皺3本寄せて「アタシにイカレポンチになれですって!?」と言わんばかりの顔になってしまいました。
アウアウアウ。
やっちまった。ここは笑って誤魔化せ〜アハハハハ。
「イカレてください」ってのは北九州でいえば、「先に行ってください」の最上級レベルの敬語なんですけどね、多分。
北九州弁についてのHPを見た最近になって、初めて「あぁ、こりゃ方言だったんだ」と気づいたカッペぶり。わかっちゃいたのに、言っちゃいけないと思ってたから、余計気になって出ちゃいましたがな。
でも、アレですよ、東京で仕事をしていたわたくしがたまに帰省すると「なんか、アンタ、話し方がおかしぃばい」と言っていたうちの母親なんて、多分今でも信じてますよ。
「北九州弁は標準語なんっちゃ!」と。
6月16日
午前6時半に散歩に出かけた昨日。風は冷たくて気持ちがいいけど、日差しは既に強くなっていて、5分もするとゼーゼーハーハーと2匹の息が荒くなる。夏の暑い時期、犬を飼っている人は皆さんは、きっと散歩のために早起きをするんでしょう。それにしても、普段より1時間遅く寝るのはどーってことないのに、1時間早く起きるのがどうしてこんなに辛いのか。
そこではたと気づいたわたくし。
もうちょい頑張って、普段より5時間くらい夜更かししちゃえばいいだけぢゃん。
妻、あったまいぃ〜♪。
簡単そうだし。
で、朝の散歩から帰って就寝。
ふむふむ。
そいでもって、夕方の散歩前に起きればいいわけぢゃん(寝すぎ)。
なんだ、楽チン。そいぢゃ、起きたばかりだけど、さて寝るか。
あ!ちょっと待て…。
この生活パターンだと、昼飯食えないぢゃん!
6月17日
3,4日ほど前、北九州に住んでいる愚弟が「競売物件を入札しにいった」と言っていた。競売物件てのは、債務不履行になり裁判所に差し押さえられた物件のこと。3LDKのマンションが200万円だったそうな。
「格安やろ。占有者もおらんしね。まぁ、おったとしても引渡し命令出して強制代執行で排除すりゃいいだけなんやけどねー。このくらいの物件やったら、入札妨害するやつもおらんやろし。必死こいて保証金の50万かき集めて振り込んだんばい。まぁ、オレが入札した250万で落札したとしても、他に滞納管理費やら登録免許税やらリフォーム代やらかかるけん、余分に200万くらいは見とったほうがいいやろうけどね」
お役所関係で世話になったのは区役所くらいしかないわたくしには、裁判所だなんて未知の世界。競売物件に手を出すだなんて、とてもできることぢゃぁございません。
「なんいーよん、入札っちゆってもアレばい、目安箱みたいなのんにポンち紙切れ入れるだけなんばい。でも、久しぶりにあつぅなったっちゃ。武者震いきたけんねぇー」
あぁ、弟よ。うまくいけば、これで晴れて家持になるわけだな。それにしても考えたくはないけれど、もしもダメだった場合の50万円の保証金の行方が、ねーちゃんは心配だよ。
「そりゃ心配せんでも、返ってくるっちゃ」
落札結果が出るのが16日。
つまり昨日だったわけです。
夕方、友人との電話中、携帯電話が鳴りました。慌てて友人にさよならを告げ、携帯を取り上げると相手は愚弟。
「あ、オレオレ…。ユージくんどぇ〜す(アホか)」
そのノリだと大丈夫だったのか、競売物件。
「あげな物件を510万で入札したバカタレがおってからさー。ダメやったばい」
アリャリャ。それは残念。嫁の実家の目の前のマンションだし、立地条件もすこぶるよかったのにね。でも、保証金も返ってくることだし、次があるさ。
「そうなんやけど、保証金振り込んだときの手数料525円はどーしてくれるんね!っちゅー話よ。あとさー、こうやっていろんな人に『今回はダメでした』っち電話かけまくってさー。その電話代がたこーついとるやんね!っち」
ガハハハ。
まぁ、今日は残念会でも嫁と開きたまえ。
「おぅよ。これから、エアロビ行って完全燃焼してくるばい、ほなね…ガチャン」
えぇぇぇぇ!
ちょっと待て!
エアロビって、あーた。的場浩司似のイカツい33歳のおっさんが、ピチピチレオタードに股間モッコリでエアロビですか?オエーーーーッ。
6月18日
半兵衛じいさんは、大雨の日でも町内の見回りを欠かさない。2時間かけて、ゆっくり、ゆっくりと歩く。寡黙で、どんなときでも微笑むだけのじいさんのことを、人は「喋れないんと違うかねぇ」と言っていた。
そんなじいさんが、唯一声を出したのが、我が家の愚犬にしつこく迫られたときだ。
会えば必ずじいさんに近寄り、遊ぼうとせがむ愚犬BJ。じいさんの体は3倍以上もある巨体だが、なんといっても高齢だ。11キロ以上の体で体当たりをしようものなら、踏ん張りが利かずによろけて倒れてしまうだろう。「頼む、半兵衛じいさんのトシを考えておくれ」という気持ちを込め、これ以上は近寄らないようにと、リードを持つ手に力を入れる。
そんなBJが、あるときからじゃれつこうとするのをやめた。半兵衛じいさんを見つけると、走り寄っていくのに、だ。
「癌が見つかってね…あちこちに転移して、もぅ手遅れなんだって。余命2ヶ月だって言われたんだよ」
粉雪の降る、まだ寒い2月のことだった。
いつもはグイグイと引っ張りながら歩く我が家の愚犬が、半兵衛じいさんの横に並んで同じ歩調でトボトボと歩く。
『ワシはどうも癌らしい』
『が、がん?』
『そうなんぢゃ。もぅ治らんらしい。時間をかけて教えようと思っていたが、ワシにはもう時間がない。だから、死ぬまでの短い間に伝えておくぞ』
『…』
『このガードレールの向こう側、みなそこに入って小便をしたがるが、そこは人間が一生懸命花を育てておる花壇とゆーものなんぢゃ。だから入っちゃいかん』
『は、はい』
『花をな、愛でる気持ちをお前も養わなきゃいかんぞ』
『はぁ〜?』
歩きながら顔を合わせるじいさんと我が家の愚犬は、もしかしたらそんな会話を交わしていたのかもしれない。
「大好きな桜の花、今年は見られないのかしらね…」
ホロホロと涙を流すじいさんの同居人Tさんを、心配そうな顔をして見上げる半兵衛じいさん。
しっかりして。気持ちって連鎖するんだよ。悲しそうな顔をすると、自分のせいで悲しんでるんだって気落ちするから。さぁ、笑顔、笑顔。そう言うと、Tさんは涙も拭かずに、そうだね、そうだねと何度も呟きながら笑った。
Tさんの家から見える桜の木は、今年も沢山の蕾をつけた。
半兵衛じいさんは歩いていた。余命2ヶ月だと宣告されたあの日から、2ヵ月半。
我が家の愚犬も、いつものように横に並び、時折桜の木を見上げる半兵衛じいさんを不思議そうに眺めている。
「人間って、欲が出るね。やっぱり、もっともっと長生きして欲しい…」
薬の副作用で腹が膨れ、転移した癌が体の表面の至る所に現れ始めてはいたが、穏やかな時間はその後2ヶ月以上続いた。
「昼間は暑いし、夜は寒いし、気温の変化に体がついていかないのかもしれないね。ご飯をちっとも食べないの。もぅね、体に悪いんだってわかってはいても、食べないよりはいいだろうって思うから…口に入れてくれるもんだったら、何でもあげてるのよ」
Tさんが寂しそうに話す横で、半兵衛じいさんとBJは顔を見合わせていた。
『いよいよかもしれん』
『…』
『後のことは、宜しく頼んだぞ。本当なら、まだお前は半人前だから頼り甲斐なんぞないんぢゃが。出来の悪いお前のお陰で随分と長居をしてしもうたわい』
2004年6月16日。享年15歳。
半兵衛じいさんの遺骨は、桜の木が見える庭に埋められた。
6月20日
いいなぁ、いいなぁ。
東京の人は。
こんなモノ、見ることができて…。
6月22日
昨晩の雨は一体なんだったんでしょう。シャワーの蛇口を思い切り捻ったときのような、あの凄さ。まるで、夫の帰宅時間を狙ったような集中豪雨でした。
午前中は穏やかだったのに。
「傘、持って行ってたっけか」
心配になって、「凄い雨だけど、傘は持ってるの?」とメールを送る。
15分後に返って来た返信内容。
「1本持ってます」。
突っ込んでいいですか?
1本て。1本ありゃ十分やろ。つか同時に2本の傘さしてるおっさんなんか、見たことないし。これだけ短い文章なのに、添削が必要とはこれいかに。つか、15分かかってこの1文かよー。
関係ないけど、うんこはちゃんと流してください!(思い切り私信失礼。いや、朝の散歩から戻り2匹の糞を流そうとしたら先客がおりましたもんで…)。
6月23日
友人との長電話。昨日の夫のうんこ流し忘れ事件をきっかけに、話題はボケとアルツへと。しかもそれぞれの夫の。同い年の彼女とは、以前から「旦那がボケたら、その様子をライブでHPに垂れ流してやろう」と言ってたんですが、なんだか高橋家にとってその時がやってくるのは早そうです。ヤバい、完全にボケる前に、ビデヲをどうやってPCに接続するのか、なんてのを教わっておかねば。あ、その前にハンデーカム買わなきゃいかんのですが。
多分、そうなったらこの戯言欄も夫のボケ日記になってしまうんだろうな。
「今日のボケ夫。こんばんわ〜とクローゼットの扉を開けて、中に入ったきりかれこれ3時間経過中」
「今日のボケ夫。電信柱に挨拶をし、名刺を渡そうとし、相手が受け取ってくれないと憤慨」
「今日のボケ夫。首輪のついたリードだけを持ち、町内を散歩。愛犬はその間、首を傾げつつ自宅待機」
なんちて。
どうかお願いです。そうなったとしても、ネットで公開するなんてボケ老人の虐待ダ!ボケ老人を差別するな、この鬼嫁め!などとホットメールなんかよこさないでください。楽しんで、いや愛情を持って介護しますから。
犬サイト(一部にはエロサイトだと思われてるフシもありますが)の主人公がボケ夫に代わったとき、そのときはタイトルもこっそり変えます。
マニヤにしか気づいてもらえないくらい、こっそりと。
Funky Hot Doku(毒) に(バレバレ?)
6月24日
友人の義母様は、緑内障を患い殆ど目が見えないためヘルパーさんのお世話になっている。現在、通院は週3回。その都度、嫁である友人が車で迎えに行き、病院まで連れて行っているという。治療の効果もあって、視力は回復していない代わりに悪化もしてない。それでも、友人が迎えにいくたびに「また見えなくなった」と愚痴る。
病院に到着し、待合室にいる間も、忙しく動いている看護婦さんを捕まえては、「また見えなくなったんだ!」と自分の目を指差し叫ぶのだという。
「あぁ、そうなんですかー、それは大変ですね。この後、診察ですから、先生におっしゃってみてください。朝晩の温度変化とかも影響してるのかもしれませんねー」
優しく答えてくれた看護婦さんに、彼女は突き放すようにこう言った。
「そりゃ、ないねっ!フンッ!」
「考えられる?んもぅ、お前は医者かっ?って感じでしょ。アタシが看護婦さんだったら、だったら自力で治療しろこのクソババアって言ってやるよ」
我が家の玄関先で、握った拳に力を入れて一部始終を語る友人。
「そりゃ、ないねっ!フンッ!」の言い方に、看護婦さんの目元がピクピクと一瞬痙攣し、口元が歪む。普通なら、この表情を見て、あぁ出すぎたことを言ってしまったなぁと反省するのだろうけど、そこは視力がよろしくない友人の義母様。その後も、何食わぬ顔で、看護婦さんに詰め寄る。
「左目の瞼、ここがなんか弛んだ感じがする。ほら、ここ。ちょっと見てくれ」
先ほどの言葉にまだ怒りが修まらない看護婦さんは、「そうですか?変わんないですけど」と突き放す口調で言い、診察室に入っていこうとした。義母様には、その短い答えが気に入らない。看護婦さんの腕を掴み、ちゃんと見ろ!と叫ぶ。
「あぁ、はいはい。アタシは弛んでなかったってゆーアナタの元の顔知らないし、よくわからないから、先生に言ってみてね」
義母様の手を振り払い、その場を去った看護婦さんの背中に向かって「ったく、なんて横柄な看護婦なんだろうね!」と言ったあと、ブツブツと呪いの呪文をかける義母様。
診察室から義母様の名前が呼ばれた。
医者の前に座る義母様。
医者には「見えなくなった」とは言わないそうだ。というか、言おうとする前に視力検査をされ、医者に「前回と変わりはなか、よかっただなぁ」と先を越されてしまうから。
その代わり、この日は切り札があった。
「せんせ、左目のココ、なんか弛んでどうも重い感じがするんですよ」
こりゃ大変だ、大変だ、大変だ、ほんとだ弛んでる、緑内障のせいだ、大変だな、さて、どうすっぺ。
多分、義母様は医者の口から、こんな言葉が出ると期待していたはず。
「おめのオッパイも、弛んで下向いてっぺ? それと同じ。問題なかっ!」
流石の義母様も、医者のこの言葉には返す言葉が見つからなかったとか。
隣にいた友人、義母様の悔しそうな表情を見て、ザマミローザマミローと万歳三唱をしたという(心の中で)。
6月25日
草マケしたのか虫刺されなのか、体のあちこちに赤いポツポツが出現し、これが痒いのナンの。起きている間は歯を食いしばりじっと我慢をしているんですが、理性を失った就寝中は、どうも好きなだけ思い切り掻き毟ってしまうようで、ポツポツ軍の勢力は前夜よりも拡大しているわけです。
特に酷いのが首と右肘の内側。
首のポツポツ軍は、わたくしの視界に入ってこないんですが、右肘内側軍は嫌でも見えてしまう。
じとーっ。
右手に持ったボールペンを左手に持ち替え、ついついやってしまいます。
ポツポツポツ。大き目の赤ポツに印をつけていく。
あら素敵。夜空に輝くお星様みたい、ロマンチックだわ、あふん。
そして点と点を線で繋ぐ。
あら素敵。
新しい星座を発見。U字型便座。ちょっと締りが悪いけど。
ゼウスが浮気して愛人に生ませた子、ヘルクレスの異母兄弟ヘタレクレスの愛用便座。ヘタレクレスの屁力で、ドーナツ状だった便座に亀裂が入ってこんな形に…。などと勝手に星座物語でなく便座物語を作ってみたり。
んもぅ、兎に角痒いんすよーっ! 皮膚科に行こうとしたら、保険証見つかんないしー。まぁ、こんな落書きだらけの腕、医者に見せるのは恥ずかしいんですけど。
6月28日
30代で閉経した人知ってるよ、などという言葉を耳にしたんで、おぉ、もしや自分もそうかもしれないヤッタネ、パパ!女らしくないやつだと言われてたけど、これからは堂々と女ぢゃねーもんって言えるんだヨ!と小躍りしていたら、半月遅れでやってきやがった週末。しかも、腹痛と腰痛と頭痛付とゆー合わせ技を持ってやってきたため、起きてるのが辛いです。あぁ、寝たい。
ショッピングセンタの下りエスカレータで、妻の前に立っていた長身の男性。
襟ぐりの大きく開いたTシャツを着たその彼の襟元に何気なく目をやると、うなじの下の方がかぶれて皮膚が赤くなっています。そのかぶれて赤くなった皮膚が、ちょうど1×3センチ程の長方形の形になっている。
「うへへ、シャツについてるタグ、あれ苦手なんでしょー。痒いんだよねー。チクチクするんだよねー。かぶれちゃうんだよねー」
じーーーーっと、そのかぶれた皮膚を見ていると、なんとしてでも自分が気づいてしまったことを彼に伝えたい願望がMAXに。
『うぅぅぅ…言いたい! 指で押したい!』
やりたいことができないとき、人はストレスを感じ、過度のストレスを受けると身体的異常を来たすことがある。
あぁぁぁー、なるへそ。そうか。やっぱ、押しときゃよかった。言っときゃよかった。
そうすれば、来るべき日にツキのモノはちゃんとやってきて、数日間「更年期障害かもしれん」と思い悩むこともなかったのに…(違)。
6月29日
台所の不思議。
「お茶の渋みであるカテキンには、殺菌作用があります」
さっき、随分と放置しっぱなしだった急須の蓋あけたら、茶殻がパステルカラーになっとったがなー!@カビまみれ。
6月30日
大好きな俳優マイケル・ケインと、わざとらしさが鼻について好きになれない俳優スティーブ・マーティンが共演しているコメディ映画「ペテン師と詐欺師 だまされてリビエラ」のビデヲを借りて来る。この作品を観るのは5回目です。脚本が「殺したい女」のデール・ローナーだけあって、いやぁ、腹の底から笑える。やなことあって凹んでいても、この1本でわたくし幸せになれます。
あぁ、やっぱりマイケル・ケインって素敵おじさま。貴方なら、例え鼻毛がモッサ出てたとしても、それもお洒落に見せちゃうんでしょうね。
その彼が7月10日公開の「ウォルター少年と、夏の休日」に出とるぢゃないですか。ってのをCSNのコマーシャルで知りまして…。
ほほぅ、天才子役と言われたハーレイ君、トシとっても相変わらず泣きそうな顔しとりますなぁ〜などと眺めていたら、画面にクリームのフレンチブルドッグが映りました。
あら、かわゆい。ストーリーはどうあれ、フレブル飼いは必見の作品なのかしらん?
でも多分、映画館には観にいきません。
頻尿ですから。