■ 8月の戯言 ■

8月2日

買い物をする前にセルフのスタンドでガソリンを入れなきゃ、と思いながら車のエンジンをかける。

バス通りに出ても、頭の中で「セルフ、セルフ〜♪」と言い続け、スタンドについたときの手順をシュミレーション。去年の末から、このセルフを利用するようにしたのだが、殆ど夫が一人でやってくれるので、妻が自力でガソリン注入作業をするのは今回で若干4度目だ。

カードを出して〜ハイオク、満タンだとパネルで指定して〜あれ、静電気防止のプレートは右にあったんだっけ、左だったっけ…まぁいい、慌てるな。車を降りた瞬間に左右に目をやり探せ。スムーズに、そう、周りの皆に「あいつ、初めてなんぢゃねーの」などと思われないように素早くね。

右折を知らせるウィンカーを出して、スタンドに車を乗り入れる。

白線内にピタリと車を停車させ、財布を握り締めて車を降りた。

カード、カード。コイツをまず、機械に通さなくっちゃ。あれ?どこ?カード通すアノ機械。カードリーダーは…見当たらない。しばらく来ない間に、カードを使うのはガソリン入れ終わってからに変更されたのかもしれない。妻の許可なく…。おっと、静電気防止のプレート発見。あれ?こないだ見たときと色や形が変わってる。そうか、なーんだ、リニューアルしたんだ。てことは、やっぱりカードリーダーも場所が変わったり形が変わったりしてるのかもしれないな。

パネルを探すために、いつもより多めに静電気防止プレートに右手を翳す。手の甲、掌、指先、そして爪。探せ!今のうちに早く見つけろ!

梃子摺っている妻に気づいたのか、スタンドのにーちゃんが一人、駆け寄ってきた。

妻、右手を軽く上げ、大丈夫だからと応える。

そう、大丈夫。なハズ。だから頼む、手出しはするな。最後までやらせろ。

サングラスの端に、首を傾げ妻のほうへとにじり寄ってくるスタンドのにーちゃんを捕らえた。

『分かってるのよ。本当よ。大丈夫。初めてぢゃないんだから。先月の頭にも来たんだから。ほら、こいつでしょ。ええと、ハイオクだと黄色だっけ?赤だっけ?これを掴んで、人差し指でレバーを引いたままノズルを注入口に差し込んでなきゃいけないのよね。これがけっこう堪えるのよね、人差し指が攣りそうになって。そうでしょ?知ってるんだから。普通のスタンドのおにいさんたちみたいに、注ぎ足しはしないわよ。自動で止まるから』

妻、近寄ってくるスタンドのにーちゃんを無言で制し、任せておけと自信ありげな顔を向けた。

「ちょっとー、待ってくださいよー。勝手にやんないでくださいってばー」

え?

なんで?

どーして?

間違ってないぢゃん。カード通してないから?やっぱ、順番ミスった?

「ハイオクですね? やりますからー」

いや、いいって。セルフだし。若人の手を借りなきゃいけないほど、年取ってないって。

彼の右手が給油ノズルを握る妻の手に触れた。きゃっ。いやん。触られちゃったわ。

妻、青年の胸に付けてあるネームプレートで名前を確認。

…しようとして、初めて気づいた。

『ENEOS ワタナベ』

ENEOSて…。セルフスタンドちゃうやん!

8月4日

足が凄いことになってる。キャンプで草履を履き、その上から防虫スプレーをこれでもかっつーくらい噴霧しておいたのに。物理的にスプレーできなかった草履の鼻緒の部分と指の股。多分、裸足になったほんの僅かの瞬間を狙って、奴らは飛びついてきたんだな。

双翅目糸角群のカ科に属すらしい蚊め。

お陰で霊長目 ヒト科ヒト属ホモ・サピエンス種の妻の足先は、短い指が全て腫れまくって指と指の間に隙間が全くありません。まるでクリームパン。スニーカーまで窮屈になる始末です。

「その足なら、火渡りだってできるに違いない!」と夫に太鼓判を押されている軽石のようなカサカサ踵まで、やつらの餌食になりました。画鋲を踏んでも痛みを感じなかった踵なのに…カッターナイフでえぐり取ってしまいたい程痒い〜!

歩いているとき、車を運転しているとき、掻き毟れないと思うと無性に痒みが増大されます。

あぁぁ、辛抱たまらん。

買い物途中のカフェテリアで、コーヒーを啜りながらおもむろにボリボリと掻き毟る。人目なんて、気にしてられません。

『きゃー、見てみて、あの人、水虫なのかしら。やーねぇ』

あら、一つ向こうのテーブルに移動ですか。ボリボリボリ。もしかして、気持ち悪がられてる? ボリボリボリ。いいですよ、いいですよ。ボリボリボリ。水虫女だと思いたいなら、そう思ってくれても。ボリボリボリ。なんなら、掻き毟ったときに出る垢を調味料としておすそ分けしましょうか? ボリボリボリ。

ギャラリーの様子をキョロキョロと眺めつつも、人差し指の華麗な動きは止めません。時折指の腹で優しく、時折伸びた爪で激しく。つか、好きなだけ掻き毟るために、カフェテリアに入ったようなもんだし。

あら、あのご婦人もこっちを見てるわ。

と思いつつ、カップに手を伸ばし、取っ手を掴もうとしてヌルリと滑りました。

妻の右手の人差し指、血まみれです。勿論、土踏まず、指先、踵からは流血。いやぁ、掻きも掻いたり。

だ、だ、誰か〜輸血は必要ぢゃないっすか〜B型だけど。

8月5日

どうも苦手な人がいる。

近所の子供たちに「変態」と呼ばれているBJだが、中にはマニアもいるようで、その人は散歩中の我が家の愚犬を見つけると必ず駆け寄ってきて「BJを貸せ」「BJのリードを持たせろ」と言うのだ。

自分は大きな犬を連れて散歩をしているのに。

昨日の夕刻、路地の入り口で前方に彼女が友人たちといるところを目撃し、また同じことを言われるようだと散歩に時間がかかってしまい夕飯の支度をするのも遅くなってしまうと思い、別の道を歩こうと背を向けたところ、運悪く見つかってしまった。

「ちょっとー!」

こちらに向かって遠くで叫ぶ彼女。

聞こえないフリ、聞こえないフリ。

「BJ!」

飼い主が呼んでも応えないくせに、愚犬、振り返って彼女の方へ顔を向けてしまった。このバカチンめ。あぁぁ、そうなるともぅ無視できなくなったぢゃないか。

「あら、こんにちわ。いたの、気づかなかったよフヘヘ(大嘘)」

「それ、貸して。アタシに持たせて」

案の定、彼女は妻が持っていたBJのリードを毟り取ってしまった。

「ヨシ、BJ、走るぞー」

彼女は右手に自分の家で飼っている犬、左手にBJを連れ、住宅街の1区画を何度も走って往復しだした。2匹とも数分で息が上がり、足がもたつき時折彼女に引きずられている。

「暑さに弱い犬なんだから、無理させないでよ。つか、まだ糞してないし、散歩の途中なんだから」

そういって、BJのリードを渡してもらおうと手を差し伸べた。

無視。そして、また走り始める。

んだよー!

「サラだって糞がまだなのよ。歩かないと、散歩だって終わんないんだから」

そういって、彼女から無理矢理リードを奪おうとすると、ヒョイと身体を捻りかわされてしまった。

チクショー!

「ぢゃぁさ、こっちあげるから。サラとラックで散歩してきなよー」

アゲル? 何をほざいとんのぢゃ、どつくぞ、このクソババア。

って、相手は名前も知らない小学生なんですが…。

8月6日

友人であるF氏に、数日前「本気でダイエットしたほうがいいんぢゃない?」などとゆーメッセを頂きました。うっさい。久しぶりに彼と会った今年の花見の席でも「太った太った」と呪いの言葉をかけられましたが、それから数ヶ月の間でさらに恰幅がよくなってますよ、念のため。

このトシで痩せちゃったりすると、あーた、病気だと思われちゃいますしね。

「ある時期急激に痩せたが、あれは糖尿病のような痩せ方で、体調が思わしくないんぢゃないだろうかと心配していたんですよ」と左とん平氏も故渡辺文雄氏についておっしゃっておりましたしね。

とはいえ、2,3年前に余裕で着ていた洋服が入らなくなり、このままのペースで横に成長が進めば毎年衣服を新調しなきゃならないとゆー問題にも直面しているわけです。いかん。

そこで、はたと思い出しました。

10年以上前に騙されて買った矯正下着のことを。

仕事仲間だった男性Wに、彼女を紹介するので友達になって欲しいと言われついていくと、何故か彼は「二人でしばらく話をしなよ」と言い残しその場を去ったのです。初めて会ったこの巨乳女、突然妻に相談したいことがあるなどと言い出しました。「ココぢゃ、ナンだから静かな場所へ移動しよう」という彼女。連れて行かれたのが、某下着屋の事務所だったわけです。それでもまだ、彼女から、Wの浮気調査の依頼でもされるのだろうと思っていたお目出度いやつ。

今になると、記憶も定かではありませんが…。

たしかあの時、まだ細かった妻の太股を摘まんで「貴方の貧乳だって、この太股の肉をほら、こうやって引っ張りあげれば…グワシッ…背中の余分な肉もこうやって前に持ってくれば…グワシッ…2カップ大きくなるんですよ」などと誇らしげに言っておりましたっけ。

ガードル2枚、デカパン4枚、ぐいぐい寄せてガッツリ上げるブラヂャー2枚、自分一人ぢゃ絶対着れそうにない背中ホックだらけのコルセット2枚、股座にボタンがついたボディースーツ1枚。

「専用のケースもおつけしますね」と合皮で出来た直径50センチ以上もある丸いバックまでいただきました。が、専用ケースて。矯正下着だけを普段から持ち歩いておる人なんて、おりますか?

「素敵なバックだねー。帽子入れにもなりそうだし、嬉しい〜」などとほざいたアホめ。ツバのでかい洒落た帽子なんて一つも持ってなかったくせに。タイムスリップできるなら、あのときの自分を撃ち殺してしまいたい。

金額は15万だか20万だか。あぁぁ、益々、あのときの自分を刺し殺してしまいたい。

「毎日全部をつけてれば、必ず大きな胸を掴み取れますからね〜」

などと笑顔で送り出されたものの、季節は夏。自宅ではパンツ一丁で過ごしているような妻に、こんな拘束着を身につけることは拷問に等しいのでありました。

要するに、未使用。専用バックに入れたまま、10年以上封印していたのであります。

「おーし、今こそ使うとき!」

当時より、太股にも背中にもタップリ肉がついたしね。こいつらを全部胸にもっていけば、巨乳どころか爆乳女になれますヨ。

 :

 :(装着中)

 :

痒いです。

暑いです。

ぐるぢぃです。呼吸が荒くなってるし、別の病気にかかりそうです。

そんなわけで、再び封印されることになりました。

次に使うのは、多分10年後だったりしてね。ついでに、今日着用してみたことも忘れ「買ってから初めて使うの〜」などと言い出したり…。やっぱり、今毒殺しておくべきか?

8月8日

昨日は、浴衣を引っ張り出し、夫婦プラス1匹で七夕祭りへ行ってきました。

「あれー? どっちが前なんだっけー」

「紐で一回結んだ方がいいんだっけ?」

2階のこの部屋は、西日がガンガン差し込んで兎に角暑い。汗を垂らしながら自分の帯と格闘している妻の隣で、数分おきに口を挟み、手を止めさせる夫。んもーっ。もぅ少し待っていなさい。こっちが済んだら手伝ってやるっつってんだから。

「こうだよな。で、帯はどーすんだ?」

そういえば確か去年、何度も締める練習をして頭に叩き込んだハズぢゃなかったのかぃ? 大丈夫だ、完璧にマスターした。これからは妻の手を借りず、一人でできるヨ! などと言ってたんぢゃなかったのかぃ?

「キミはガンモ以下ぢゃー!」

「…?」

「豆腐屋の息子のガンモ! あいつなんか、ガキのくせに自分で着物が着れんだぞ! しかも毎日羽織りまで羽織ってんだぞー!」

「…?」

「アッコちゃんのー!」  

8月20日

ぎゃー、すっかりサボり癖がついてしまったようで…ココを更新するのは一体何日ぶりなんでしょう。夏休みの間、PCに全く触ってなかったんですが、その間に数多くのファンメールを頂いて、返事を書くのに忙しかったんですよ。ほら、一応律儀な性格なもんで(嘘)。

いや、正確には返事を書くのに忙しかったんぢゃなくて、返事をどう書けばいいのか考えあぐね時間が過ぎていってしまったわけで…。

有難いことですねぇ、ファンメール。そのどれもが、全く同じ文面なんですが、送信者が違うのでやはりお返事の文面をコピペにするのは失礼だろうと。

「いきなりのメール失礼致します。 どうも初めまして。美紀といいます。
結婚して4年、目下26歳です。 受付やってたんですが、何故か26歳年上の社長に目をつけられて 結婚しました。
でも、えーとですね、主人の年齢が年齢なので 私、セックス面でとても満たされない日々を送っています。。
もとから人並み以上にエッチが好きってのもあるんですけど、 いますっごくしたくてしょうがないんです。。
どうしても我慢ができなくて、ネットで相手を探していたところ、 近い場所に住んでるらしい貴方を見つけてこうしてメールしている次第です。
主婦という立場上、秘密厳守での関係を持ちたいと思っているのですが、 そちらとしては何か希望する条件はありますか?
私、仕事はしてないんですが、お金とか全然平気です。 主人からもらっているお小遣い、 全然使い切れてないのでサポートという形でも全然かまいません。
できればいいお返事いただきたいと思っています。」

どうも美紀さんは、わたくしのことを男だと思っているようですが…ファンメールですよね、こいつ(違)。

8月23日

週末、野営に出かけてちょっとしたハプニングがありました。

深夜2時過ぎ、頻尿の妻はシュラフの中で目を覚まします。尿意ではなく、便意をもよおしたから。つか、寝糞しちゃった夢を見ちゃいまして、その余りのショックに慌てたわけです。咄嗟に右手を尻にあてがい、パンツが盛り上がってないか確かめたり、恐る恐るパンツを撫でたその掌を嗅いでみたり。

クンクン…セーフ。

ほっ。夢だった、ヨカッタ。

と安心したのもつかの間、下っ腹からキュルキュルと祭囃子が聞こえてきます。ヤバい。

下腹部に刺激を与えぬよう、前かがみになったままテントから這い出て、入り口のところに置いてあった大きな夫のサンダルを突っ掛ける。このとき、自分のサンダルを選ばなかったのは、朝露に濡れた芝で足先が濡れるのを嫌ったからなのですが、この選択があんな結末になるとは…。

高橋家がテントを設置したエリアは、荷物の積み下ろしのため車の乗り入れができるアスファルトから一段低くなった芝地のエリア。このエリアに下りるための整備された階段などはなく、数箇所砂利敷きの急勾配の小道がある他は芝で覆われた斜面になっておりました。トイレはアスファルトの道路を渡った向こう側。つまり、毎回この急勾配を上り下りしなけりゃいけないわけです。歩数にすれば、4,5歩程度の斜面なんですけど。

昼間、何度もここを往復しているから、目を瞑った状態でもお茶の子さいさいサ〜。寝ぼけてはいたものの、テントとトイレを結ぶ最短距離を瞬時に頭に描き、その直線コースを歩きます。が、アスファルトへ上ろうとしたその斜面は、砂利道ではなく芝地の傾斜でした。

ズルッ!

朝露で濡れた芝に足を取られた妻。夫のサンダルは妻の足を離れ、滑った拍子に前方に勢いよく突っ伏した妻は、両膝と顔面を同時に地面に打ち付けました。前者は柔らかな、それでもところどころ石が落ちている芝地の斜面に、後者を斜面とアスファルトのちょうど境目、つまりアスファルトの出っ張りに。防御の最大アイテムである両手は、下腹部と尻の穴を押さえたまま…。

妻、このトシになって、赤子のように号泣ですよ。トイレの一歩手前で突っ伏したまま。だって、すげー痛かったんだもん。立ち上がれなかったんだもん。余りの痛さに、便意もしばらく消えてましたっけ。

うえーん、うえーん。

3分だったでしょうか、いや10分だったでしょうか。裸眼だったため、真っ黒にしか映らない空を見上げて、その場で仰向けになり両足を広げ、両手をばたつかせてうえーん、うえーん。

高橋家の隣にテントを設営した友人夫婦、その他にも10組近いキャンパーがこのさほど大きくないキャンプ場で野営を楽しんでいました。ええと、誰か助けに来てくれるかと思ったんですが…。誰も気づいてはくれなかったようです。

ズッキン、ズッキン。

テントの中で寝糞を漏らしてないか確認したその掌で、今度は出血してはいまいかと額を触ってみる。暗くてよく分かりませんでした。

「血、出てるの?出てないの?もしかして、ブッチャーみたいに額をパックリやっちゃったとか?いや〜ん、うっそー…あ、それより、うんこ…うんこ出る」

出血の確認よりもまずはトイレです。痛む足を引きずってトイレの扉を開き、小さな和式便器に屈みこむ。

最悪。ただの便意だと思ったら…こんな時に、極度の下痢ですよ。これが最後ダ!最後にしてくれ!と力む度に右目の周りと両膝に激痛が走ります。足はガクガクと震え始め、あぁ、もしかしたら妻は脱糞中に力尽き、和式のこの便器に尻を挟み、その尻が自力では抜けずにレスキューを呼ぶことになるかもしれない…。駆けつけたレスキュー隊は、そんな体勢で、尚且つ顔面から血を流している妻を見て、どんな想像をするのだろう…。ダメダメ、諦めちゃダメ〜。

備え付けられていたトイレットペーパー。見事に1ロール使い果たしてしまいました。資源の無駄遣い、ごめんなさい。

トイレを出てきたときには、見えなかったはずの景色がはっきりと見えています。そう、夜が白々と明けようとしてたのです。

そして、この事件から24時間後。

妻の顔は変わりました。少し赤く腫れていただけの右目の回り(眉の上に切り傷と腫れ、右目尻辺りに擦った跡)は、凄いことになってます。鏡に映った姿はいつもの妻ではなく、ドラゴと戦った後のロッキー・バルボア(夫はお岩さんといいますが)。右目の回りがどす黒く変色し、腫れも一層酷くなって、どんなに力いっぱい目を見開いても、腫れた瞼で眼球が糸の様にしか見えないし…。

あぁ、そういえば、同じような顔になったことが、過去にあったっけ。

高校時代にやっていたソフトボール。マスクをつけずにキャッチャーをやっていて、バッターの打った3号ボールを直接右目で捕らえたとき。蛇口を捻ったように、いきなり鼻血が噴射して、3日間学校を休んだよな。横から見ると鼻より高く腫れあがった右目と真っ黒く変色した瞼。「この顔のままぢゃ、嫁の貰い手はないね〜ガハハ」などと母親に言われて、ちょっと傷ついた乙女心。

無事、嫁の貰い手に巡りあう事ができた今の妻は、傷だらけでメダルを獲得したオリンピック柔道選手のハイライトシーンを見ながら気分だけは格闘家です。

昨夜から、頭の中にはロッキーのテーマ曲が流れっぱなし。

それにしても、視界、狭っ。

8月27日

シンクロ選手のVゾーンの無駄毛処理は、一体どこまでやってるんだろう。

それより気になるのが、男子高飛び込みの選手。飛び込んだ拍子にあのちっこいビキニパンツがずり落ちて、イチモツポロリンなんてことにならないのだろうか。衝撃の瞬間を見逃さないよう、選手の名前が呼ばれる前に、眼鏡レンズの曇りを除去し、点眼液を両眼にタップリ注入。瞬きしないように、瞼に力を込めて細い目を見開きます。たいてい、ここぞっつーときに涙が溜まって視界がぼやけてしまうんですけど(ダメぢゃん)。カメラよ、グググィっともっと寄って、どアップでお願い(特に水中)。

そんなことはさておき、昨日、友人に「貴方に似てる人が書いたエッセイ本があるのよ。読んでみて」と2冊の文庫本を渡されました。

「ダメ主婦だって。掃除もね、埃が溜まっていく様をじ〜っと観察するような人なの。しばらくそこら辺に放置してりゃ臭いの素が和らぐからまた着れるぢゃん、って洗濯だってあんまりやんないらしいのよ」

オイ、そんな人がなぜ似ていると?

「だってほらー、西日が当たると部屋に散らばった犬の毛が目立つけど、そーゆーときは眼鏡を外して見えないようにするんだって言ってたぢゃん〜」

いや、そうだけど。

「本の雑誌」「WEB本の雑誌」でよく目にする、青木るえかの「主婦でスミマセン」「主婦は踊る」の2冊。

そりゃぁ、玄関開けたらカオスですよ、我が家は。冷蔵庫の中だって、白骨化した根菜類や、白とピンクのまだら模様の毛皮(黴?)を着こんで冬支度を始めたらしい茄子の漬物がありますよ。でも、彼女の家の食材は、もっとすごいことになってるぢゃないですか。醗酵して缶詰が破裂して蓋がぶっ飛んでしまうくらい。賞味期限は昭和の時代の代物だし。しかも、缶詰破裂してもそのまま放置してるし。

「ね、上には上がいるもんだな、自分はまだまだだな、って安心するでしょー」

あぁぁ、う、うん。そうね。

でも、のっけからショックを受けたよ。

掃除、洗濯が嫌いなだらしない彼女ではあるけれど、旦那を必ず「いってらっしゃーい」と送り出すと書いてあるぢゃないですか。「いってらっしゃい、頑張ってね、愛してる〜」と言わない奥さんを批判的な目で見ると書いてあるぢゃないですか。

平日の寝起きの夫の顔を、そういえば何日見てないっけか…。今日も、昨日も目覚めたときには夫の姿はなく、そのくせ、ゴミを出した後始末に不備な点があったと舌打ちする。蓋が開けっ放しぢゃん! 蓋を閉めなきゃ臭いぢゃん! と。

「るえかさん以下か、やっぱ。ガハハ」

そうなのか? 以下なのか?

「つかさー、旦那に恵まれてるよね、どっちも」

彼女の他のエッセイも買いあさるので、読み終わったらまた持ってくると鼻息を荒げる友人。友人は、この本に影響され、わたくしがどう変わるのを期待してるんでしょうか…。

8月31日

二度寝をしたら、やる気の失せるような夢を見てしまい、朝から両肩がガックシ落ち気味です。まぁ、二度寝をすること自体が主婦としてどーなのよソレ、って話なんですが。

ええと、人を誘拐しちゃった夢です。どーなんですか、これってー。自分で調べろですか、そうですか。本棚からフロイトの「夢判断」を引っ張り出して読み進むと、次第に瞼が重くなってまた新たな夢を見ちゃうんですよね、いつも。一体、どーすりゃいいのよ。てなわけで、誘拐犯になった今回の夢。

歩道を歩いていた男子1名に、300円やるから、車に乗りなさいな、なんてことを言っちゃったわけです。

「えぇー!?でもぅーでもぅー、ボ、ボ、ボク、これから行かなきゃいけないトコ、ありますし」

「んぢゃ、そこまで連れてってやるから、乗りなさいな。送ってやんだから、乗りなよ。ガタガタ言わずに、いいから、乗りなっ!」

オロオロするその男子1名を助手席に引きずり込んで、そして言う。

「あ、うちの車、犬の毛だらけだから、そのまま座ると洋服、毛だらけになるぞ。だから脱ぎな」

夢のくせに、シチュエーションだけはいやにリアル。車の内装だって、現実のそれと全く同じだし、ご丁寧に数週間前からフロントガラスの下に放置されっぱなしの虻の死体までゴロゴロしてる。

キッと睨みつけると、男子1名は随分と気の弱い男のようで、はぁ、そうします、なんて言いながら助手席でパンツ一丁になった。よしよし、それでいいんだ。それにしても、意外と地味なパンツを履いているんだなぁ。お母さんに選んでもらったのか?

「ええとー、そっちの道に行かれちゃうと、ボク、困るんですよぅ」

何だと!? 貴様、誘拐されたくせに誘拐犯に指示する気か?

「い、い、いえ、指示なんかしませんよぅ…」

男子1名、とうとう泣き出しちゃいました。

男の癖に泣くんぢゃない! チュッパチャプスやるから、泣くな。よし、んぢゃぁ、お前が運転しろ。涙で前が見えないか。そうかそうか、拭いてやる(貴様の洋服で)。誘拐犯、かなり尽くすタイプです。

この後、何の進展もないまま延々と楽しいドライブを続ける二人なのですが、この男子1名が何故か安住紳一郎だったわけですよ。なんとまぁ、よく泣く男だなぁ、くらいにしか思ってない別段興味のない男が何故夢に?

つか、自分より金のない哀れな男だと潜在的に思ってたっつーことでしょうか。よく涙流してるし、しかも300円でついてきたし(こっちは夢の中の話だけど)。

夢の中の自分よ…そりゃ絶対間違ってる。彼の財布の中身の方が多いって…。

ところで、我が家の電話はぶっ壊れちゃったようです。相手には呼び出し音が鳴ってるらしいんですが、高橋家内では押し黙ったまま。こちらからかけることも、どうもできないようです。このオンボロめ。で、携帯電話も先ほどまで車のダッシュボードに押し込んだままだとゆーことに気づきました。ご丁寧に電源を切ったまま。先週末から高橋家と連絡が取れないでわないか!とやきもきしていたそこの貴方、ごめんなさい。って、いねーか、そんな人。

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