世にも珍しいあずまやキャトルのナビシートに座る機会を幸運にも得たキャトルクラブ関西支部構成員Sが、その貴重な経験を記した文章を寄せて きたので紹介する。家に帰れば良き夫である彼も、キャトルの他にSUZUKI WagonR、HONDA BEATという日本の自動車文化の基本たる軽自動車を2台も所有する筋金入りのBottom Range野郎なのだ。しかもこの日はルノーお誕生日会出席だけのために自宅のある滋賀県は草津市から夜行バスに一晩中揺られて東京くんだりまで 出てきた猛者でもあるのだ。勇気ある行動に賞賛の拍手を我々は惜しまないだろう。

極楽キャトル同乗記

98.12.23 関西支部構成員 S.Y.記

祭りに浮かれた関西構成員達と。記念 写真にこれほどうってつの車はそうはありません。この写真は本文とは関係ありません。

なお、以下の画像とキャプションは本文とは別の人間の手によるものです。

  キャトルには屋根とドアを持たないバリエーションがあります。名前は「プレネール」。“空気がいっぱい”という意味です。プレネールは、本当にドアと屋根 が無いだけで顔かたちはキャトルそのものです。同じような、過剰に開放的な他車(ルノー「ロデオ」やシトロエン「メアリ」、「ミニモーク」など)とちがっ て、顔かたちがそのまんま実用車のキャトルであるところが、好き者にはたまらない魅力です。この、へんてこなキャトルを東京のK氏が持っています。私たち はその車に会いたくて、K氏のご迷惑も顧みず、朝早くからK氏宅へおし掛けました。ルノー100周年 のお祭りが代々木公園で開かれた日の朝のことでした。
東京某所にある立体ガレージにそれは眠っていた。下手なカブリオ レの幌よりもしっかりしたカバーがK氏の手によって注意深くめくられていく。緊張の一瞬。その姿を現しつつあるPAにS構成員の目が光る(こちらからは見 えてないけど)。

剥がしたカバーは結構嵩張るものですがきちんとトランクルームに収まります。そうです、4人が乗れるだけでなく、このPAには立派 なトランクもついているのです。
  最初に見たとき、プレネールは幌を閉じていました。「閉じている」とはいっても、何しろドアがありませんから、横にはがっぽり開いています。幌の骨組みは たった2本の細い鉄パイプのみで、その太さや曲がり具合はパイプ椅子に似ています。ずいぶんと簡素な造りの骨組みですが、幌は気持ちよくぴんと張っていま す。

基地を出撃するPA機、のつもりで画 像を配置したらドライバーの姿が無い。サイドマフラーから生ガスの匂いを吐きながらの、ただ今暖機中。

この後、K氏夫人の白いキャトルと共に、黄色いシーカヤックを背負ったままの淡青Mのキャトルは会場 目指すあずまやキャトルの後を追って、慣れない首途高を駆ける。

 内装では、とにかく目立っているのは黒い革の椅子です。見るからに座り心地の 良さそうな、ソファのような椅子です。この椅子だけでも欲しくなりました。細くて径の大きなハンドルや、薄くシャープなインパネも目を惹きます。

 Aピラーの内側には鉄パイプが溶接されています(ボディと同色に塗られ、あま り目立ちません)。これは補強です。補強は他にも入っていて、屋根を切り落としてあるにもかかわらず、ベース車よりも剛性感はあるそうです。

  ボンネットを開けて下さったのでエンジンルームも覗き込んでみましたが、修行の足りない僕に判ることは多くはありません。気付いたことといえば、1)僕の キャトルとは違う小さなエンジンが載っている。2)エアコンがないのでエンジンルームが広いなあ。3)ひゃあ、冷却液のリザーバタンクがガラス製だ。くら いのものです。3)が一番驚きました。ポンジュースでも詰まっていそうなガラスビンなのです。割れないの?

  K氏がキーをひねると、セルモータがゆるゆると回転し、エンジンは一発で始動いたしました。ノイズが少なく、軽やかにまわるエンジンの音を聞くと、きちん と整備されているのだなあ、と思います。このエンジンは845ccのもので、ほんとに軽快に回っていました。あとで乗ってみて、振動は最終型の 1108ccよりも少ないようです。僕の1108ccが調子悪いだけかも知れません。

 代々木の「ルノー100周年」会場まで、助手席に乗せてもらうことにしました。快く了承して下さったK氏 に感謝して、早速乗り込みます。黒い革の椅子は、見た目のとおり、適当に柔らかく体を包む快適な座り心地で、椅子車ルノーの面目躍如であります。

K氏の「落ちないように、注意して」との安全教育の後、ゆっくりと動き出しました。この車、とにかく視界が 広大です。たとえば、ちょっと下を見ると、自分の右膝のすぐ向こう側に流れるアスファルトが見えるのです。

  カーブではちょっと恐いのでサイドパネルを握って体を支えます。そうしないと本当に落ちるかもしれない、と思うからです。でも実際は、ちょっとしたカーブ なら落ちることはないでしょう。椅子が緩く体を包み込んでいるからです。ただし、荷物を助手席にのせておくと、あっさりと飛んでいってしまうそうです。

 いい忘れてました。この車、シートベルトがありません。もともと無いのです。造られた頃がそういう時代 だったのでしょうか。

 まだ人影まばらな朝の下町。澄んだ空気をたくさん浴びて走ります。朝の空気はオープンカーのためにあると いってもよいでしょう。ヒーターをつけると足下がほのかに暖かくなりました。

  「オープンカー」と書いてきましたが、実はこの時は幌を閉じたままでした。ドアがないために、幌を閉じたままでも、そのことを忘れてしまいそうなくらいに 開放感があります。車内は日が射し込んで明るいし、なにより風通しがよすぎます。この車は幌を閉じてもオープンカーです。

 ときどき、すれ違う人々が、なんだこの車は、という表情で見送ってくれます。信号待ちで、並んだ車からも 熱い視線を感じます。で、こっちからも目を合わせようとすると、目をそらされるんだな。

 この、開放感の塊のような車で首都高速に入りました。こんなに体むき出しで高速道路をはしっていいの? シートベルトもヘルメットも無いのに。
首都高速を駆けるPA。呑気そうに見えますが時速80km走行中の画像です。S構成員が書いているようにドアも無ければシートベル トの備えもありません。見ているこっちが怖かった(追い越し様にノーファインダーでシャッタきっているから本当は見ていないのだけど)。
  さすがに高速道路ではカーブで緊張感が高まりますが、それでもたぶん落ちることはないと思います。体はちっとも振り回されません。(K氏の運転が丁寧なこ とも奏功しているはずです。)トウキョウタワーを右目に眺めながら、極楽クルージングです。ドアがないから景色もたくさん見えます。とっても広い東京の町 が。ビルの谷間を走るときには、窓に映るプレネールがキュート。もちろん後ろからついてくる2台の屋根のあるキャトルもキュートです。

  高速道路でも風通し具合は極楽です。会話だってふつうの声で充分できます。ただ、ちょっと寒くなってきました。僕は手袋をしていなかったもんで、サイドパ ネルをつかんでいる手が、かじかんできたのです(なにしろこの手はつねに「車外」にあったのです)。ヒーターも高速道路ではほとんど効果ないようです。と はいうものの、この風通しの良さも寒さも「ガマンする」って感じではありません。寒さすら気持ちよく楽しめてしまう車です。

 高速を下りて信号待ちで停車すると、車の中がほわっと温かくなりました。ヒーターが効いてきたわけでな く、風がおさまって体感温度があがったんじゃないでしょうか。
幌の収まりが悪かったのか、この後の信号待ちで停車と同時に二人が飛び降りてきて直していました。 急げ、Sさん、信号が青に変わってしまうぞ。(しもうた、本名出してしもうた)
  信号待ちの一瞬を利用して、幌をたたむことにしました。プレネールの幌はフロントウィンドウの上端部でたった3つのスナップでとめられています。これをパ チンパチンとはずして、幌全体を後ろに畳むだけ。簡単です。あまりに簡単なので、時速80kmを超えると車が勝手にやってくれるそうです。ともかく、これ でほんとにフルオープンになりました。あきれかえるほど広々しています。

 プレネールはケヤキ並木の美しい表参道に入りました。すっかり葉をおとしたケヤキの枝を通して東京の冬空 がきれいです。オープンカーの助手席はゆっくりと流れる空を見ていられて極楽だなあ。

 こ洒落た建物が建ち並ぶ表参道をプレネールで走るのはちょっとハマりすぎ?今は朝早いので、あまり人も車 もいないからよいけれど、これが人出の多い時間帯ならば、目立ちすぎてちょっとはずかしいかも知れません。

 とうとう目的地に着いてしまいました。

  右手はすっかりかじかんでしまったけど、もっと乗っていたかった。空気がいっぱい、という名前はこの車の性格をよく表しています。とにかく風通しがよくて 広々しているのです。オープンカーの評価軸の一つに、いかに「風の巻き込み」が抑えられていているか、というのがよくありますが、風の巻き込みは少なけれ ばそれでよいとは限らない、ということをこの車は教えてくれます。プレネールで味わう風=空気は、とても気持ちの良いものでした。

 Kさん、機会があればまた乗せて下さい。僕のキャトルの屋根を切る勇気はありませんので。

おわり。




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