赤城尾山 2001年9月1日
*2003年3月13日:山名の読み方について備考に追補
さまざまな高知県の山に登るうち、何度も訪れてみたい山が増えてゆく一方、おそらく2度とは登らない(登れない)だろう山も、私の中で増えてゆくのは事実である。
それは多くの場合その山に魅力が無いからではなく、私にその魅力を感じる力が足りないせいであり、その魅力に比較して歩行距離が長く険しい場合が多い。
赤城尾山についていえば、尾根に立ちならぶゴヨウツツジの大木や、大崩壊(大ザレ)箇所からの眺望など魅力は多いが、しかし、展望皆無の山頂、そこに至るまでのルートや距離を思う時、やはり私にとっては1度きりの山である。
しかし、どんな山であっても実際に登ってみることこそ価値はある。
広げた地図の上に「赤城尾山」という山名を見つけてから、一度は踏んでおきたい山だった。
今年の初夏に隣の「行者山」に登ってからその思いはことさらだった。
ようやくその機会を得て、私たち4人は登山口である安芸市の駒背越トンネル南口に向かった。
駒背越トンネルは安芸市の北東端に位置し、徳島県木頭村と安芸市を結ぶ千本林道(林道東川千本谷線)の最高標高点(約1060m)にある。ここへは高知市方面からだと安芸市を経由せずに物部村から国道195号線で四ツ足峠トンネルを経て徳島県木頭村に抜け、千本谷橋のたもとから千本林道をさかのぼる。私はこの界隈に何度となく訪れているが、毎回このコースを利用している。なお、この時、駒背越トンネルの安芸市側は崩壊のため通行止めでもあった。
千本谷沿いの林道を南下し駒背越トンネルに向かうと、稜線が近くなる頃、右手(西方向)の山肌にいくつもの崩壊箇所が見えてくる。緑の植林の中に無毛の地肌を見せるいくつかの崩壊地、その上の尾根をこれから私たちは歩くのである。よく見ると、尾根にも2箇所大きなザレ場が確認できる。
さて、千本林道を登り詰めて駒背越トンネルを安芸市側に抜けると、すぐに左手に広場があり、トタンの剥げた作業小屋がある。ここが今回の登山口である。
作業小屋の右横から低い擁壁の上に登り数歩、山手の植林の中にある踏み跡が登山道である。
駒背越トンネル南口に作業小屋がある。登山道は右手を行く伊藤君の奥にある。
植林の中に延びる山道は杉の枯れ枝が踏み跡を隠し、ガラガラした石塊が多く歩きづらい。
それでも道は植林の保安などに利用されるのか、小さなザレ場には丸太の橋が架けられていたりする。
登山口から植林の中の登りが続く。
踏み跡を外さないように、案外急な植林の中をジグザグに登って行くと、登山口から約10分で尾根の張り出しに出て若干の展望が開ける。
眼下には安芸市最奥の集落「別役(べっちゃく)」あたりが望まれる。ここから安芸市街は遠く遙か、確認はできない。
さて、ここで道は二手に分かれるが、真っ直ぐには行かないで、折り返して上へと向かう。
相変わらず植林の中を足元だけ見つめて登って行く。
やや汗ばんだ頃、展望の開けた箇所でひと息つく。
登山道から南西の眺望。伊尾木川沿いに山肌が波打つように見える。
簡単な小休止を終え変わりばえのしない山道を登って行くと、登山口から約27分で高知徳島の県境に出る。
更に登れば1310mのピークだが、ここからは駒背越トンネルの真上を目指して下って行く。
ここから赤城尾山まではほぼ忠実に県境を辿ることになる。
県境に出ると対岸奥に赤城尾山の山頂が見える。登山道はこの対岸に見える大崩壊地の左脇を直登する。
県境の尾根から赤城尾山方向を見ると、正面の山肌に大ザレ場が見える。
登山道はここから駒背越トンネルの真上までいったん下り、正面のザレ場の脇を直登して赤城尾山に向かうことになる。
これから辿るであろうルートの難所を確認して一同ため息をつくが、それよりも未知への好奇心が勝り、植林の中の急坂を下って行くことになる。
一気に5分も下ると道はなだらかになる。
間伐も枝打ちもされず窮屈に立ちならぶ杉の植林を行くと、間もなく道は尾根からやや右手に逸れて先に延びている。
小さな起伏を登り返し、登山口から約40分あまり、最低鞍部で左手(安芸市側)に下る山道と出会い、ここから道は崩壊地に向かっての急登にさしかかる。
なお、安芸市側に下る山道については、帰途に若干踏査してみたが駒背越トンネル方向には向かっていないようで、別役方面から伸びてきたものと思われるが、途中でヤブになり引き返した。
植林の中、県境の稜線を行く。
さて、いよいよここからがこのコース指折りの難所である。
最前眺めた通りの急斜面を道は真っ直ぐに上へと向かっている。
とは言っても、道には低木が茂り上方は見えない。しかも急坂では上を見るだけで首が痛くなる。ただただ比較的しっかりした踏み跡を辿る。
急坂を登り始めて5分ほどで、ざっくりと口を開けた崩壊地の縁(へり)に出ると、すぐに索道の赤い滑車のそばを通る。索道のワイヤーは駒背越トンネルの北口に向かって張られている。
滑車の脇を過ぎるとスズタケが目立ちはじめるとともに、リョウブやアセビ、シキミやミツバツツジなどの低木が先ほどまでの植林歩きから気分を一転させてくれる。
しかし、登山道の傾斜はますます厳しくなりそんな自然に和む余裕も無く、4人はただ黙ったまま短い歩幅で上に向かう。
急登にたびたび立ち止まっては息を整える。