最低鞍部から急坂を登り始めておよそ15分、疎林で南を振り返ると伊尾木川の源流を挟んで対岸に美しいやまなみが見えてきた。
ここまで来ると急坂も後わずかである。時計を見ると歩き始めて間もなく1時間が経とうとしている。急登にうんざりもしてきたことだしとザックを下ろし展望を眺めてひと息つくことにした。
対岸に見える高ノ河山(たかのこうやま)と西又山(にしまたやま)は、最近ブナの自然林が脚光を浴びているだけあって遠目からも山頂付近の景観が美しい。
実はこの2山は私たちにとって次回の目的地でもあった。自然あれこれと山談義に花が咲き、先ほどまで急坂で喘いだことも忘れてしまい汗はすっかり退いてしまった。
*高ノ河山と西又山は、2001年9月23日に登頂しました、いずれ機会があればご紹介したいと思います。
登山道からの眺め。左・高ノ河山、右・西又山。
さて、たっぷりと休憩を摂った後、再び急坂を進む。
林床のスズタケは背丈を超すほどになるが登山道は刈り払われておりそれほど苦にはならない。
先ほどの眺望も高度を増すごとに姿を変え、伊尾木川の下流に向けての展望が広がり、やがて徳島(木頭村)のやまなみが見え出す頃には空も広くなってきた。
喘いだ急登も間もなく終わる。
急坂を登り始めてから約20分、ようやくそれまでの急登が嘘のように辺りはなだらかになる。
地形図でも確認できるように広々とした一帯は、しかし植林に覆われており開放感には程遠い。
それよりもこの辺りはバカ尾根で踏み跡もやや不明瞭となり、うっかりすると進行方向を誤りやすいので注意が必要である。
ここは冷静に地図を開き、忠実に県境を辿れば再びしっかりとした道に出会うことができる。
*急登を終えると、スズタケが疎らなこんもりした丘のような場所に出る。ここで左の踏み跡は無視し、なだらかな一帯の東縁に沿うように北に向かうと道は再び明瞭になる。
急登を終えるとなだらかな小山に出る。
なだらかに北に向かうと数分で右手(徳島県側)から上がって来た道と出会い、間もなく山界標石の立つ分岐に出る。ここまで、登山口からおよそ70分。
山界標石の立つ分岐から西には美しいブナ林が広がり、物部村と安芸市の境に沿って刈り払われている。ここを西に向かうと1311mのピークがあり、一般には駒背山と呼ばれている。駒背山はブナ林観察の森として小学生などに親しまれている。
赤城尾山へは、ここから真っ直ぐに北へと尾根を辿る。
駒背山との分岐点には山界標石がある(伊藤君の足もと)。ここは真っ直ぐに画面右(北方向)へと向かう。
駒背山との分岐からは心地よい自然林が続き、心なしか足取りも軽くなる。ヤセ尾根ながら驚くほど野趣あふれるこの界隈がこのコース中私の一番好きな場所でもある。
特筆すべきはゴヨウツツジの群落で、どれも立派な枝を3次元に放出している。
自然はいつも巧みである。私たちの美感覚でキャンバスに描く「Composition(構図)」よりも遙かに卓越した姿がそこにはある。
広葉樹林に囲まれて奥深い尾根を行く。