ブナにモミやツガ、ホウの混じる尾根を、それこそ口笛でも吹きたくなるほど快適に進んでいると、突然伊藤君が怪しい声をあげた。
何事かと一同駆け寄ると一匹の蛇が尾根を横切っている。褐色の地に横縞の蛇は、後にその名が判ったことだが「ジムグリ(地潜)」だった。その名のように腐葉土の中へ潜り込んで逃げようとする蛇をしばし眺めた。
さて、心地よい尾根を快適に北へと進み、駒背山との分岐からおよそ12分、稜線で最初の崩壊地の上に出る。
足元をえぐり取るような崩壊地からは東の展望が開ける。恐る恐る身を乗り出すとその高度感に鳥肌が立つ。かつて足元にあった全てを一瞬にして奈落に運んだ大崩落に、自然の凄まじさを感じる。
今私たちの居る足元も、僅かばかり残された木々の根で保たれているばかりでいつ崩れ落ちるかも知れない。そういえばふかふかとした地面の感触が急に不安を誘う。
県境尾根で出会う最初の大ザレ場。足元までえぐれているが展望は開けている。
ザレ場を過ぎると登山道は下りになり、プラスチックの山界標柱を辿りながら県境をつたって北へと赤城尾山に向かう。
やがて急下降しては急登を喘ぐ登りになる。
ここまで来ると訪れる人も稀なのだろう、無造作に伐採された木々を跨いだりと思わぬ苦戦を強いられる。
それでも、時々出会うヒメシャラやスギの大木には随分慰められる。
県境の稜線にはスギなどの大木が残されている。
やがて小さなピークに出ると、ここは地形図にある1283mのピークである。ここまで登山口から約95分。
足元にはペンキで赤く塗られた山界標石が立っている。
ひとまずここで小休止し、ペットボトルのお茶で喉を潤す。
1283mのピークでひと休み。
わずかの休憩の後、再び稜線を辿り赤城尾山をめざす。
その途中のこと、私たちは頭上の異様な羽音に気付き息を殺して立ち止まる。
見上げると、どうやらスズメバチの大群らしい、相当の数である。
樹上なので巣があるとは思えないが油断はできない。
皆一様に万一のことを考え緊張が走る。
ともかくそっと身を殺して登山道を迂回し事なきを得た。
さて、その後は痩せた尾根を緩やかに下っては緩やかに登り返し、ヒメシャラの群落などを快適に泳いで1283mのピークから約18分後、稜線で2度目の大ザレ場の上に出る。
先ほどの1度目の崩壊地よりはるかに規模の大きい崩壊地の上に出ると、尾根筋に僅かばかり残された樹々を通して東の展望が開ける。
しかし、ここもオーバーハングして足元までもがえぐり取られ、ササと残された木の根でかろうじてとどまっている箇所が多く安心はできない。
2度目の大崩壊地。慎重に歩を進める。