秋葉山  2004年1月

路傍に立てて丁単位で道程を記した道標石を丁石(*1)と呼んでいる。
香山寺や岩屋観音堂のように一丁ごとに置かれたものや、熊王山や長谷寺のように参道入り口や主要道の分岐に置かれたものなどがある。
いずれも信仰の厚い神社などにみえ、行路の安全を祈願して、地蔵を彫りつけたものや長型に切り出したものなど、その形は様々である。

ここ、香我美町岩鍋集落入り口の県道脇には、自然石の丁石が立っている。
ここの丁石には、「左秋葉神社、是ヨリ十八丁」と刻まれ、裏には「本村役場十丁」の文字も見える。
ここがこれから向かう秋葉山への登り口であり、山頂にある秋葉神社までおよそ2Kmであることを示している。

(*1)町石。丁字石ともいう。一丁(町)=60間=360尺=約109m。

 
登山口である岩鍋集落入口。中央上が山頂。右下には丁石がある。

ミカンの収穫に汗を流す農家の人たちを遠目に、狭い車道を北へと向かう。この辺りは県内最大の温州ミカンの産地であり、段々畑には橙色の果実がたわわに実っている。
集落の最奥あたりまで来ると、屋根に空気抜きの設けられたかつての蚕室が見えてくる。そこを回り込むと車道の脇に大山祗五所神社が現れる。
神社は通称「山の神」と呼ばれ、社殿の背後に小さな祠が祀られている。
神社のそばにはお薬師さんがあり、傍らの石ぐろには六幢地蔵(六地蔵石幢ともいう)が祀られている。六角の石幢に六体の地蔵を浮き彫りにしたもので、この地蔵、他には中村市の香山寺境内などで見ることができるが、高知県下では珍しい石仏のひとつである。


一石五輪塔などに囲まれて六幢地蔵がある。

さて、神社から更に車道を100mほど進むと、左下に墓地や民家が見えてくる。ここで右手の山肌に折り返すように登る山道が昔ながらの参道である。
山道に入るとすぐに、尾根に出て、尾根沿いの小道を緩やかに登ってゆく。
植林や照葉樹林の間を通り、左手に小さな祠を通過すると、辺りには墓地が多い。足もとには小さなシバグリや大きなドングリがたくさん落ちている。
行く手を見上げるが、めざす山頂はまだずいぶん高くて見えない。


里山の雰囲気を感じながら果樹園のそばを歩く。

ミカン畑や墓地を抜けると山道の傾斜が増してくる。
広い参道をジグザグに登れば、冬の空にいっときの太陽を浴びて、照葉樹の葉っぱが煌めいて美しい。
足もとには幾重にも降り積もったふかふかの落ち葉が纏い付き、まるで雪道のようで楽しくなる。そんな落ち葉の上にはドングリやコジイの実がいっぱいいっぱい落ちている。ここに棲むリスや野ネズミ達は贅沢な食事に脂肪をたくさん付けて冬を乗り切っているに違いない。


降り積もった落ち葉がおおう登山道。

やがて、照葉樹林の中のくぼまったところを直登で登ると、雰囲気の良いなだらかな一帯に出る。ありふれた雑木林だが、なんとなく木々のバランスがとれていて心が和む。
ひと息ついてから更に尾根を行くと、ちょっとした岩場や小石の散在したガレ場にさしかかる。ここから傾斜は一層増して、行く手を見上げるだけで首の痛くなるような急坂が始まる。
坂道には細石(さざれいし)が多く、それでなくともざらざらと滑りやすい急坂に悪戦苦闘中していると、何か自分を試されているような気分にさえなる。前を行く彼女も先ほどからすっかり無口になった。
喘ぎ喘ぎの直登に堪えきれなくなると、後方遙かな長者ケ森や三辻森など中芸のやまなみを眺め、ひと呼吸ついてはまた登る。


ひたすら登る尾根の急坂。

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