黒いヒメヤブランや赤いヤブコウジの小さな実に励まされ、ヤマザクラやカゴノキが多い林をしばらく登ってから、ヒノキの若木林を抜けると、ぽっかりと林道に這い出る。
林道脇からは僅かに太平洋や香長平野の眺望を得ることができる。

林道を横断して山手に見える小道を直登すると、植林に入り、すぐに尾根のT字路に出る。
ここで右に下ると中西川下組に至る。帰途に時間があればこちらを回遊して下山することもできる。
山頂へはT字路から左に折れて、地籍調査の真新しい測量杭を追いかけながら植林を抜ける。
左手にサクラの木が植樹された傾斜を見ながら登ると、いよいよ石段が現れた。中央にステンレスの手すりが設置された階段を、秋葉神社まで一直線に登る。


車道を横切り再び山道へ。

石段を77段で鳥居をくぐり、更に7段で社殿の立つ境内に出る。
四ケ村の氏子が文化五年に奉献した手水石が右手にあり、反対側には明治36年奉献のコンクリート製の手水鉢が置かれ、戦勝祈願の灯籠も見える。社殿の中にはたくさんの絵馬や、大太鼓なども奉納されている。
辿り着いた境内は厳かな空気に包まれ、神社の屋根から水滴が水たまりに落ちるたび、それはまるで水琴(すいきん)のように澄み渡って、辺りに厳かな音を響かせている。

ポケットから取り出した小銭を賽銭箱に入れてからお参りを済ませると、壁にあった「おみくじ匣(筒)」を振ってみた。
願いを込めて一本引き出すと、軒に下げられた番号札と合わせてみる。ここでも小吉だった。今年の私はどこで引いても同じくじが出る。こういう時に人智の及ぶところでない畏れを感じるものである。


秋葉山山頂にたつ秋葉神社とその立派な鳥居。

ところで、秋葉山の三角点は神社の右手山中にある。4個の保護石に囲まれて角の欠けた2等三角点の標石が埋まっている。
この三角点には、以前に岩改から訪れて以来ひさしぶりのご対面である。しかし、相変わらず社叢は鬱蒼として、山頂からの眺望は望めない。近くの清水ケ森などからこの頂はよく目立つが、逆にここからそれらを見渡すことは残念ながらできない。ただ、秋葉山はこの社叢のせいでどこから眺めてもよく目立つ山ではある。肩をいからせた尾根はまるで蛸(たこ)のようにも見えるし、山頂部はパイナップルのようにも見える。だから、私たちは密かにこの山をパイナップル山と名付けて悦に入っている。
しかし、やっぱり展望が望めないのは淋しい。折角持参したコーヒーは、できればすっきりした景色を眺めながら広い空の下で飲みたい。そこで、展望の良い車道広場へ寄り道することにした。


秋葉神社の裏に回り込むと三角点がある。

山頂を後にして、石段を下ると、帰り道とは反対に車道へ向かう。
植樹されたサクラの木の上方を、舗装された小道が水平にあって、すぐに車道に出る。ちなみに、境内まで上がっているこの車道は往路で横断した林道に連絡し西で龍河洞スカイラインに通じている。
車道脇に据えられた句碑のそばを通り、急な左カーブの路肩にある広場で腰を下ろした。
足もとから広がる香長平野と太平洋を眺めながら飲むコーヒーは格別である。麓に園芸地帯を見下ろし、遠く水平線を眺めれば、沖に行き交う船までが時の経つのを忘れたように見える。陽射しが傾き少し風も出てきたが、熱いコーヒーが心と身体を温めてくれる。


眺望の良い場所でひとときの憩いを楽しむ。

このままいつまでも憩っていたいが、そうもゆかない、帰りには少し足を伸ばしてこの町の千舞温泉に立ち寄る予定なのだから。
コーヒーを飲み終えて、少ししてから帰り支度を整えて腰を上げた。と、突然、天を突く爆音が近づいてきた。
いったい何が起こったのか、呆然とその場に立ちすくんでいると、数台のオフロードバイクが車道を駆け抜け、神社に向かって登って行った。つい先ほどまでの荘厳な静寂は破られ、社殿の辺りはばりばりと喧噪に包まれている。
以前に後入山の狭い山道で突然バイクと出会って驚いたことを思い出し、なるほど山にもいろんな楽しみ方があるものだと思うしかなかった。

一方、私たちの楽しみ方はといえば、展望を眺めながらのコーヒーや下山後の温泉の他にも、いろいろとある。たとえば、その土地で美味しいものをいただくとか。もちろんここなら山北ミカンである。
一度も休まず下山すると、最寄りの民家に駆け込んで、たった今収穫したばかりのミカンを譲ってもらった。僅かな金額で抱えきれないほどのミカンを買い込むと、さっそく皮を剥いて口に運ぶ。
甘酸っぱい味と香りは、疲れた身体の隅々を駆け抜けた。


登山道を覆い尽くす落ち葉に戯れながら下山する。




私たちのコースタイムは以下の通り。
【往路】
登山口(丁石)<17分>大山祗五所神社<51分>林道<8分>山頂(秋葉神社)
=計76分

【往路】
山頂(秋葉神社)<3分>歌碑(展望所)<4分>林道<26分>大山祗五所神社<15分>登山口(丁石)
=計48分


登山ガイド

【登山口】
県道香北赤岡線で野市町から香我美町山北に入ると岩鍋集落の入り口に丁石があります。県道脇に駐車してここから歩きますが、更に車で車道を奥に山道入り口まで行くこともできます。ただし、車道は狭く、待避所も少ないので注意してください。
なお、秋葉山に登るには、他に中西川からの尾根沿いの道や、香北町岩改から柳沢を経由する車道、また、龍河洞スカイラインから香我美町と土佐山田町の境界尾根の車道を辿るコースなどがあります。

【コース案内】
登山口の丁石から岩鍋集落の奥に向かって道なりに車道を歩きます。右手に大山祗五所神社を過ぎると100mほどで左下に民家や墓地が見えてきて、右手の山肌に山道が現れます。丁石から登山口までは600mほどです。
山道に入ると、すぐに尾根に出て、後は側道(そばみち)を無視し、真っ直ぐに山道を辿ります。
山道を小1時間ほどで林道を横切ると、まもなく尾根で中西川からの参道と合流します。ここには道標が立てられています。その分岐から左に折れて程なく石段が始まります。石段を登りきると秋葉神社の社殿がある山頂です。三角点は社殿の右手にあります。
山頂は展望が望めないので、一旦階段を下りるか、左手に上がってきている車道を下り、句碑の立つ左カーブ辺りに立ち寄ります。ここからの眺望は最高です。
なお、帰途はもと来た道を引き返しますが、時間があれば尾根のT字路から中西川下組に向けて下るのも良いでしょう。



備考

登山道に水場はありません

文中に出てくる「千舞温泉」は登山口から近く、料金もリーズナブルで食事も美味しいのですが、残念ながら2004年4月末日をもってしばらくの間休業することになりました。


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