坂道の傾斜が増してくると左手に照葉樹林、右手にヒノキ植林の間を辿る急登になり、尾根に出てから20分あまり来て奥呉地集会所から登ってきた道と合流する。
順調なら帰途はここを奥呉地集会所に向けて下る予定である。
ここでは帰途に辿る方向を確認しておいてから山頂をめざす。

合流点から登山道はすぐになだらかになり、5分ほどで尾根を左に逸れて緩やかに登ると、大小権現山の山頂から南に派生した尾根に回り込む。足元には「尼高山国有林」の看板が見える。
ここで登山道脇の木々はその高さをひそめ、晴天なら南方向にわずかでも展望をのぞむことができるはずなのだが、如何せん乳白濁色のガスで何も見ることはできなかった。


ガスの立ちこめる林の中を黙々と歩く。

合流点から12分後、登山道に山界標柱を認めると道はなだらかになり、再び山界標柱に出会うと右にソバ道を見つける。
この道は山頂から東の尾根に向かっているので、ここは真っ直ぐに登って行くと、間もなく登山道の行く手が開けてきて2本の柱に注連縄が張られた広場に出る。ここが大小権現山の山頂である。
ここまで合流点から15分、登山口から都合50分あまり。

山頂の広場には石の手水鉢が据えられ「天明4年辰暦11月廿日、北野川村惣兵衛」と刻まれている。
見渡すと、かつて奉納相撲が行われた土俵場の盛り土も見える。ここでは1月20日と8月20日のお祭りに近郷の奥呉地や北野川村やあるいは大野見からもたくさんの人々が登ってきて、土俵の上では女相撲も行われていたという。
この広場の奥には森神社の社があるが、建物は老朽化し、不心得な落書きには閉口させられる。
なお、広場の一角には2等三角点の標石が有り、その傍からは東へと尾根を辿る踏み跡が延びている。この踏み跡を辿れば窪川町と大野見村の町村界尾根を東に向かい途中から尾根を南に下って登山口の近くに下山することもできるようである。


大小権現山山頂。手前に手水石、奥に森神社、右手に三角点の標石がある。

さて、一向に衰えない雨足に山頂での休憩もそこそこにして早速下山を開始する。
帰路は先述した奥呉地集会所への分岐まで一気に下り、分岐からは尾根を真っ直ぐに下り奥呉地集会所(公民館)に向けて下山することにする。
奥呉地集会所に向かって約5分下ると踏み跡は二手に分かれる。
左手の方がよく踏まれているようなのだが、ここは 右へと赤いテープを頼りに下る。
なお地元の人の話では、この分岐を左に下ると奥呉地集会所の上手から延びてきた林道終点に降り立つことができる様だが、実際に確認はしていないので正確なことは分からない。

分岐を右に約6分下ると植林の切れ目で再び分岐になり、ここでは真っ直ぐに尾根を下る方(左手)を選ぶ。ちなみに、ここでうっかり間違うと川ノ内集落に下りてしまうので気をつけて欲しい。


奥呉地集会所に向かって下る。

雨に濡れて滑りやすく、わりあい急な坂道を更に5分あまり下ると、左手に現れるそば道をやり過ごし、道なりに植林の中を真っ直ぐに行く。
間もなく尾根を右手に巻いて、ところどころに満開のオンツツジの花を眺めながら下るとほどなく林道終点に出る。
ここまで来ると下方には奥呉地集会所の屋根が見えている。
後は集会所をめざして下れば林道終点から2分ほどで町道に降り立つことができる。
一方、林道終点から車道を辿って奥呉地川の支流沿いに歩けば町道までは20分程度、この道は9月だと渓谷沿いにツリフネソウを見ながらのんびりと下るのも楽しそうだ。
最後は奥呉地集会所から登山口まで町道を約1.3Km歩いて雨中の山行きは終了した。
おろしたてのレインウェアが快適だと有頂天になる一人のメンバーを尻目に、防水のくたびれた合羽のせいであまり気持ちのいい歩行ではなかった若干2名のメンバーは近々レインウェアを新調することにした。その一人である私はこの後、すったもんだの末、ようやく2代目のゴアテックスを手に入れたのだった。


雨の山中でオンツツジの花になぐさめられる。

ところで、帰り道に奥呉地にお住まいの3名の方にお話を聞く機会を得た。
みなさんは私たち登山者のために道標の設置や登山道の草刈りなど、これからも熱心にコースの整備を行ってくださるという。
山を愛する私たちにとって、それは望外の喜びである。
この山も、頑なな里人によってこそ守られているのだった。



*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
登山口<3分>分岐<11分>尾根<9分>シイの木<13分>合流点(奥呉地集会所への分岐)<15分>山頂
=計51分

【復路】
山頂<11分>合流点(奥呉地集会所への分岐)<27分>奥呉地集会所<20分>登山口
=計58分


備考

ヒロハチシャノキはチシャノキの葉の広いもので、チシャノキは樹皮がカキノキに似ているところからカキノキダマシとも呼ばれ、別名を「えごの木」という。
この木は全国的にも少なく、ここ窪川町魚の川にあるヒロハチシャノキはもとは2本あった「2本ヂシャ」が1本だけ現存し、その根元幹周約8.5m、樹高16m、推定樹齢700年で、四国には他にこれほどの巨木はなく、尚かつここが分布上の最北限であるともいわれ、かつては妊婦の「乳もらい木」として信仰の対象とされていた。
現在は国の天然記念物として指定保護されている。


芽吹きはじめたばかりのヒロハチシャノキ。

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