池神社からスギの大木が立つ分岐まで引き返すと、いよいよ最後の登り坂である。
植林の中の急登を5分で尾根に出てからは左にとり、更に急坂を登る。左手はヒノキだが右手には雑木林が広がる。

道はやがて緩やかで広々とした尾根歩きに変わり、一帯が広葉樹林になる。ここにもミヤマシキミの群生が広がり、残雪の中でモミやツガとともにその緑が映える。


雪を被ったミヤマシキミの群生を行く。

自然、足取りは軽くなりぐんぐん進んで行くと、登山道左脇にかつての社殿跡らしき石積みを認めると、山頂はもう目の前である。


木漏れ日と木の温もりでゆっくりと融けてゆく雪。


池神社の分岐から20分あまり、登山口の昭和橋からははるばる2時間半で五位ケ森の山頂に着く。
思ったより広い山頂には二等三角点の石標と山名板があり、まわりをアセビなどが取り囲んでいる。木々は蕾がふくらみかけ、一部のアセビは花の準備を始めている。傍らに1本のシャクナゲも大きな蕾をいっぱいに膨らませている。ちなみに、シャクナゲは、山頂を更に奥(北)へと行ったところに少しばかりの群落があるので花時には足を運ぶのも良いだろう。


アセビに囲まれた山頂。足もとに三角点の石標と山名板がある。

開けた山頂には、僅かばかりの雪が残るものの、乾いた土の上でやや遅い昼食の支度を始める。とはいえ支度とは名ばかりで、バーナーで沸かしたお湯を使ってのインスタントみそ汁とコンビニのおむすび。唯一の贅沢といえばドリップで点てたコーヒーぐらい。それでも空腹の胃袋には至福のひとときである。山頂への到達感と風景が最高の調味料となってくれるし、今年初めての山頂で飲む食後のコーヒーも格別である。

昼食を摂っていると先ほどの伊藤君から無線連絡が入った。
ようやく登山口に到着したのでこれから登り始めるとのこと。今回は山頂は無理なので途中で出会うまで登ってくると言う。彼もやっぱり心底山が好きなんだなぁと思いながら2個目のおむすびを頬張る。

さて、山頂からは北に雪化粧した三嶺が見えている。
そこから西へと名だたる山々の頂が続く。眼下には山肌に張りつくような物部村の集落も見える。


右奥のピークが真っ白く冠雪した三嶺。

しかし、お昼過ぎから曇り始めた天候と、春独特の霞に加えて、この時期特有の花粉と黄砂混じりの空気が折角の遠望を台無しにしてしまい、三嶺から茂ノ森などにかけての峰続きはどうにか確認できた程度で、残念ながら澄んだ日に遠くに見えるという太平洋を眺めるには至らなかった。加えて、山頂から真南は樹木が育ったせいだろうか、各種ガイドブックにいう眺望も得られなかった。


右から、土佐矢筈山、高板山、奥神賀山、大ボシ山と続く。

麓でのぽかぽか陽気もさすがに1000mを越えると肌寒い。
食事を終えて辺りを散策し終えると、遅れて上がってきたご夫婦に別れを告げて下山を開始する。
帰途にはずいぶん雪も融けてアイゼンほどの心配は無かったが、ぬかるんだ道には充分注意して下山する。

時々無線機で連絡を取り合っていた伊藤君とは「東五位木馬道通り」の上方で出会い、以後、仲良く3人で下山する。
余談だが、五位ケ森の「五位」はどういう意味だろうという話題になった。
安芸市から望む秀峰はその気品の高さから県下で5番目の気位が贈られたとも言う。すると1位や2位はどの山のことなんだろう?
一方、麓に住んでいた平家の落人が5位の位の者だったからという説もあるらしい。
いずれにしろ、何かと順位をつけたがるのは人の常なのかもしれない、私の胸の内にも心に残る山の順位がある。
坂道で喘いだ往路と違い、帰り道ではあれこれと、やっぱり「ヨーダイ」だらけの私たちだった。


*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
登山口(昭和橋)<10分>植林の中の鳥居<70分>東五位木馬道通り<35分>大瀬木馬道通り<10分>池神社分岐<2分>池神社<2分>池神社分岐<22分>山頂

【復路】
山頂<12分>池神社分岐<6分>大瀬木馬道通り<15分>東五位木馬道通り<45分>植林の中の鳥居<10分>登山口(昭和橋)

備考

ユズ畑の作業小屋の上にある水場以外に登山道に水場はありません。植林の急登が続くので水は充分な用意が必要です。

携帯電話は登山道ほぼ全線で通話可能なようです。

登山口近くの畑山温泉「憩いの家」は、下山後の休憩に最適です。温泉で汗を流すのもオツなものでしょう。
この日私たちは食堂で「うどん」をいただいたが、懐かしい「そばねり(そば粉をお茶で練ったもの)」などのメニューもありました。
なお、ここには、とても綺麗な和室があり宿泊も出来ます(要予約)。料金は1泊2食で5000円と、驚くほどの低料金です。ちなみに、これを聞いた伊藤君は「夏休み」に1泊で来る堅い決意をした模様。

畑山温泉の隣には水口(みなくち)神社がある。ここは県の天然記念物「ムカデランの自生地」(昭和37年指定)でもある。

 
境内の樹木に着生するムカデラン(赤い円の中にムカデのように見えるのがムカデラン)


*ムカデラン(ラン科)は、関東以西の太平洋側から、四国、九州、朝鮮半島南部に分布する常緑の多年草で、岩や木の幹に張り付くように着生する。夏(6〜8月)に4mmほどの小さな淡紅色の花を咲かせる。1887年(明治20年)高知県吾川村で牧野富太郎博士が発見し、その姿がムカデのように見えるところからこの名がつけられた。安芸市ではここにだけ自生する。強風などにあおられ足元に散乱していることもあるが、全国的にも貴重な植物(絶滅危惧種)なので大切に保護したい。

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