四ツ足堂の地蔵は足元のトンネルに移され、以来、祀られることもなくなったお堂の扉を静かに閉め、十字路に引き返した。

さて、峠からめざす行者山までは、ほぼ忠実に稜線を辿ることになる。
ヒノキの植林を進み、峠から間もなく、やや開けた場所で後方をふり返ると名峰「石立山」の南斜面が見えてくる。


稜線でふり返ると、樹の間から「石立山」が私たちを見守ってくれている。

時折スズタケを漕いで四ツ足峠から10分あまり、木に吊された「登山道」の標識を過ぎるとやや急なピークを越え、コルを過ぎるとスズタケは疎らになる。コルの右手には平坦な植林地帯が広がっており、足元には所々ミヤマシキビが生えている。
再び登り坂となり、約1040mのピークからは少しの間ヤセ尾根を辿ることになる。特に徳島県側は目もくらむ高度感のヤセ尾根だが、この辺りから植林はまばらになり、芽吹き前の広葉樹林にコメツガの緑やこの時期に咲くアセビの花などの照葉樹が心地よいアクセントになっている。


明るい稜線の林の中を行く。

更に稜線を行くと、右手(西方向)には木々の間越しに口西山が、眼下には別府峡温泉の赤い屋根も見える。また、物部川の支流に向けて目を凝らせば重畳たるやまなみの中に御在所山などが確認できる。登山道の左手は植林で、右手は広葉樹林である。


樹間から眺める口西山、下部に白く見えるのは物部村別府の集落。

幾つかのコブを登り返し登山道は徐々に標高を上げてゆき、四ツ足峠からおよそ40分、「境界10号」の標石からは見事な広葉樹林が始まる。
地図では針葉樹林の記号なのだが、実際にはヒメシャラ、ヤマザクラ、カエデ、ツツジなどにブナが混じり、芽吹き前の広葉樹が一面に広がっている。こんな広葉樹林は案外どこにでも有りそうで、実はいざとなるとお目にかかることが少ない。それだけに、新緑と紅葉に期待を抱かせる稜線歩きである。


明るく快適な登山道にて、とげとげしいハリギリの古木を見上げる。

そんな林の中、登山道は忠実に稜線を辿り、長い登り坂が続く。
坂を約20分で登りきると1201mのピークになり、あたりにはシキビ(シキミ)の大木が数本、淡黄色の花を咲かせている。

登山道はここから一旦下り、すぐにまた登り始める。この辺りから再びヤセ尾根になり、両側に鋭く切れ落ちた稜線にはゴヨウツツジの古木などがしがみついている。
ヤセ尾根をよじ登り、ふと北西に目をやると、石立山の左手に白髪山が見えており、その奥には三嶺山系も覗いていることに気がつく。足を止めて少し息を整え、更に急坂を登り終えるとなだらかな稜線でその展望は一層素晴らしさを増す。
この方角からしか眺めることのできない展望にしばし佇み、2人でカメラを構えた。


登山道から北西に開ける展望。左手前には口西山、右手前には石立山の支尾根が槙山川にそそいでいる。

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