白髪山方面の展望を楽しんだ後は、やや下って再び登り坂をゆく。
四ツ足峠からおよそ1時間15分、雰囲気のある窪地に出る。
登山道は窪地の右手を真っ直ぐに頂上目指して伸びているが、ここでは窪地のまわりを散策してみる。
中央の泥濘(ぬかるみ)にはシカやイノシシなど、獣たちの足跡が無数にある。僅かばかりの水たまりには蛙の卵が産みつけられており、ひと雨来るのをじっと耐えて待ち続けている。また、南国土佐とはいえ1000mを越える山の春は遅いが、それでも、落ち葉をそっと掃いてみるとそこには山野草たちの息吹が見える。表面的には静かな山にも、息づく幾つもの命を感じる瞬間である。
窪地から山頂の山肌を見上げる。乾期のこの時期、窪地の中央は僅かな水たまりだが、ひと雨来れば小さな池が出現するだろう。
さて、窪地から登り坂にもどり、これからの季節が楽しみなサクラやゴヨウツツジの脇をすり抜け歩を進める。
10分足らずでなだらかになり、山頂手前のコブを越すと、更に5分足らずでブナの古木などが立つ平坦な広い林に出る。
ここからは山肌に見える赤いテープを追いかけて急斜面を這い上がるのだが、右の尾根筋を辿っても同じく山頂に向かうことはできる。どちらにしても、5分もあれば山頂に到達することができる。
日和田の国道脇(下の登山口)からおよそ2時間50分、休憩も入れれば3時間半の道のりで辿り着いた行者山山頂には、期待以上の展望が待ち受けていた。特に、北に対峙する石立山の展望たるや、「石立山を見るための山」と言っても過言ではないほどの眺望である。
右手には次郎笈そして残雪の光る剣山、また左手には中東山などが、まるでここから眺めれば名峰「石立山」に従うように座しているかのごとき眺めである。
残念ながら山頂からの展望は灌木のせいもあり、この北方面の一角と、赤城尾山などの南方面だけではあるが、それでも私たちには充分すぎるように思われた。
先人たちの残した山名板の横に腰掛けて、昼食を摂りながら石立山を眺めていると、時間の経つのも忘れてしまう。
山頂にて、正面(北方向)には石立山が威風堂々と聳えている。
ところで、山頂からは南の赤城尾山(あかぎゅうやま)に向かって、スズタケが刈り払われ立派な縦走路が延びている。
なだらかな行者山の山頂を赤城尾山に向かって少し足をのばしてみると、スズタケの向こうに素晴らしい南東方面の展望を得ることができる。
そこには、私にはあまり馴染みのない徳島県の山々が美しく連なり、ひとつひとつの頂を指呼しながらこの展望を楽しめたらと、山座同定できない悔しさを募らせられる。
山頂から赤城尾山に向けて稜線を数分、ササ原の向こうに南から東への展望が開ける。手前でササの切れ目が赤城尾山への縦走路。なお、千本谷コースを登って来るとこの道に出てくることになると思われる。
山頂付近での休憩がてらの散策を終えて下山を開始する。
稜線に広がる木々を眺めながら杉村さんがお得意の駄洒落で、「紅葉の時に、また来うよう(=紅葉)」とつぶやいた。
明るい稜線にひときわ朗らかな笑い声をあげながら、行者山に由来する修行や難行、苦行、持戒などとはほど遠く俗っぽい私たちの帰途は、足の疲れに顎(あご)の疲れも重なるものだった。
深山幽谷の雰囲気の中をのんびりと下山する(第1の水場付近にて)。
*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
国道脇の登山口<5分>上の登山口<25分>第1の水場(沢)<10分>尾根の分岐<10分>大岩<25分>四ツ足峠<1分>四ツ足堂<1分>四ツ足峠<40分>境界10号の標石<35分>窪地<20分>山頂
【復路】
山頂<15分>窪地<30分>境界10号の標石<35分>四ツ足峠<15分>大岩<7分>尾根の分岐<6分>第1の水場(沢)<20分>上の登山口<3分>国道脇の登山口
備考
稜線上(四ツ足峠から山頂)に水場はありません。
別府から四ツ足峠を目指す場合、参考文献によれば、1時間20分〜2時間を要しているようです。
四ツ足峠トンネルの高知県側入り口から928mの付近左手(北側)、高知徳島の両県境の壁面には、新しい四ツ足地蔵が納められており、人々の往来と共にその場所を移し、今なお旅人の安全を守り続けています。
登山道に咲くスミレ(シハイスミレ)。
行者山への別ルートとして千本谷コースがあります。
千本谷コースの登山口は、徳島県木頭村と高知県安芸市を結ぶ千本林道(林道東川千本谷線)の道路脇にあります。千本林道へは、高知県物部村から国道195号線で四ツ足峠トンネルを経て徳島県木頭村に抜け、千本谷橋のたもとから千本谷をさかのぼります。
千本谷橋から林道をおよそ10分、谷側を注意していると、ゆるい左カーブで右手の植林の立木に「行者山登山口」のプレートが付けられています。プレートには「行者山登山口、クチウマエ谷右沢遡行、楠勝・橘・長生山の会」と書かれています。
千本谷ルート登山口。立木に白いプレートで「行者山登山口」とあります。登山道はこの植林を下り、千本谷に降りて、対岸の沢(クチウマエ谷?)を遡行するようです。
なお、千本谷コースは沢登りかもしれませんので、増水などには注意が必要だと思われます。
*千本谷コースを登られた方は、是非ともコースのご案内など、どんなことでも結構ですからお知らせください!よろしくお願いします!