分岐からは古道を離れるので道幅は狭くなる。傾斜も少しきつくなるが坂を登りきると八丁山から南に派生した尾根に出る。ここにも道標が見える。帰途はここから左に尾根を伝い山伏峠をめざすことになる。
尾根に出ると北に向かって尾根筋を辿る。植林が終わり、周囲の雑木林から覗く青空も少し近づいたように思える。色づきはじめたツツジなどを見ながらなだらかに尾根を辿ると、少し汗ばんだ身体に北風が心地よい。やがて登山道の左手に「日本軍陣地跡」と記された看板が見えてくる。ここには戦時中に兵士が隠れていたという穴がある。銃剣を持って潜んだ兵士はここから米軍機を迎撃しようとしたのだろうか。このような穴は山中のあちらこちらにあるという。
山頂から南に派生した尾根に出るとなだらかに北へ向かう。
さて、登山道は更に尾根をなだらかに北へと辿る。途中出会う「市の坂(橘川と鹿持とを結ぶ通路)」への分岐では「頂上まで200m」の道標にしたがって直進する。辺りはヤセ尾根の登り坂になり、道の両脇でアセビやヤブツバキ、ヤマモモなどに迎えられながら更に北へ向かうと、やがて右手に太平洋の眺望が開ける辺りまで来れば山頂は近い。少し下ってすぐに登り返すと岩場の上に出て八丁山の頂に着く。
私たちが着いた頃、痩せた尾根の頂はすでに八丁山登山の参加者で溢れていた。橘川から登ってきた人たちとも合流して、その数総勢50名ほど。記念撮影を済ませると、さっそく思い思いの昼食を広げた。
山頂には「古道を守る会」が設置した立派な山名板がある。
山頂には石ぐろ(石積み)の上に小さな石祠が奉られている。今は祀る人もないという石祠の側面には入野村在の寄進者名が彫られている。祠はかつての入野村石鎚講の名残であろう、この頂が石鎚遙拝所として崇拝されていた時代が忍ばれる。
石祠から北に数歩の所には三等三角点の標石が埋まっている。山頂にはヤマモモやスダジイ、コナラやネムノキ、ハゼ、トベラなど、数本の高木があるが、東は伐採されており180度の眺望が得られる。登山道でも幾度か眺めた景色だがやはり山頂からの眺めは格別である。北東に本村の集落を俯瞰し、東に伊の岬を遠望してから南東に目を移せば、谷秦山をして「百万蒼竜騰碧空」と詠ませた白砂青松の入野松原(*1)など、見飽きることのない美しい景色が広がっている。そして運が良ければ、広々とした海原に潮吹く鯨が見えるかもしれない。
(*1)延長約4kmにおよぶ高知県西部最大の砂浜「入野浜」の背後にあるクロマツを主とする松林(国有林)で、国の名勝に指定されている。長宗我部元親ゆかりの松林や尊良親王にまつわる小袖貝の伝説などで有名。入野県立自然公園の一部であり、土佐西南大規模公園にある。
山頂からの眺望。左奥に伊の岬が見える(左)。山頂の石ぐろの上に祀られた、小さな石祠(右)。
昼食を終えると三々五々、八丁山を後にした。
山頂から尾根に出た所まで一気に引き返すと、そのまま南に尾根を辿り山伏峠をめざす。カクレミノやヒノキなどを横目に、植林と照葉樹林との境をゆくと小さなコブを二つほど越えて辺りは一面の雑木林になる。やがて急な下り坂を注意深く下りきると古道の最高標高点である山伏峠に下り立つ。峠のいわれは特にないそうだが、山頂に祀られてあった石祠にも関連がありそうに思える。
ところで、この峠から尾根を離れて西に下ると橘川に下りることができる。今回の参加者の一部には橘川まで足を延ばしてから往復した方もおいでたが、私たちはここから引き返すことにした。気分はすでに温泉モードである。山伏峠からなだらかにトラバースして往路の分岐まで戻ると、後は来た道を引き返す。往路にあれだけ賑やかだった登山道も今は静かになっている。落陽に射されて長い尾を引く私たちの影と、時折舞い落ちる枯れ葉の他に、動く物もない静かな古道を下りゆく。井の岬温泉に浸かりながら今日歩いた八丁山を眺めてひと息つけることを楽しみに。
山伏峠を確かめると、登山口に引き返す。
*私たちのコースタイムは以下の通り。
【往路】
大方町役場<20分>登山口<18分>杖立地蔵<8分>山伏峠との分岐<4分>尾根<6分>日本軍陣地跡<8分>八丁山山頂
=64分
*錦野団地奥の登山口から山頂までは約45分
【帰路】
山頂<6分>日本軍陣地跡<6分>尾根<7分>山伏峠<5分>山伏峠との分岐<7分>杖立地蔵<12分>登山口<18分>大方町役場
=61分
*山頂から錦野団地奥の登山口までは約45分
*杖立峠を経由しないで往路を錦野団地奥の登山口まで引き返した場合は約30分
登山ガイド
【登山口】
今回のイベントでは大方町役場から歩きましたが、一般には錦野団地の奥の登山口から歩くと良いでしょう。高知市方面からだと、国道56号線の大方町入野にある役場入り口の信号を通過すると、すぐ次の信号を右折して錦野団地に向かいます。信号の角にはスーパー「サンシャイン大方」があります。入野小学校や大方商業高校の横を通り錦野団地を直進すると集合墓地に至ります。墓地を抜けると左手に作業小屋があり、そのすぐ奥から左手に山道が上がっているのが見えます。ここが登山口です。「八丁山登山口、橘川古道、頂上まで1600m」の案内板もあります。マイカーは付近の適当な場所に駐車します。
また、文中でも触れましたが、橘川から山伏峠を経て山頂に向かうコースも今年整備されました。自転車や2台の車などを利用して回送登山や交差登山をするのもよいでしょう。
なお、八丁山は里山だけに、かつては様々なコースが存在したそうですが、現在は水田などの耕作放棄によりほとんどの道は荒廃してしまったようです。山伏峠から芝に下る道や、尾根の途中から柳の川に下る道などは廃道と化していますので注意してください。
【コース案内】
錦野団地の奥にある登山口から山道に入ると、すぐに出会う分岐は直進して登ってゆきます。登山口から15分ほど登ると「八丁山橘川古道」と書かれた道標が見えてきます。この辺りから山道はなだらかになり、更に3分ほどゆくと「杖立地蔵」があります。杖立地蔵から5分ほどで出会う分岐は左にとり、すぐ次の分岐では右に向かいます。やがて尾根に出ると右にとって北に尾根を辿ると、5分ほどで「日本軍陣地跡」の看板を通過します。「日本軍陣地跡」から1分ほどで出会う分岐は直進します。分岐からは5分あまりで正面に岩場が見えてくると山頂に出ます。
帰路は尾根に出た辺りまで引き返してから更に尾根を南に向かうと、山頂から20分ほどで山伏峠に下り立ちます。山伏峠から橘川に下る場合は
右にとりますが、普通は左にとって登山口に引き返します。なお、山伏峠には芝への道標が立っていますが、芝への道はブッシュなので注意してください。また、往路で杖立地蔵を過ぎてから出会う最初の分岐辺りから地図に表記されている破線(歩道)を外れます。山伏峠も地図で尾根を越える地点からは南にふっていますので読図には注意が必要です。
備考
登山道に水場はありません。
橘川へ下る古道には特に見所がありませんが、橘川の集落には宮川将監の墓や将監を祭る一ノ宮神社があります。
*宮川将監(みやがわしょうげん)<未詳〜未詳>=伊勢国藤堂家出身、入野郷大井川村に来住、橘村開発領主となり、後に庄屋となる。
八丁山だけでは歩き足らない方は同じ町内にある飯積山(217.0m)などとセットで登ると良いでしょう。飯積山は山頂まで車道が通じていますが、麓から「観音さん」の道しるべを辿りながら参道を歩けば半時間ほどです。
この山を紹介するにあたり、「八丁山古道保存会」の秋田会長に大変お世話になりました。ありがとうございました。
*最近、山頂には立派な観音像が建立されたそうです!(長澤さん、情報をありがとうございました)<2005.05.10追記