さて、山頂を踏むだけで引き返すとあまりにもあっけないので、展望の良い潮見台展望所まで足を延ばすことにする。
道標に従い、蜘蛛の巣を払いながら、林を下る。この辺りの照葉樹林に樹名板を下げれば、麓の子供たちの生きた植物図鑑ができそうである。
途中の分岐で出会う指導標からは右手にとって植林の中を登る。山中には石積みも見える。ほどなく坂を登りきると断崖の上に出て、木製の手すりが設置された展望所に出る。辺りにはセイタカアワダチソウが咲いて、ここにも道標が立っている。
ここからの眺望は素晴らしい。直下に潮見台団地を俯瞰し、開けた市街地の北に幾つもの山々を遠望し、香長平野から太平洋まで清々しい景色が広がっている。


木製のフェンスがある潮見台展望所からの眺め。足もとに潮見台団地を見下ろし、香長平野や太平洋が広がる。

展望所から、遊歩道はさらに潮見台団地にまで続いているが、ここは展望を楽しんで引き返すことにする。
岩屋観音堂まで一気に引き返すと、石段を降りて右に折れ、白水橋方向に向かう。すると、すぐに右手に大岩が現れる。
ここにも岩屋があって、大岩の陰には様々な石仏が奉られている。そのひとつひとつは見れば見るほどに引き込まれてゆく。観音堂の奥に隠された十一面観世音とは比べものにならないかもしれなが、私はこんな素朴な石たちが好きである。


観音堂のそばにある、もうひとつの岩屋。たくさんの石仏が祀られている。

岩屋からは、照葉樹やヒノキの林をなだらかにトラバースして、道標の立つコルからは小さなコブを越え、緩やかに下る。
クローラー(運搬車)を通したのであろう、遊歩道は広く、整備されて快適である。
やがて、正面に秋葉神社のあるピークを見ながら植林の中を下ると、なだらかなコルで水口橋に下る道と秋葉神社に向かう道との分岐になる。水口橋に向かう途中にあるマンガン坑跡と秋葉神社と、先にどちらに向かおうか少し考えた後、ひとまず秋葉神社に向かうことにして植林の中に赤いテープを辿った。


快適な遊歩道を秋葉神社に向かう。

宮ノ谷への分岐を通過し、山肌に設えられた土止めの丸太階段を直登する。
坂を登りきるとなだらかな尾根で水口橋からの尾根道と合流すると道標に従い北東に折れ、短い石畳を登ると見事な石積みに囲まれた秋葉神社の祠が現れる。白水山とも呼ばれる小高い丘に鎮座する秋葉神社には、静岡の秋葉神社から勧請されたという迦具土神(かぐつちのかみ)が祀られている。しかし辺りは照葉樹に囲まれた薄暗い林で展望は皆無である。祠に一礼するとすぐに下山を開始する。


白水山に鎮座する秋葉神社の祠。

下山は真っ直ぐに尾根道を辿り、照葉樹林に赤テープなどを追いかけて下る。
落ち葉踏む快適な道の続くこの辺りが、鉢伏山遊歩道で最も雰囲気の良い林である。
山道をどんどん下ると、マンガン坑からのトラバース道と合流する。ここで観音堂に引き返す方向へ向かい、近くにあるマンガン坑の跡を見学に行くことにする。
遊歩道を緩やかに辿ると2分ほどで「マンガン坑」の案内板が見えてくる。遊歩道の5mほど左上の山中に石積みが認められるが、これがマンガン採掘の跡である。ここで採掘されたマンガンは麓の白水橋まで木馬(きんま)で下ろし、介良川を利用して水運で搬出していたそうだが、昭和初期に閉山されたという。


山中に残るマンガン坑の跡。

マンガン坑跡から引き返すと、水口橋に向けて林を下る。道の両脇には集合墓地が現れ、幾つか側道が現れる。広い道を選んで道なりに下ると、カーブしながら麓の民家に下りるが、ここでは墓地から急下降する道を選び、真っ直ぐに下る。
眼下の集落をめがけて下ると、急坂をほぼ下りきった辺りで道の左手に大きな岩が現れる。岩陰には実盛様(さねもりさま)の祠があり、中には石仏が祀られている。
平家の武将「斉藤別当実盛」と稲作との故事(*1)が付会されて、虫送りや実盛送りなどと呼ばれ、鉦や太鼓を鳴らしながら「斉藤別当実盛、稲の虫ぁひしゃげた」と叫びながら稲の害虫を払う民俗行事となっていた実盛様である。実盛様の祠の隣にはその虫送りの塚がある。

(*1)源平合戦の際、稲株につまずいて討ち死にした平家の武将「平実盛」が、稲を恨んで害虫になったという故事。そのために、実盛を供養すれば稲の害虫が駆除できると信じられ、江戸時代頃から西日本を中心に虫送りの行事が広まったと言われる。しかし、「平家物語巻七」での実盛は富士川の失敗を補って余りあり、老武者と侮られないよう白髪を染めて馬上にあり勇猛な死をとげている。


岩陰にある実盛様の祠。中には石仏が祀られている。

さて、実盛様を後に民家まで下り、水路に沿って車道に出ると、「岩屋寺観音堂」と書かれた道標のある場所に下り立つ。
ここからはのんびり車道を歩いても登山口まで20分とかからない。もの足りなければ源希義の墓や西養寺跡まで足を延ばしてもよい。
白壁の町並み保存地区やエノキの保存樹木、金比羅様の祠、はなの庚申様など、時間の許す限り訪ね歩けば、午後の陽射しも傾くまで遊んでいられる、それが里山の愉しみでもある。


白壁の町並みなどを散策しながら登山口に引き返す。




私のコースタイムは以下の通り。
【全行程】
案内板のある登山口<4分>岩屋山薬師寺<16分>岩屋観音堂<5分>鉢伏山山頂<1分>石鎚神社<5分>潮見台展望所<5分>鉢伏山山頂<3分>岩屋観音堂<13分>秋葉神社<9分>マンガン坑跡<6分>実盛様<1分>岩屋観音堂と書かれた道標<6分>金比羅さん<4分>はなの庚申<8分>案内板のある登山口
=86分


登山ガイド

【登山口】
国道55号線から介良のホームセンター「ブリコ」に向かう車道を真っ直ぐに南下し、介良川に架かる白水橋を渡ると左手に白壁の町並み保存地区が見えてきます。この辺りが下山口になります。さらに車道を稲生方向に行くと下田川の手前に岩屋バス停があります。ここに文中で紹介した「薬師寺岩屋十一面観世音菩薩、参道入り口」と刻まれた道標石が立っています。駐車場は特にありませんから、マイカーは適当なスペースに止めます。

【コース案内】
参道入り口の道標石から正面の山腹に見える薬師寺に向かって歩くと、民家の奥から石段が始まります。石段を登りきると薬師寺です。薬師寺からは境内の左手の山道を登ります。15分ほど登ると右手に井戸が見えてきて、立派な石段を登ると岩屋観音堂に着きます。
観音堂の境内からは、右手にあるトイレの手前から指導標に従って山道を登り、尾根に沿って歩くと5分ほどで鉢伏山の山頂です。山頂には三角点があり、その更に奥には石鎚神社があります。ここから「潮見台」と書かれた指導標に従って山道を下り、すぐに登り返すと潮見台展望所です。途中の分岐にも指導標があります。
潮見台展望所からは往路を岩屋観音堂まで引き返します。観音堂からは「白水橋」への指導標に従い遊歩道を歩きます。なだらかに行き、道標の立つコルから小さなコブを越えてヒノキの植林の中を下ると道標の立つコルで分岐に出会います。ここは水口橋に向かう道と秋葉神社に向かう道との分岐です。ここでは指導標に従い秋葉神社に向かって植林の中を行きます。
ほどなくコルで宮ノ谷への分岐になりますが、ここは正面に見える土止めの丸太階段を直登します。坂を登りきるとなだらかな尾根道に合流し、右手に尾根を20mほどで秋葉神社の祠に至ります。
秋葉神社からは引き返し、「白水橋」への道標に従って尾根道を下ります。照葉樹の林には登山道沿いに赤テープもあります。
やがてトラバース道と合流しますが、ここで左にとって観音堂に引き返す方向へ2分ほど歩くと、左手の山中にマンガン坑跡があります。道ばたには案内板があります。マンガン坑を見学したら、再び引き返して白水橋に向かって下ります。ほどなく道標の立つ分岐で右上に上がる道をやり過ごすと、すぐにまた分岐が現れます。ここで広い道なりにカーブして下ると民家の脇に下り立ちますが、ここでは広い道を離れて、真っ直ぐに下る細い道を選びます。下方には実盛さまの案内板が見えています。
急な坂道を2分足らず下ると実盛様の祠に着きます。実盛様からはそのまま民家まで下り、道なりに水路脇を通ると、「岩屋寺観音堂」と書かれた道標のある下山口に下り立ちます。
後は、白壁の町並み保存地区や「金比羅さん」の祠や「はなの庚申様」の祠などを見学しながら登山口まで引き返します。


備考

登山道に水場はありません。岩屋観音堂の手前にある井戸の水は飲用に適さないと考えておく方がよいでしょう。

「介良、史跡自然めぐりコース」のハイキングマップは介良ふれあいセンターや岩屋山薬師寺などに置いてあります。
マップについての詳しいお問い合わせ先は、高知市市役所まちづくり推進課(電話 088-823-9080)です。

時間に余裕があれば、介良三山のひとつ小富士山(介良富士)を歩くのも良いでしょう。小富士山は近日紹介いたします。なお、介良三山のうち「高天ケ原山(高間原山)」は禁足地のためご注意ください。


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