白骨化したスギの立つ尾根を出てから西へとほぼ尾根伝いに登って行くと、先ほど休憩した場所から5分ほどで小さなコブを越え、道が尾根を離れるとやがてスズタケが深くなり、再び尾根に出るとスズタケの中で分岐になる。
この分岐ではそのまま右手へと進むのだが、帰途に間違えないように注意したい。ササに気を取られていると見逃してしまうかも知れない。


スズタケの中、人ひとりがようやくの狭い道を進んで行く。

登山道は相変わらずのスズタケが容赦ない。
ちょうど顔のあたりにくるスズタケの葉は鬱陶しい限りで、自然身体は前屈姿勢になる。それでもなだらかな尾根なのが救いではある。
もちろんたまにはモミ、ツガ、ヒメシャラやブナなど雰囲気の良い場所もあるが、もっともそれもほんの一瞬でほとんどがスズタケの中の歩行である。


ところどころこんな気持ちの良い林も。木の枝には登山道と書かれた指標がさげられていたりする。

そんな登山道にはスズタケに隠れて倒木も多く、それをまたいだりくぐったりしながらの前進が続く。
そんな尾根でもスズタケの切れ目から北には、宝蔵山〜烏帽子ケ森の稜線の展望が美しく、遙か彼方には剣山系のやまなみが覗いている。
スズタケにうんざりしたらそんな風景に気分転換するのも一策かもしれない。


左に特徴的な烏帽子ケ森、右に黒っぽい頂は宝蔵山、その向こうは西又山。

尾根の分岐から約10分、ほぼなだらかに来た登山道は登り坂になり、ほどなく再びなだらかになって立木に「三角点」と書かれた木札を見つける。
後はその木札から更に5分ほど奥に進むと稗己屋山山頂に辿り着く。

稗己屋山山頂は3等三角点の標石や山名板を中心に20坪ほどが刈り払われているが周りはスズタケや樹木に囲まれて展望は皆無である。
稗己屋山は千本峠とも呼ばれ、山頂の北西安芸市側にはモミやツガの自然林が広がり「横荒山林木遺伝資源保存林(モミ・ツガ保護林)」として保護されているが、稗己屋山山頂からその保存林を散策するにはスズタケのヤブもあり少々困難だと思える。
なお、山頂から南西に向けてスズタケの中、安芸市と馬路村の境界に沿って踏み跡や赤テープはあるがほとんど利用されていないようである。


稗己屋山山頂、中央に3等三角点の標石がある。

さて、今日の山行きは計画段階で大凡(おおよそ)の想像がついていた。
本日の同行者である浜田さんもその辺は心得たもので、殺風景な頂に不平不満の一言も無く淡々と昼食のおむすびを頬張っていた。
況や、戸矢ケ森や橡尾山など登山道の通過点でしかないような山や、苦労した割にこぢんまりとした赤城尾山や雑誌山などを経験してきた私たちにとっては、これで案外過ごし易い頂なのである。
ところで、余談だがこんな二人の山行きは決まって道草も多い。この昼食を済ませれば真っ直ぐに下山し、谷山北谷の「傘杉の滝」に立ち寄り、その後は魚梁瀬森林鉄道の跡も辿ってみようと決めていた。

そうそう最後に、この山が「四国百山」に加えられた事についてなのだが。

百山の功罪といえば、深田百山を始めとしてゴミ問題やトイレ問題など頻繁にデメリットな面ばかりが語られるが、こと稗己屋山について云えばメリットが大きいと私は思う。
四国百山という一冊の本にこの山の名前が無かったなら、私たちはこの山に容易に踏み入ることまでならなかったし、スズタケを突破して山頂に安々と立つことも出来なかったはずである。
「四国百山」における「稗己屋山」の選定基準は最後まで分からなかったが、「稗己屋山」を「四国百山」に選んでくれた選者の方に少なからず感謝しながら、早春の山を後にした。


*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
登山口<31分>白骨化したスギの立つ尾根<14分>尾根の分岐<15分>山頂

【復路】
山頂<15分>尾根の分岐<9分>白骨化したスギの立つ尾根<23分>登山口


備考

登山道に水場はありませんが、和田山林道には数ケ所谷があります。ただし飲用に適しているか否かは不明です。

山頂はかろうじてですが携帯電話(ドコモ)での通話が可能です。

時間があれば、谷山北谷にある「傘杉の滝」を訪れるのもよいでしょう。
「傘杉の滝」は、この近くに胴回り14m余、樹高31m、推定樹齢500年といわれる大きな傘状の杉の大木があったことから名付けられたもので、滝のそばには祠が祀られています。
滝は落差約15mで、2段になっており、2段目には清々とした釜が形成されています。
この滝へは、丸山から西川橋を渡り西川林道を終点まで行きます。
終点から引き返し左山手に向かう道(分岐)を見つけたら、そこから歩きます。付近は民有地なので配慮してください。
ほどなく黒いホースや導水管などかつての施設を見つけたらそれを辿ります。
途中には崩壊地や落石箇所など相当に注意すべき場所があり、迂回はもちろんのことザレ場のトラバースなど相当危険を伴いますからくれぐれも単独行や無装備無防備なアタックはお止めください。
なお、危険を覚悟された上で滝まで行かれる場合は、滝までの往復の所要時間はおよそ2時間程度と余裕をもった計画を立ててください。

*最近、「やなせ・山の案内人」がボランティアで稗己屋山や傘杉の滝まで案内してくれるようになったそうです。詳しくは馬路村役場やなせ支所(TEL08874-3-2211)などにお問い合わせください。(2002.06.03追記)


傘杉の滝と祠。美しい滝は四季折々の姿を見せてくれるはず。

<追記>
登山道は2002年夏頃に刈り払いが行われた模様でスズタケの藪漕ぎを強いられることは少ないようです。
ただし、和田山林道は頻繁に崩壊しているようで、2002年8月中旬頃には登山口の手前約2Kmほどで山肌の崩壊が発生したようです。
従って、林道のアプローチについてはくれぐれもご注意ください。なお、登山口のある支尾根にはヘアーピンをショートカットする尾根道があるそうですから、万一林道を歩かれる方は積極的に使用されると良いでしょう。
PS-独考庵仙岳さん情報提供ありがとうございました。
(2002年8月26日追記)


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