貧田丸  2002年9月23日

*ここに紹介するコースを辿られる場合、文末の備考をよくお読みいただき、各種注意事項を必ずお守りください!

初めての山で登山口に迷うことは決して珍しくない。
ガイドブックに紹介されている山でも記述を鵜呑みにすると痛い目に遭うことがあるし、ましてやガイドブック通りに歩くことが少ない私達の場合はなおさらである。
この山もそうだった。
どちらの登山口から歩こうかさんざん迷った挙げ句、最初に選んだ道を途中で引き返すハメになった。
遮二無二に山頂を踏むためだけなら引き返さないでそのまま突き進んでも良かったのだが、私たちは思うところあって別の登山口から再挑戦することにした。
ここではあえて参考のために引き返した直登コースの事にも触れてある。もしも私の記述を参考にこの山に行かれるなら、あなたならどちらのコースを辿られるであろう。


まだ眠りから覚めない町をヘッドライトで照らしながら、いつもの男だらけ4人組は国道55号線を東に徳島県海部郡宍喰町をめざした。
今回の登山口までのアプローチは相当に長い、普段より1時間以上も早い出発だった。
缶コーヒーはとっくに空になり眠気を噛み殺すのにも飽きてきた頃ようやく高知県東端の東洋町に入った。ここからは野根川を遡り源流部の支流である「東谷川」に向かうのだが、そこへは野根川沿いの蛇行を避けて宍喰町中心部から県道301号線(久尾宍喰浦線)を利用して至ることも出来る。私たちは行きに前者を、帰りに後者を利用した。

野根川の渓谷にアメゴやマムシの話題をふりまきながら宍喰町久尾の集落を過ぎると人家は無くなり、やがて語る話題も途切れがちになる頃、東谷林道の張り出しで北西に貧田丸の頂が顔を覗かせた。更に林道を奥に宍喰町と海南町との町界尾根付近からもその山容ははっきりと確認できる。特に東斜面の傾斜は厳しく、植林はいたる所で無惨な引っ掻き傷の如き有様を見せている。山間(やまあい)にもいつの間にか朝日が射しており、秋の日に照らされた緑と白のコントラストが余計に無惨な山肌を露呈させている。

やがて林道が東谷川の源流を渡ると右手に登山口らしき階段を見つけるが、そのままやり過ごして更に2Kmほど行くと、山頂南直下にそれらしき登山口が現れる。登山口には赤いテープの巻かれた木の杭があり、数本の杖などが立てかけられている。
結局途中で引き返すことにはなるのだが、私たちは最初この直登ルートから貧田丸をめざした。


直登コースの登山口。杉村さんの足元にそれらしいコースサインがあるので、それとすぐに分かるはず。

登山口からは、ネットの張られた林道脇の岸をジグザグに山手へと駆け上がり、赤いテープを辿ってスギ植林の中の踏み跡を進む。
照葉樹混じりの植林の中、右下方に谷の音を聞きながら登山口から5分ほど来て、道は流木などが散乱する荒れた谷と出会う。
ここからは谷を少し遡り、対岸に渡ると赤いテープを見失わないように足場の悪い傾斜を登って、伐採跡に出る。ここまでのコースはさほど問題にはならない。
しかし、伐採地に出てからは赤いテープも無くなり、カヤなどに覆われた伐採地にはいたる所に踏み跡らしきものがあり、一体どのルートが正確な登山ルートなのか判断に苦しむことになる。
もちろんこの斜面を適当によじ登れば標高差300mを一気に山頂に至るであろうことは明白なのだが、それではあまりにも面白くないと感じたのは私だけではなかった。


伐採地に出たが今回は直登ルートをあきらめて引き返すことにする。

結局私たち4名はこのコースを避け、明確な登山道でなくとも、何某かのコースサインは無いだろうかと、かつての作業道らしき明確な道を辿りながら別のルートを探すも、作業道はいたる所で崩壊や落石により寸断されており、結局、何の成果もないままに、再び林道に下り立ったのは登山口を発ってから2時間近く、本来なら急斜面を直登しとっくに山頂に着いている頃だった。高く上がった太陽をまぶしく見上げて時計を覗き込めば、間もなく正午になろうとしている。そこで私達はもうひとつの登山口とおぼしき場所まで引き返し、簡単な昼食をとって再挑戦することにした。

本格的な昼食は山頂での楽しみにと、ここでは空腹をごまかす程度にとどめて再びザックを背負う。
このコースで山頂に辿り着かなければ「山登の部屋の看板を下ろすしかないね」などという冗談に内心穏やかではなかったが・・・。


谷沿いのコースを辿る登山口。コンクリートの階段から登り始める。

さて、こちらの登山口は東谷林道と東谷川とが交わる所からすぐ上手にある。
コンクリートブロックの擁壁に階段が設えられているので容易に確認できる。

登山口からは岸を上って林に入り、樹木が無ければ少し気後れしそうな急斜面をトラバースして東谷川の源頭部に向かう。
道は思ったよりはっきりとしており、ブッシュにも悩まされることなく照葉樹林からスギの植林に入って行く。しかし、所々にあるガレ場やザレ場は注意しながら奥に向かい、10分足らずで小さな谷を渡る。谷には流れの中に梯子が設置されていたりする。
足元の清冽な流れは、これがダムの無い美しい野根川の源のひとつであることに感激する。延長30Kmと四国では小規模な河川ながら、この日はその野根川を河口付近から延々と遡ってきたのだからその感慨はひとしおだった。


東谷川の源流部で小谷を渡る。木製の梯子がありがたい。

谷を対岸に渡ると、道は間もなく分岐になるがここは真っ直ぐに行き、その先のザレ場は迂回して慎重にその上方を横切る。
道の両側にはススキ(カヤ)の穂が鬱陶しいが、真夏の草いきれに比べればまだましかも知れない。

そうして道は鹿避けのネットに行きあたる。どうやら辿ってきた道は造林作業道で、鹿除けネットの保守点検などに使用されているようだ。
慎重にネットを外し、丁寧に元通りにしてからネットの中の踏み跡を辿り、数分でネットの外に出ると、白骨化した巨大な木の株が横たわるザレ場を越えて、道は再びネットの中へと吸い込まれてゆく。


大きな木の株が白骨化して横たわる。この手前はザレ場なので注意して欲しい。

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