ふくらはぎを一杯に伸ばして、東光森山のクライマックス「山頂直下の急登」を辛抱強く登って行く。相変わらず辺りは樹木におおわれているので、ただただ、足元を見つめて歩を進める。
地図で、この山の登山ルートを想像する限りだと、尾根からは北の赤石山系がよく見えると思われがちだが、実際は辺りに生える木で展望は所々しか望めない。西の展望に比べて、北が開ける場所は少ない。それでも、山頂直下の尾根では、一部樹間から赤石山系を楽しむことが出来る。
数少ない北の展望所で眺める景色は、急坂でのひとときのエッセンスでもある。
尾根でところどころ北の展望が開けると、赤石山系が望まれる(正面は東赤石山)。
さて、再び登り坂を進むと、やがて出会う尾根の岩場は、慎重に左手(愛媛県側)をまいて、きつい山肌をよじ登り再び尾根筋に復帰する。
尾根に出て、まいた岩場に後戻りすると西の展望が開けている。足元には129番の標柱がある。
手前で石や木の根が作るステージに立つと、辿ってきた尾根はもとより、大座礼山から三森山へと続く対岸の稜線が素晴らしい。彼方には平家平や冠山、そして笹ケ峰などがシルエットで浮かぶ。
尾根からの雄大遙かな展望にしばし息を整え、再びザックを背負う。これからも山頂までは急登が続く。
足取りはただひたすら惰性で上を目指すのみだが、それでもまだこの頃は少しだけブナやモミの大木に感心する余裕がある。
尾根の展望所から10分あまり、ササが高くなると木の枝や岩をつかんでの急坂で息があがる。せめてもの救いは、樹木のせいで直射日光を遮られること。
胡麻を散らしたような石(石英混じり?)の岩場を苔がおおう登山道。
足元にふと見つけた147番の標柱辺り(標高約1455m)では息も絶え絶えだが、後はもうひと踏ん張りで山頂である。
山頂が近づくと少し後ろを振り返ってみる。筒上山や手箱山の遠景が素晴らしく、また、眼下には村営アメゴ養殖場のプールが米粒のように俯瞰できる。
こんな景色が急坂で息の切れた登山者の元気を一挙に呼び戻してくれることは、歩いたことのある人なら、文句無くわかってもらえることだろう。
ここまで来れば山頂はもうすぐそこで、ほどなく、ゴロゴロした岩の多い山頂に着く。
東光森山頂は、三角点の石標のそばに幾つかの山名板があり、辺りは夏草が茂っている。
近くにはケルンが積まれてある。
想像以上に狭い山頂は、周囲の木々に遮られ展望はあまり良くない。しかし、刈り払われた一角から望む大座礼山などは見事である。
東光森山山頂。三角点の石標は左奥の山名板のそばにある。
さて、山頂からは、さらに東へと北東へと2つの踏み跡があるので、それぞれ若干の時間散策してみたが、共に樹木の背が高く展望はままならなかった。
位置的には赤石山系の好展望所となりうるだけに残念で仕方ないが、こればかりは自然の姿なので、刈り払ってまで見る必要もないことではある。
山頂の東にはミヤマシグレの群落があり、花を求めてたくさんの蝶が訪れる光景は幻想的である。
ちなみに、この日の山頂は蝶や蝉であふれていた。
特に蝉はやかましいぐらいだったが、彼らも、地上で数日の命かと思うと、梅雨の明けたこの時期だけだもの、精一杯鳴けば良いと思った。
ふとみると、手の届くほどの頭上の小枝で、一生懸命鳴いているオスを見つけた。
じっと見てると、間もなく1匹のメスがやってきた。
2匹はそっと近づいて、それから、お見合いがうまくいったらしくさっそく交尾をはじめた。
途中で何度も木から落ちそうになりながらも子孫を残すという彼らの究極の営みは続けられた。
ここにも同じ時間と空間を生きているものが居ることに、柄にもなくちょっぴりセンチメンタルになりながら、そっと彼らに気づかれないようその場を離れ、静かに下山を開始した。
ウラジロモミの枝で、厳かなお見合いが始まった。
*参考までに帰途の所要時間は、109番の標柱(最低コル)まで約25分、山界石標までは更に15分、そこから登山口まではまた更に15分ほど、都合1時間程度で登山口に下り立つ。
備考
この山は、白い花を咲かせるアケボノツツジが有名です。
登山道に水場はありません!