木立に囲まれた仏が森の山頂には小さなお堂があり入り口は東方向にオープンしており、扉はない。
中には木彫りの仏像が数体奉られ、天井から下げられた虫送りの鉦(かね)には「奉寄進、明治廿一年九月吉日」と刻まれ、上川口集落の酒井、山崎他数名の名前が見える。
お堂の壁は落書きだらけで、窪川町の大小権現山のお堂を連想し閉口するが、一方ちゃんと壁に下げられた絵馬には感心する。
山頂のお堂にある木彫りの像。右からふたつ目が阿弥陀如来、左端に見えるのが「天の邪気」だろうか。
登山口で見た弘法大師伝説の案内板によれば、谷をひとつ隠してしまった天の邪鬼を苦々しく思った村人が、その天の邪鬼を踏みつける阿弥陀如来の像を彫って祀ったとあるが、私たちにはそれがどれなのか即座には分からなかった。
ただ、4体の仏像の傍には天の邪鬼らしく、四つんばいに伏せた姿勢の木彫りの半身像がひとつ置かれてあったことは確認していた。
実は、下山後にいくつかの写真を確認していて気がついたのだが、向かって右から2体目の仏像の台座付近に注目すると、どうもここに例の「天の邪鬼」を取り付けてあったのではないかと推察できる。そうであれば天の邪鬼の像が半身であることも理解できる。ただし、天の邪鬼にしても阿弥陀如来像にしても彫りが荒く断言はできないが、しかしかえってその荒削りの作風が庶民の仏教理解を表していて、ちょっとしたパズルとして興味深い。
仏が森山頂。中央に三角点の標石がある。
ところで、仏が森の山頂は植林などに囲まれ展望は皆無である。
三角点はお堂の裏手にあり、角が取れて少し丸くなった2等三角点の標石が地面から顔を出しており、傍らには山名板も立てられている。
私たちは記念撮影を済ませると山頂手前の展望台に引き返し、少し遅めの昼食をとることにしたのだが、その前に私は展望台に登ってみることにした。
足場パイプを組んで作られた展望台。昇降時には細心の注意が必要。
この展望台は地元の人々の手作りで、足場パイプを使いタワー型に器用に組み立てられている。
階段も足場用のステップが付けられていて手すりもあり登るにはありがたいのだが、階段の傾斜は相当にきつく、登るなら注意しなければならない。
万一事故が起きても責任はとれないのであまりお奨めはできないが、展望台に登ったならそこにはやはり素晴らしい眺望が広がっている。
360度ぐるりやまなみと水平線とが空を分けていて、南には足摺半島、西には篠山や鬼ケ城連峰、北は若干樹木に遮られながらも四国カルストや石鎚方面を遠望し、東には五在所ノ峯を盟主に窪川のやまなみが続く。
ここからなら美しい入野松原の向こうに、鯨が潮を吹く姿も見ることができるかもしれない。
展望台から南の眺め。美しい入野の浜や四万十川河口、奥には足摺半島が見える。
さて、久しぶりで5人の賑やかな昼食を終えると、高所恐怖症の伊藤くんの展望台挑戦を無事に見届けてから、山頂を後にして往路を引き返すことにした。
帰途は特に山頂直下の急坂に注意して、山頂から20分足らずで尾根の分岐まで引き返してからは、登山口とは反対のトンネル南口に向かって下山するため、尾根を更に東へと向かった。
それこそ"山"勘に間違いがなければ、ちょうど佛ケ森隧道の真上辺りからトンネル南口に下る山道が見つかるはずである。
快適な尾根を東に向かう。
左手に林道を見ながら照葉樹の林の中を尾根沿いに行くと、山界標石やピンクのテープなどが賑やかで、ここも深い落ち葉に覆われている。
昔も今も照葉樹の落ち葉に覆われた仏が森は、王野山の仮御所で心情を詠んだ尊良親王の歌にもあらわれている。
「谷かげに積もる木の葉のそれならで、我が身朽ちぬとなげく頃かな」(新葉和歌集)
さて、尾根と並行して走る林道と一旦別れて、再び林道に接近してからほどなく、尾根の分岐からだと10分ほど歩いて来て、ようやく右手に下る踏み跡が見つかる。
あとはその山道に入り、植林を抜けてザレ場を下れば5分余りでトンネルの南口に下り立つことができる。
下りてきた登山口にはウツギの木に赤いテープでサインがつけられてあった。
「佛ケ森隧道」南口(大方町側)の登山口に下りてきた。
こうして結局、仏が森登山は山頂直下の直登を除けば案外簡単なハイキング程度の山だった。
だから少々歩き足らないの私だけではなくて、「じゃぁ、折角だからこれからもう一山登ろうか?」という私の誘いを誰も断らなかった。
そうしてこの後、私たちは高石見山(通称石見寺山)にも登るのだが、そのご紹介は次回に譲ることにしよう。
それにしても幡多路はもう初夏の陽気だった。
トンネルを横一列に歩いてもとの登山口に帰る頃には、隧道を吹き抜ける風の心地良かったことが、今でも忘れられない。
*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
トンネル北口登山口<9分>尾根の分岐<25分>展望台<1分>仏が森山頂
=計35分
【復路】
仏が森山頂<19分>尾根の分岐<15分>トンネル南口登山口<3分>トンネル北口登山口
=計37分
備考
登山道に水場はありません。
山頂に立つ展望台は北の三ツ又集落の人達により建てられたもののようですが、万一この展望台で何か起きたとしてもそれは自己責任と考えなければなりません。その時の天候や体調、経年変化による老朽など、登られる際には熟慮の上の判断をお願いします。
山頂に立つお堂と展望台との中間あたりから南に下る山道があります。健脚の方ならここを南下し、尊良親王ゆかりの「腰掛岩」や「休み場」などを辿って湊川や蜷川に下りることもできますが、ブッシュは覚悟しておかなければならないでしょう。
仏が森は「仏ケ森」とも「仏森山」とも表記されます。特に仏が森か仏ケ森かは意見の分かれるところで、県内の書物でもたびたび混乱があります。
ここでは、国土地理院の2万5千分の一の地図上での表記や、官公庁などの表記に倣(なら)い、仏が森としました。
なお、「佛ケ森隧道」の表記については、トンネルの入り口にある銘板に倣いました。