さて、これから向かう尾根筋を確認すると展望所を後に山頂へ向かって再び歩き始める。
ブナやヒメシャラの林を通るスズタケの刈り払い道は、両側に切り立ったヤセ尾根を辿る。途中、根の底が洗われた切り株のそばを注意しながら通過すると、やがてスズタケの急登になる。苔生した倒木に着生したシャクナゲの幼木を踏まないように歩を進める。


根の底が洗われた切り株のそばを注意深く登る。右手は大きなザレ場である。

やがて雰囲気の良いボタンスギのもとを通り、同軸ケーブルを辿りながら、息を切らして最後の坂を登りきると宝蔵山の頂に出た。
足もとには三等三角点の標石があり、傍らにはアンテナをあげてあったと思われる木が立っていて、近くの林にはアンテナの残骸もあった。


宝蔵山山頂にて、北東に県境のやまなみを眺める。

ブナやカエデ、ヒメシャラやスズタケなどに囲まれ、それほど広くはない頂だが、南北が伐採されていて眺望は良い。北には正面に横たわる甚吉森を中心にして名峰が居並ぶ。それは登山道中にたびたび振り返っては眺めた景色だが、やはりトップ(山頂)からの眺めは格別である。
また特筆すべきは南の眺望で、ここから眺める稗己屋山の山容は美しく、その左右に天狗森や綾木森が肩を並べ見事なシルエットを描いている。ここから稗己屋山に向かう尾根筋の西側は安芸市であり、モミ、ツガの保護林「横荒山」に向けて植林や展望の伐採地などが連なっている。安芸市といえば、この山の安芸市側にはかつて鉱山があったという。今から100年前の明治37年(1903年)に開発された宝蔵山鉱山(鉱区一万坪)からは銅が鉱石のままで搬出されていたという。詳しい記録は手もとにないが、その後、戦後に至るまで銅や硫化鉄が採掘されていたという。これが宝蔵山のふたつ目の「お宝」である。ひょっとするとこの山の地中深くには鉱脈がまだまだたくさん眠っているかもしれない。


南に稗己屋山を眺める。左奥は天狗森、右奥は綾木森。右の写真は甚吉森方向の眺望。

ところで、昼食を済ませると山頂から尾根を西へと歩いてみた。行けば西又山や烏帽子山に続く尾根筋も、とうていここからは遠すぎるが、折角だから少しばかり歩いてみた。
しかし、踏み跡とも獣道とも判断がつかないほどかすれた踏み跡はスズタケの中に消え入り、安易なヤブこぎを頑なに拒み続けていた。途中であっさり断念すると、「降参、降参!」と後続の仲間に告げて山頂まで撤退した。こういう縦走は時機を見るに越したことはない。

さて、それにしても、魚梁瀬の山は懐が広い。たった一度の山行きでは一山とて語り尽くせない。植林も自然林も降り注ぐ太陽も澄み渡る空も、頬を撫でる風も、すべてが宝蔵山の「お宝」であり、それは季節ごとに輝きの変わる「お宝」でもある。そんな第3の「お宝」はまだまだ限り無くある。
無限の願いや希望を込めて、麓にある親水公園に「宝蔵山」の名を冠したことであろうことは難くない。


山頂直下で見事な枝振りを見せるボタン杉。




私たちのコースタイムは以下の通り。
【往路】
登山口<18分>共同聴視用増幅器(ブースター)の残骸<30分>展望所(裸地)<12分>山頂
=60分

【帰路】
山頂<10分>展望所(裸地)<24分>共同聴視用増幅器(ブースター)の残骸<13分>登山口
=47分


登山ガイド

【登山口】
馬路村魚梁瀬からはまず「千本山」登山口に向かいます。千本山登山口までは道標がよく整備されています。千本山の登山口を過ぎるとさらに西川林道を行き、千本山登山口から約1.4Kmで右手に宝蔵山親水公園が現れます。ここにはキャンプサイトやトイレなどが整備されています。
親水公園の向こうには鍵付きのゲートがあります。これより先は事前の入山許可が必要です。必ず事前に安芸森林管理署魚梁瀬地区合同事務所(電話08874-3-2314)に連絡をして許可を得てください。その際には必ず鍵番号を確認してください。
ゲートを開けると谷の手前に小水力発電施設の小屋が見えます。林道の左手にあるその小屋の手前から左手に登る宝蔵山林道に入ります。未舗装の林道を約3.5kmほど走ると左手に「歩道入口」の道標が現れます。入り口の立木には3段に巻かれた赤テープもあります。ここが今回の登山口です。


【コース案内】
登山口から支尾根に出ると尾根沿いに登ります。途中支尾根を外れる箇所もありますが大きく外れることはありません。立ち枯れた杉の巨木のもとで捨て置かれたテレビブースターを見つけると、あとはところどころでテレビケーブルを辿ります。線状おう地やスズタケの密生地も踏み跡が確かなので迷うことはないでしょう。やがてヤセ尾根やスズタケの刈り払い道の急登を経てちょっとしたザレ場様の裸地に出て展望に恵まれます。唯一、この辺りで迷いやすいかもしれません、ここは尾根を外れて、裸地の奥に踏み跡を見つけます。それもまもなく尾根道になります。ちなみに、この先でスズタケの刈り払い道に右手へ下るそば道を見つけるかもしれませんが無視します。やがて根の底が洗われた切り株の左手を注意深く通過すると急登を経て山頂に至ります。帰路は往路を引き返します。


備考

登山道に水場はありません。

宝蔵山林道の入り口手前には鍵付きのゲートがあります。登山ガイドでも触れてある通り、必ず事前に入山許可を得てください。なお、天候や災害、工事や事業などにより入山許可の下りない場合がありますが、必ず最新の情報を確認し、許可を得た上で入山してください。

「魚梁瀬ハイキングマップ」には119林班を横断し安芸市との尾根境から北に向かう歩道が記載されていますが、現在までのところ未確認です。踏査されて詳細をご存知の方はお知らせ下さい。なお、「魚梁瀬ハイキングマップ」をお持ちの方は、119林班と120林班の境から119〜121林班の三林班境に登り、119林班と121林班の林班境を辿るのが今回のコースです。
*「魚梁瀬ハイキングマップ」は以下のHPをご覧の上、所定の手続きでお取り寄せ下さい。
http://www.shikoku.kokuyurin.go.jp/rutemap/yanase/yanase.htm


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