さて、池山池の畔からは参道を左にとって対岸に見える池山神社の境内に向かう。
池の周りを取り囲むアカガシやヤブツバキなどの古木に沿って参道を行くと、神社までは一本道である。
3分あまりで、正面に神社の立つ島が見えてくる。池に浮かぶ島はそれほど大きくはない。


照葉樹の古木に見守られながら池を迂回して池山神社に向かう。

池の岸から丸太の橋を渡ると、文政九年(1826年)奉献の凛々しい狛犬に迎えられ、すぐ奥で鳥居を抜けると立派な池山神社に着く。
神社の祠は三方を頑丈な石組みに守られ、厳かに池に向かって立っている。
両脇には文化年間(*1)の日月の石灯籠が立ち、近くにある石塔にも文化六年(1809年)の銘が見える。
それらや、あるいは傍らに置かれた手水鉢には、室津浦蔦屋、岩戸中屋、元村中屋、領家村勘右ヱ門、脇地、西川などの文字が刻まれている。
また、狛犬の奥で両脇の支柱だけが残った鳥居には、嘉永元戊申年(1848年)九月廿八日の銘があって、寄進者として奥宮正好の名が見える。
この奥宮正好は土佐捕鯨方津呂組の頭元であった奥宮家の八代目「奥宮守馬正好」のことだと思われる。
ちなみに、奥宮家の子孫はその後室戸町村長などを歴任している。
これらをとってみても池山大明神とも呼ばれる池山神社が室戸の津々浦々で高い信仰を集めていたことが窺い知れよう。

(*1)向かって右側の石灯籠には文化九年(1812年)、左側には文化十一年(1814年)の年号が認められる。


丸木橋を渡ると池山神社が祀られている小島に着く。

ところで、池山神社は、元(もと)にある西寺(四国八十八番札所26番金剛頂寺)の奥の院と伝えられ、山王権現、弘法大師、善如(女)竜王が合祀されている。
長宗我部地検帳には「池山善如竜王神テン」として3筆48代8歩が記されており、一時荒廃したが、江戸時代に入り山内家二代藩主山内忠義が再興したといわれている。
祭殿の前には鈴が下げられ、無数に提げられた赤い布には「海上安全」の文字がたくさん見える。
ここでは、高知県指定無形民俗文化財として有名なシットロト踊りも踊られていたという。


石垣に守られた池山神社の小社。手前には文化年間の日月の石灯籠が立っている。

そんな池山神社は、海上安全の神様として崇められる一方、霊験あらたかな雨乞いの神様としても厚い信仰を得ている。
昭和22年9月11日付けの高知新聞によれば、「霊験あらたか、室戸町の雨乞祈願祭」とあり、9月10日午前、町民1200名近くが池山神社で雨乞祈願祭や奉納踊りを行ったこと、その翌朝には雨が降って農作物が生気をとり戻したことが記されている。
池の主といわれた大蛇が満濃池に去ってしまっても、なんと見事な御利益なのである。
なお、雨乞いについては、その後も昭和31年の干ばつ時、室戸町長が提唱して雨乞祈願祭の行われたことが記録に残っている。


アシやイグサ、スイレン、カヤツリグサなどにおおわれた池山池。

ところで、島には神社を取り囲むようにいくつかの大きな神木が立っており、島のまわりには石垣が廻らされているが、人工の島の名残なのか、自然の島を侵食から守るためなのかは分からない。
また、一面をアシなどに覆われた池山池だが、池の中程には僅かばかり草の生えていないところがあり、どうやらその辺りが最も深く、年中水を湛えているのではないかと思われる。
現在、池の周りはぐるり植林がなされ、僅かに池の畔にのみ自然が残されている。
なお、池の中に水生生物の姿を探してみたがちょっと探したくらいでは見あたらなかった。しかし、ひょっとすると珍しい生き物が棲息しているかもしれない。動植物については詳しい調査が待たれる。


さて、礼拝を済ませ、境内で昼食をとった後、池山の三角点を確認に向かうことにした。
往路を引き返し、行きに確認してあった尾根の辺りまで引き返す。
ナタ目やテープなどを目印に尾根に踏入り、照葉樹林の中を人一人どうにか通れるだけの木立の隙間をすり抜け、2分足らずで足もとに錆びたワイヤーを見ると一旦小さなコブを越える。更に赤いテープを辿り西に向かうと、1分ほどで池山の三角点に着く。
足もとには3等三角点の標石があり、国土地理院の白い標柱が立っている。
しかし、辺りは樹木に囲まれ、大人3人でも窮屈なぐらいに狭く、特に見るべきものは何もない。
単に三角点を確認しただけですぐに来た道を引き返した。
やはり、池山は池山池あっての池山である。


樹木に囲まれ窮屈な池山の三角点にて。

それにしても、こんな山中のてっぺんに広大な池があるとは、自然の不思議をまのあたりにする思いだった。
帰路に私たちは池山池の成立をいろいろと想像してみた。
その時、池山神社に祀られていた奇妙な石のことが話題になった。
あれはひょっとすると遠い宇宙から飛んできた隕石のかけらだったのかもしれない。
日本列島が形作られた2万年ほど前、隕石の衝突したクレーターが池山池だったとしたら、そんな夢はわくわくして楽しい。
全くもって何の根拠もない絵空事だとしても、地殻変動などと通り一遍の説で片づけてしまうにはもったいない、そんな想像をかきたてられる、池山とはそんな山だった。



*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
登山口<13分>尾根の分岐<40分>林道<17分>参道入り口<32分>河内分岐<7分>池山神社
=計109分

【復路】
池山神社<9分>池山三角点入り口<3分>池山山頂<2分>池山三角点入り口<24分>参道入り口<9分>林道<25分>尾根の分岐<9分>登山口
=計81分

*往路は林道を、帰路は山道を歩いています(本文参照)。また、池山三角点に寄り道しなければ時間短縮ができます。


備考

登山道に水場はありません。歩行時間が長いので飲み水は必ず持参してください。池山池の水は飲用には不適だと思います。

林道奥郷(おうこ)線は狭く、マイカーの駐車に苦労します。付近の方の了解を得て、農林作業の邪魔にならないところへ駐車してください。


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