時の経つのも忘れ心地よい潮風に吹かれながら、櫓(やぐら)からの眺めを楽しむ。
南にはお椀のような関東山(かんとうざん)が裾を広げ、眼下には弘瀬港とその集落が認められる。更に島の南端である櫛ケ鼻(くしがはな)には沖の島灯台の白い姿も見える。青い海には室碆(ムロバエ)などの幾つかのハエ(礁=磯のこと)が、沖には漁船も浮かんでいる。
手元にあるいくつかのガイドブックによれば、どの案内にも山頂の展望は皆無とあるが、今回の私たちは地元の人たちの用意してくれた櫓(やぐら)のおかげで思いがけなく素晴らしい景観を手にすることができた。
山頂の櫓(やぐら)から弘瀬港(左下)や沖の島灯台(中央上)を眺める。(ちなみに、左に見える裾野が関東山で、山頂は画面の左に位置する)
ところで、妹背山山頂の広場には草に埋もれて円形の石積みがあり、近くには貯水池の跡もある。
これは、第2次大戦当時の軍事施設の名残であり、ここ妹背山の山頂にはレーダー施設があったらしい。砲台跡と思われる石積みには正確な方位が刻まれていた。
戦時中のことといえば、沖の島には人間魚雷回天の基地もあったという。それは白岩岬の南にある七ツ洞の断崖のことだろうか、凄惨な歴史に胸がしめつけられる。
草が繁茂した砲台跡の石積み。
山頂であれこれ散策していると私のカメラケースにイシガケチョウ(石崖蝶=イシガキチョウともいう)が羽根を休めに訪れた。四国南部など温暖な地方には普通な蝶だが、そのステンドグラスのように美しい羽根をそっとカメラに収めた。
イシガケチョウ。最近は地球温暖化で北限が上がっているという。この幼虫が好むイヌビワは妹背山にも多い。
さて、よほど気に入ったのだろうか櫓(やぐら)の上からいっこうに降りてこようとしない杉村さんと浜田さんをようやく呼び寄せて、一同山頂で記念撮影をした後、辿った道へと引き返し下山をはじめる。
往路もそうだったが、下山しながらも時々耳を澄ませ目を四方に転じるが、あわよくばと願っていた「カラスバト(ウシバト)」との遭遇は結局果たせなかった。野鳥の会の友人に聞いた「牛によく似た鳴き声」にはまたいつか出会える日もあるのだろうか? 環境変化で著しく減少してゆくカラスバトが第2のトキ(朱鷺)のようにならないことを願いながら山を下りた。
ところで、無事に下山した私たちはヒッチハイクで弘瀬に向かい、定期船の時間まで弘瀬の集落を散策することにした。
美しい展望の白岩岬を過ぎ、弘瀬漁港に着いた私たちは地元の旅館(民宿みうら)で昼食をとり、弘瀬の氏神である荒倉神社に向かった。荒倉神社は珍しい亜熱帯植物の群落が宿毛市の天然記念物に指定されており、ショウベンノキやハマビワ、タブノキ、ホルトノキなどが繁っている。その中でもアコウの大木は一見の価値であった。
また、私と浜田さんと伊藤君の3人は、弘瀬の海岸(港より南に20分)にある「鴨姫神社」も訪ねた。
ハマユウの咲く海岸に白い鳥居の立つ鴨姫神社からは妹背山の山頂がよく目立っていた。
鴨姫神社参拝の後は、車道を終点まで歩き、お稲荷さんを祀った住吉神社を訪ね、島の南に連なる断崖をカメラに収めて港に引き返した。
荒倉神社からの帰途、弘瀬漁港を見下ろす。右上に浮かぶ小島は「白皇山」、むかし美しいお姫様が漂着したという伝説が残されている。
さて、港に戻った私たちは、みなとふれあい公園にある定期船待合所で、水浴びをしたりうたた寝をしたりと、思い思いに定期船の到着を待った。
定刻に間もない頃、一人の少女が待合所に訪れた。
彼女は弘瀬小中学校に通う中学生で、これから卓球の試合で片島に渡るのだという。
スポーツバッグを両手に抱え、島の生活などをとつとつと語る純朴な少女は、国境争いや罪人の遠流など重苦しい島の歴史を払拭するように爽やかだった。そんな彼女に夏の太陽の輝きが重なった。
鴨姫神社あたりから弘瀬漁港を望む。左奥のなだらかな山頂が登ってきた妹背山。
*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
母島港<25分>母島小中学校登山口<35分>山伏神社<15分>弘瀬ルート分岐<2分>山頂
【復路】
山頂<1分>弘瀬ルート分岐<15分>山伏神社分岐<30分>母島小中学校<20分>母島港
備考
登山道に水場はありません。
母島小中学校登山口からは車道を利用して下山することも出来る。その場合は車道から右下に見えてくる法徳寺を目指して墓地の間を下ると良いが、夏草が繁茂しているおそれもある。
弘瀬地区から妹背山に登るには、弘瀬の中心部から荒倉神社に向かって左対岸を登り、民家の石垣の上を左に進み、山頂から南に派生する尾根を登る。
市営定期船は夏のお盆時など「臨時便」が運行される場合がある。詳しくは宿毛市観光協会(電話0880-63-1119)などにお問い合わせください。
弘瀬地区には、保健婦として島民に献身的な努力を続けられ、吉川英治賞を受賞、映画「孤島の太陽」のモデルにもなった荒木初子さんがお住まいでしたが、残念ながら数年前に亡くなられました。
弘瀬港の真後ろに聳える関東山には地元中学生たちが登ったことはあるようだが、道は定かでないらしい。
沖の島での携帯電話使用は、NTTドコモは可能だが、J-Honeは圏外だった。
沖の島に関する様々な疑問は以下のHPにて解決されてください。
「沖の島」
http://www.geocities.co.jp/Bookend/6815/