峠からは左にとって、広くてしっかりした山道を、尾根に沿って西に向かう。
尾根道はこの先にある六社神社の参道でもあり、年に2度の道作りで整備されている。
峠からすぐのところにはアカガシの大木や立ち枯れた松があり、奇妙な形の石灰岩や並んで立つ二本の杉が鳥居のように配されて、その奥には常夜燈が見えている。ここは金比羅さんで、常夜燈には「金比羅大権現、文化十年」と刻まれている。
よく見ると、金比羅さんのすぐ先から北西に向かう山道が認められるが、それは花ノ木に向かう道なので、そちらは無視して更に西へと向かう。
藩政時代に上燈された金比羅供養塔。
なだらかに行くと、まもなく、木の鳥居や狛犬が見えてきて、六社神社と小式ケ台との分岐になる。
狛犬の手前で左奥に向かう道が小式ケ台への道だが、ここはひとまず、南越の氏神様である六社神社に立ち寄ることにする。
鳥居をくぐり両脇に厳かに立つ杉の古木に見守られながら参道を真っ直ぐに社に向かう。
辿り着いた六社神社には大正時代の手水鉢が奉納され、簡素な拝殿や本殿が立っている。六社神社では毎年夏と秋のお祭りが欠かさず行われているという。
南越の氏神様を奉る「六社神社」。
さて、六社神社から鳥居まで引き返すと、小式ケ台に向かう。
小さな側道(そばみち)は無視してよく踏まれた山道を行き、くぼまった坂を抜けると植林の中に小さな祠が見える。
山の神の社であろう、「奉鎮祭高山大荒神部落内安全守護」の木札が奉ってある。
祠を通過するとすぐに尾根に出る。ここにはテレビの共聴アンテナが立っており、登山道で出会った電柱の謎が解けた。
ところで、快適だった山道もここまでで、これから山頂までは踏む人も少なく、道はやや不明瞭になるが、それでもブッシュなどは無い。
共聴アンテナから尾根を南西に辿ると、すぐに現れる分岐から尾根を右手に外れて急斜面をトラバースし、またも出会う分岐は左手へと登る。
もしも分かりづらければ尾根を辿っても良い、どちらもこの先で合流する。
尾根沿いに踏み跡をたどる。
踏み跡を辿って、やがて尾根に乗ると植林と照葉樹林との境をほどなく、尾根の左手に岩場の展望所がある。
僅かではあるが木々が刈り払われて展望を得ることができる。
山肌に張り付くように寄り添う南越の集落を真下に見下ろしながら、東に戸矢ケ森から陣ケ森へと続くなだらかな尾根の始まりが見える。
南東には伊野町との境のやまなみが横たわり、そこには大久保山〜去山にかけて、この春に歩いた新緑の尾根筋が思い出される。その尾根の先には社中山の送電鉄塔も見えている。
展望所から南越の集落を見下ろす。正面のピークには宮之西三等三角点がある。
展望所を後に踏み跡をたどると、まもなく山頂直下の急坂が始まる。
右に雑木林、左に植林の境に沿って直登する。ここまでが比較的楽だっただけに、短い直登でもはからず息が上がる。
ここは左手に迂回して登る踏み跡もあるが大差はない。辛抱強く足を上げ続ければ、急坂を登り詰めて一帯がなだらかな植林になる。
息を整えながら、前方に小高い場所をめざし、歩きやすい場所を適当に歩いて行けば、ひっそりと埋まる二等三角点に至る。
何の変哲もない植林の中に三角点はある。
小式ケ台山頂は一面の植林で展望は利かないし見所もない。
想像していた通りの山頂にきびすを返してたちまち下山を開始する。
帰途にもう一度展望所に立ち寄り、南越の集落を俯瞰した。
ここから眺める南越の集落は四方を山に囲まれて、俗界から隔絶された仙郷の感がある。
今から600〜700年の昔、大久保氏が拓いたといわれる南越は、その頃「峰こし村」と呼ばれ、やがて天正十八年(1590年)の地検帳には十数軒が見えるという。その後、40軒を越えていた民家も今は廃屋の方が多い。この村もやがて拓かれる前の姿に戻ってしまうのであろうか。
しかし、氏神を守り続ける村人や、南越山荘にみられるように村を出た人々にも熱い思いのあり続ける限り、限界集落と呼ばれながらもこの村はまだまだ元気であり続けることだろう。
*私のコースタイムは以下の通り。
【往路】
登山口(車道終点)<21分>柴折地蔵<4分>六社神社<9分>共聴アンテナ<11分>岩場の展望所<8分>小式ケ台山頂
=計53分
【復路】
小式ケ台山頂<4分>岩場の展望所<6分>共聴アンテナ<4分>六社神社<2分>柴折地蔵<14分>登山口
=計30分
登山ガイド
【登山口】
伊野町方面からだと、国道194号線を北上し、吾北村下八川の弘瀬橋交差点で「194号線西条大豊」への標識に従い右折します。ここから約5kmほど進むと、進行方向左手に、折り返すように車道が現れます。この道が文中で述べた南越の集落に向かう唯一の車道「南越農道」です。この車道を5mほど進んで、「村道テレビ塔線、南越山荘500m」と書かれた標識のある分岐から、南越山荘への標識に従い、左に折り返して更に500mほどで車道終点になります。ここが登山口ですが、車道終点は車庫や回転場ですから、車は200mほど手前の広場に駐車します。
なお、南越山荘への分岐からは道幅が狭くなりますので、大型車の場合は分岐のだいぶん手前で、南越集落の下方にある広場に駐車します。その場合は集落の間を10分ほどで車道終点の登山口に出ます。
その他に、バリエーションルートとしては、尾根の北にある「花ノ木」や「成川」の集落から登るコースもあります。
【コース案内】
車道終点から民家の間を通り、真上に向かいます。すぐ右手には南越山荘があります。
集落を抜けて林に入り、広い道を辿れば峠までは20分ほどです。道標などはありませんがしっかりした道なので戸惑うことはないでしょう。
地蔵のある峠からは尾根を西に辿ります。成川から登った場合も峠で合流します。また、花の木から登った場合は金比羅さんのそばで合流します。所々に小式ケ台へと書かれたプレートも見えます。
共聴アンテナからは南西に尾根を辿り、1分後に出会う分岐は右手のトラバース道が本線ですが、尾根沿いに直登しても良いでしょう。右手のトラバース道に入った場合は、急斜面を横切った後ですぐにまた分岐と出会いますが、ここは左手へと登ります。ここで右に下る道は「点の記」にも記された花ノ木に向かうルートと思われます。3分ほどで尾根沿いの直登と合流したら踏み跡を頼りに山腹を登りますが、分かりづらければずっと尾根を辿っても良いでしょう。
更に4分後に尾根に乗ると尾根を真っ直ぐに1分ほどで、岩場の展望所です。
展望所からは1分ほどで石灰岩の岩が散在する場所を通り、更に2分ほどで山頂直下の直登になります。
坂を登りきれば、それらしくこんもりとした植林の中に三角点の標石があり、山名板も添えられてあります。
備考
本文を記すにあたって、南越地区区長をされておられる坂本さんや、登山口の近くにお住まいの大久保さんに大変お世話になりました。この場をお借りして心よりお礼申し上げます。