立木に赤や黄色のテープが賑やかな尾根道を辿り、ヒノキの若木林に広葉樹混じりの山道を5分ほど登ると少しなだらかになる。ここで私たちの目の前へ高地に生息するツマジロウラジャノメが飛んできた。空腹なのにこういう時にはまるで少年のようにカメラを片手に蝶を追いかけるのだった。
なだらかになったかと思えた登山道はすぐに急坂になり、ササの中の刈り払い道を登ると、ますます傾斜は増して、息を切らせながら5分ほど這い上がると、前方にブナの大木や天然ヒノキの巨木が見えてきた。
この辺りで振り返ると眼前に口西山が聳え、物部川下流に向けて幾重も重なり合う山々に御在所山も見えている。北西には西熊山が横たわりピラミダルな天狗塚の手前には対照的になだらかな綱附森が秋の陽に映えている。東には捨身が嶽を従えて石立山が屹立し中東山への稜線が延びている。この春に満開のシロヤシオの群落を歩いた、あの尾根筋である。南東には行者山から赤城尾山へと静かな尾根は続き、ブナ林に覆われた西又山や甚吉森までが一望にある。ここでも空腹を忘れ、たっぷりとシャッターを切った。
ようやく満足すると再び尾根を辿るが、天然ヒノキの大木からなだらかにササの中を進むと、山頂はほんのすぐの所だった。
待ち望んでいた昼食休憩にして荷を解いた。


ブナが点在する古敷谷山の山頂付近。

昼食後は、スズタケの藪に三等三角点の標石を探索してみた。しかしブッシュの中にかつての尾根道らしきサインテープなどは見えるが、三角点の標石は見つからなかった。GPSは携行していたが測定誤差の範囲内を探すだけでも骨が折れる。それに、今日の私たちは勘がまるで当たらないときている。むやみな探索は止めにして縦走路をみやびの丘へ向かうことにした。


ゴヨウツツジ(シロヤシオ)の古木を眺めながら縦走路をゆく。

古敷谷山からみやびの丘に向かう尾根筋はブナの疎林で、自然林が絶妙のバランスで配置されている。
スズタケの刈り払いを少し下ってから登り返すと、こんもりとした小ピークに立つ。ここからは右手に中東山の雄姿が美しい。
ブナに混じってところどころに立つゴヨウツツジの大木を眺めながら、更に北へ向かうと、アップダウンしてから急坂が始まる。この辺りに多いゴヨウツツジは、花時に縦走路を純白に染めることだろう。
坂の途中で振り返ると、先ほどまでくつろいでいた古敷谷山は眼下になり、遠ざかる口西山に向けてアキアカネが舞っている。そうしてふたつめのピークに出ると、女性的な山容の白髪山が美しい姿を現した。
ピークからブナの林を下るにつれてササが深くなる。腰までのササを踏み開けながら進むと、やがて登山道は二手に分かれる。
ここで左手へ下る道はみやびの丘の西山腹をトラバースしてみやびの丘登山口に下っていくのだが、ここはまっすぐに尾根を辿りみやびの丘に向かった。


樹木が疎らになるとみやびの丘は近い。

ササの中、右手に石立山を、左正面に秀麗な白髪山を眺めながら、緩やかに歩を進めると、西に横たわる綱附森は小さな雲の陰に隠れようとしている。純白のノリウツギや真紅のメイゲツソウを愛でながら、少し早足で土止めの階段を登りきるとみやびの丘に出た。
みやびの丘には東屋が佇むだけで、周りは背の低いササに囲まれ、視界を遮るものは少ない。ここからは文字通り360度の展望を楽しむことができる。わけてもここから見上げる白髪山は惚れ惚れするほど美しく、白髪山展望台の名を恣(ほしいまま)にしている。風は秋らしく、空は青く高く、いつまでも景色を眺めてはくつろいでいたい場所である。


みやびの丘で白髪山と対峙する。

秋風をしばらく胸に取り込んでから下山のためにザックを背負うと、今度は家族連れでみやびの丘にピクニックにでも来ようかと語り合いながら頂をあとにした。
正面に白髪山をたびたび仰ぎ見ながら、みやびの丘から北西に下る山道を辿る。舞飛ぶアキアカネと戯れながら、ブナに着生したヒヨドリバナを横目にどんどん下る。うっかり二三歩行き過ぎて、引き返して撮影したテンニンソウは、まもなく花期を終えようとしている。
西山腹のトラバース道と合流すると、ミズメやウラジロモミ、ブナなどの林を下り、白髪山駐車場への分岐を通過するとほどなくみやびの丘登山口に出る。あとは友人の車でふるさと林道を下り、登山口で分乗すると帰途に着く。


今回のコースの下山口である「みやびの丘」登山口。こちらからスタートして古敷谷山までピストンするのも楽しい。




私たちのコースタイムは以下の通り。
【全行程】
口西橋登山口<110分>尾根(韮生越え)<22分>古敷谷山<31分>みやびの丘<13分>みやびの丘登山口
=176分
*彷徨した時間や休憩時間などは含まれていません。


登山ガイド

【登山口】
正しい登山口は、口西橋から30mほど上手にある擁壁につけられた歩道からさらに車道を走り、左カーブを曲がったすぐの所にあります。少し手前の路肩にはカーブミラーがあります。下山口のみやびの丘の登山口へは、そこから林道を10kmほど登ります。ただし、回送する場合は大栃から西熊経由で別府峡に向かう方が効率的です。

【コース案内】
文中と同じコースを辿る場合、口西山と古敷谷山を結ぶ縦走路に出るまでは、正確な読図と経験が必要です。また、ザレ場が多いので大雨の後などは特に注意が必要です。なお、詳細については文中を参考にしてください。


備考

登山道に水場はありません。



「やまとの部屋」トップページへ