黒岩山から早天山を結ぶ尾根を下って行くと、山界標識代わりに岩へ刻んだ「山」の文字や時代を感じさせるコンクリート製の山界標柱などに出会う。
なかには自然石に「山」のマークと「中」の字が刻まれたものもあり「中江産業(*2)
」のものだろうか、住友林業や川崎林産などとならんで林業資本が全盛だった時代の名残なのかもしれない。

さて、辿る尾根筋はツツジなど樹木が薄いところでは相変わらずササが地表を覆っているが、野地峰から黒岩山への稜線のスズタケに比べればその密度は薄く、スズタケのブッシュにももう驚くほどのことはなくなる。


山界標柱を辿りながらササの茂る尾根を下る。

三角点を後に尾根を下り始めてから約25分後、尾根の踏み跡はなだらかになり、やがて「境界標」と刻まれた標石からヒノキが目立ち始め、正面に早天山が近づいてくる。
更に尾根を辿ると急な下り坂になり、足元に注意して急下降するとスズタケが低くなり左手一面に伐採跡が見えてくる。
木を切り出した後にヒノキの幼木が植えられた伐採跡一帯に出ると東方向の展望が広がる。


伐採跡地から東方面の展望。中央に高いのが鎌滝山、その左が大己屋山。ここで北に目をやると手前に上津川山、奥に登岐山なども指呼できる。

伐採跡の縁を辿るように引き続き尾根を下って行く。
やがてスギやマツ、アセビなどの林を通り小さなコブを越えると尾根筋にはシャクナゲの小群落があらわれ、傍らには咲き残ったアケボノツツジの花も見えている。
間もなく左手に杉林、右手に雑木林を見ながら尾根を下りきって、再び登り返せばヤセ尾根でマツやミツバツツジ、ヒノキといった林を抜けてゆく。


樹林に囲まれたヤセ尾根。両側にはシャクナゲも多い。

黒岩山の三角点からおよそ1時間ほど下って、尾根筋の道は岩場の上に出る。
ここは若干引き返し注意して右側の斜面に下りてから再び尾根筋を辿る。
更に5分後、再び尾根は岩場の上に出るが、ここは特に細心の注意を払いながら尾根を真っ直ぐに下る。

岩場を下りきるとなだらかになり、間もなく小さなコブを登り返し、右手にマツの木、左手にアセビを見ながら、もう一度やっかいな岩場を慎重に下ると早天山手前の最低コルに下り立つ。ここまで黒岩山から約1時間20分の道のりだった。


尾根筋に咲いていたホンシャクナゲ。

下り立ったコルは上津川と白滝とを結ぶ生活道の峠で、現在も地図には山道の破線が記されている。
ここで峠の十字路を左手(東)に下ると土佐町上津川に、右手(西)に下ると白滝に下ることができる。白滝に下る方向の遠くには東光森山の頂が見えている。
そして正面の斜面に駆け上がる踏み跡に沿って南へと尾根を登って行けばめざす早天山に向かうのだが、ここで腕時計を見るとすでにこの地点で予定通過時刻を大幅に過ぎており、今回の早天山行きはすんなりあきらめることにした。

さて、そうと決めれば峠からは西(右)に白滝へ下り、登山口の山村広場に帰るのみである。
峠から白滝に下る道はいたって快適で、ヒノキの植林の中を道なりに下って行くと5分足らずで小さな谷と出会う。野地峰の登山道で小さな流れの水場と出会って以来久しぶりの水音である。

峠から10分ほど下ると道は植林を抜けてアセビの林に入り、小さな崩壊地に出会う。
白滝に下るこの道はきれいな石垣が積まれていたりして良く整備されているが、唯一この崩壊箇所だけは注意して山手を巻いてゆく。

それにしても、どうにも今歩いているコースと地図の破線が合致しない。
地図が正しいのなら古い道が廃れ今は新道が山肌を縫っているのかもしれないが、ひょっとすると端(はな)から地図が間違っているのかもしれない。
こういう事はよくあることなので今更驚いたりはしないが、以前には橋の位置が300mも違っていて登山口を探すのに小1時間もかかってしまったことを思い出してしまった。


明るいクヌギ林の中を緩やかに下る。

さて、峠から15分後、涸れ谷を過ぎると辺りは人工的なクヌギ林になり、対岸を見上げると早天山が見えている。

ほどなくクヌギ林を抜けると伐採後の2次林になる。
この辺の山道はブッシュは無いものの、時期によってはカヤなどの雑草がはびこっているかも知れない。


ひっそりと雑木林に咲く一輪のギンラン(銀蘭)。

山道を下ってくると峠から30分ほどで分岐に出会うが、ここは右に向かい、水の流れる小さな溝を横切り尾根の張り出しで再び分岐に出会う。ここでは左(西)方向に下る方を選べば眼下に畜舎やハウスが見えてくる。

道なりに張り出した尾根を辿ると少しだけ登り返してから尾根の端に出る。
ここからは右下に舗装された作業道が白く見えており、左には早天山、右奥には過ぎてきた野地峰が見えている。
この位置関係から、どうやら大川村肉用牛肥育センターの牧道に張り出す尾根の上にいることが想像できた。
そうと分かれば尾根から右下の牧道へ下る道を辿ればよいわけで、ほどなく明瞭な下り道を見つけて山肌を下ると舗装された牧道に下り立つことが出来た。
ここまで峠から40分あまり。


牧道そばの下山地点。山道の右側には「早明浦ダム特定貯水池流域整備事業(高知県本山土木事務所)」の立て看板がある。

あとは下り立った牧道(牧道・中の谷線)を北に下り、ヲス谷川に架かる中の谷橋を渡り、行きに野地峰登山口へ向かった車道と出会ったら山村広場に向かって登り返せば、牧道に下り立った地点から徒歩約25分で野地峰登山口に引き返すことができる。
なお、牧道の途中には香川県どんぐり銀行などいくつかの交流の森があり、早明浦ダムに恩恵を受ける香川県民の思い入れが伝わってくる。

ところで、今日は頂まで行けなかった早天山だったが、次回はこの下山口から登ってみようか、それとも上津川から山頂北の峠をめざしてみようか、いくつかの選択肢にまたひとつ楽しみの増える思いだった。



*全行程の私の所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
野地峰登山口<5分>林道別れ<35分>水場<21分>野地峰山頂<2分>反射板<90分>三境界のピーク<8分>黒岩山山頂

【復路】
黒岩山山頂<79分>最低コル(上津川分岐の峠)<4分>水場<39分>牧道<27分>野地峰登山口


備考

野地峰から上津川分岐の峠に至るまでのコース上には水場がありません。

黒岩山山頂界隈は携帯電話(ドコモ)の通話は可能です。


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