西又山  2001年9月23日

西又山、この山へは7年ほど前に無謀なルートで挑戦をして辛苦を舐めさせられた、まさしく苦い思い出がある。
その当時は30Kg近い無線機材を背負っての山行きだったことに加えて出だしからとりつきを間違え道無き急傾斜を這い上がり、稜線に出るだけで体力を消耗し、結局高ノ河山のずっと手前で短時間の運用をして下山したのだが、しかもそれはうだるような真夏のことだった。
以来西又山は私の中で「とてつもなく遠い山」ではあったが、「しかしどうしても克服しなければならない山」でもあった。

西又山への登山ルートのうち安芸市土居からの直登は魚梁瀬への往還の古道でもあり昔からよく知られていた。また東の甚吉森からの縦走も明治の阿波への出稼ぎ道であり、一部の健脚な登山者には今も時々踏まれている。しかし共に歩行時間が長くて敬遠されがちだったのが、馬路村の西川林道(西川125線)終点付近から尾根伝いのルートが踏まれだしてからは一挙に時間短縮され、地元新聞にも紹介されるに及んで一躍脚光を浴びることになった。
西又山へは他に木頭村の高ノ河からのルートもあるようだが、そんな西又山に今回は県境縦走のルートとして駒背トンネル南側から登ってみることにした。

徳島県木頭村側から駒背トンネルを抜けて安芸市に入り(駒背トンネルまでの案内については「赤城尾山」の項を参考)、林道をなだらかに下ってゆくと、駒背トンネル南口から300mほどの山手(左手)に西又山への登山口がある。
登山口には木製の梯子がかけられているのでひと目でそれと確認できる。


登山口にて。林道山手の梯子から登り始める。

林道の路肩に駐車し、いつもの4名は登山口から梯子を登り西又山に向かった。
出だしは意気揚々といきたいところだが、いきなりZ(ゼット)の急登に迎えられ先が思いやられる。(嫌な予感は後半にみごと的中する)

まだ身体に酸素がゆきわたらないうちの急登は辛いが、標高差約70mを10分ほどかけてようやく登りきると県境近くに出てひと息つく。
辺りはスギの植林で、真っ直ぐに踏み跡を辿るとすぐに広い窪地が右手に見えてくる。
窪地はタケニグサなどの雑草におおわれている。


登山道で出会う窪地。

登山道は窪地の縁の植林を通って間もなく稜線に出る。ここまで登山口から約12分。
ここからは土阿県境の尾根を少し進んで、程なく出会う分岐からは左へと稜線を外れて徳島県側の山肌をまいて行く。
ちなみに、ここで分岐を真っ直ぐにと稜線を辿り、1241mのピークを越えて行っても良いが、その場合は2度のアップダウンを余儀なくされる。

さて、なだらかに山腹をトラバースして行くと、窪地から20分ほどで尾根の張り出しに出て小休止する。
辺りはなだらかな広場様で正面にはこれから向かう高ノ河山(たかのこうやま)の頂が見えている。めざす西又山はその高ノ河山の向こうに隠れている。
なおここにある簡易トイレは天然ブナ林学習会などで使用されたものと思われる。


登山道で見上げる高ノ河山、まずはこの頂をめざす。

さて、小休止の後は少し下り気味に進んで、約5分後に丸太の梯子を伝い小さな流れを跨(また)ぐ。ここは水場としては少々頼りないと思われるので水の補給はこれから向かう高ノ河山を過ぎてから出会う谷の方が良いだろう。

水場を過ぎてからは杉の若木林に丸太で設えられた階段を下り、道なりに進んでゆくと水場から4分後、登山道はザレ場を横切る。
このルートは随所に丸太の階段や梯子などが施され全般によく整備されているが、唯一ここは危険箇所ともいえるので注意を要する。
それでも、か細いながらも渡されている丸木にはずいぶん助けられる。


ザレ場を慎重に進む。

ザレ場を無事に渡りきると、登山道はほぼなだらかに進み、やがて県境の稜線と交わる。
ここまでザレ場から約7分。
稜線には丸太の階段があり、
ここからは県境の稜線を忠実に辿る。


稜線を登って行く。

稜線に出てからはモミ、ゴヨウツツジ、アセビ、アケボノツツジなど俄然豊かな自然に心も足取りも軽くなる。
だから、丸太の土止め階段を5分あまりの登りもそれほど苦にはならず、ところどころから覗く白髪山や三嶺の姿にも心は後押しされる。


登山道から北方面の展望、奥物部の山々が連なる。

しかし、やがて稜線の道は勾配がきつくなり、親切に張られているロープを引き寄せながらの登り坂も現れ、間もなくスズタケの林床にシロヤシオなどの根がゴツゴツした急坂を這い上がる頃には残暑の厳しい陽射しも加わり額の汗を拭いながらの登行になる。

稜線に出てから約25分、こんもりとした疎林に出ると目の前のブナの木に一枚の山名板が下げられている、ここが高ノ河山(たかのこうやま)の頂である。
高ノ河山の山名は、この山を主な源にする高ノ河(那賀川の支流南川の枝谷)から名付けられたものであろう。これは近くにある池野河山の山名が池ノ河を、西又山もまた南麓の西又谷(奈半利川の支流西川の枝谷)を由来としているのと同様と考えられる。

ブナの爽やかな高ノ河山の山頂からは、南西方向にめざす西又山が、そして青々とした水を湛える魚梁瀬ダム湖が見えている。


高ノ河山山頂は写真での見た目以上になだらかで広く、一部展望も開けている。

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