さて峠からめざす大畑山へは尾根を西に辿ることになる。まずは、切り通した尾根に這い上がらなければならない。尾根には北からも上がれるが、南から上がった方が分かり易い。峠を池側に越えたすぐ右手に送電鉄塔16番への標柱があるので、これに従い山肌を2度ほど折り返すと尾根にとりつく。尾根に出ると快適な山道が延びている。しかし、快適な巡視路はすぐに尾根を離れ鉄塔に向けて下り始める。うっかり快適さにつられて巡視路を辿るとそのまま山を下ってしまうので、巡視路に惑わされないで尾根を伝わなければならない。もちろん私たちは惑わされて引き返したのだが。
巡視路に比べれば尾根道は心許ないが、辺りの照葉樹林で花を着けたヤブツバキやマンリョウの実が心を和ませてくれる。地積調査の杭などを辿りながらアップダウンを繰り返して尾根沿いを行くと、南にはまもなく開院する高知医療センターや高知女子大池キャンパスが見える。ついこの前まで湿地の多い原野だった池地区は巨大な建造物で大きく様変わりしようとしていた。


峠から尾根伝いに大畑山山頂をめざす。

さて、あちらこちらに台風の爪痕が残る山道を行くと、鞍部で出会う十字路を直進してやや急な坂にさしかかる。立て続けに2度の急登を登りきると、奇妙に幹を張り出したカシのそばを抜けるなり、突然目の前に眺望が開けた。かつてのNTT反射板跡は現在格好の展望広場になっている。ここは登山前に麓から確認していた場所で、昼食はここでとろうと計画していた場所でもある。眼前に広がる市街地の展望を前にさっそく昼食をとることにした。麓の工場からちょうど正午のサイレンも聞こえている。反射板の丸い礎をテーブル代わりにしておむすびを頬張りながら北の山々を指呼してみる。眼前に五台山、その向こうに北山の峰々を従えるように工石山や雪光山が並び、眼下には浦戸湾に注ぎ込む下田川や国分川、鏡川の河口が望まれる。


昼食をとりながら展望広場からの眺めを楽しむ。

昼食を終えると再び大畑山に向かって歩き始める。しばらく尾根沿いをなだらかに行くと、尾根の先端で方向を変えて下る辺りが唯一戸惑う程度で、以後は小さなアップダウンを繰り返しひたすら大畑山に向かう。
山道には蔓や倒木が多く決して快適とはいえないまでも取り立てて難儀な箇所もない。小さなコブで右下に下る側道をやり過ごすと、植林と雑木林の植生境を辿る。木々の間から左手には太平洋が見え隠れしている。幾度目かのコブを過ぎる辺りからしっかりした山道に変わり、次のピークで直角に折れて西へ向かうと、やがて竹林を抜けて雰囲気の良い照葉樹林になる。カゴノキやヤブツバキなどを見ながら緩やかに登り、一度尾根を右に迂回してから再び尾根に出ると送電鉄塔が見えてくる。鉄塔の左手を通過するとほどなく三等三角点の標石が埋まる大畑山の山頂に着く。三角点の周りは照葉樹やクスノキ、スギなどの高木に遮られ眺望は皆無。一本だけだが満開のヤブツバキがわずかな慰めである。


三角点の標石がひっそりと埋まる大畑山山頂。

頂を確認すると長居をする理由もなく、ただちに三角点を後にした。大畑山からは更に尾根を西に辿り、すぐに出会う送電鉄塔の先の分岐は足もとに見える高知県の標柱の矢印に沿って左にとり支尾根を下る。
照葉樹の落ち葉を踏む快適な山道を下ると鉄塔巡視路の標柱が立つY字路になるが、右に折り返して下る道は無視し、直進して山腹をトラバースして行く。やがて「浦戸線NO2」の送電鉄塔をくぐるとまもなく鉄塔巡視路でよく見かける階段があらわれる。左下に密集した住宅街を見下ろしながら急な階段を下るのだが、この時は崖に設置されていた鉄製のフェンスが歩道に倒れて歩きづらかった。足を取られないよう注意しながら下って、竹林を抜けると一面にカヤの繁る斜面に出る。目の前に広がる浦戸湾やそこに浮かぶ玉島、遠くに烏帽子山などを眺めながら急な斜面を下り終えると、回送しておいた車に乗り込み登山口まで引き返した。


木材団地(朝日ケ丘団地)や浦戸湾を眼前に下山口へ下り立つ。

ところで、問題の標柱だが、それはこの登山道には見当たらなかった。実は、山頂の西にある送電鉄塔から北に派生した支尾根を直線距離で300mほど行った先にそれは有った。大石谷の田中石灰鉱業の南で、高知市清掃公社の北東あたりの山中になる。クスノキの大木が並ぶ支尾根筋に比較的新しいと思われる標柱がひっそりと立っており、そこには確かに山内家と彫られてあった。これが境界標であれば他にもあるかも知れないと付近を捜索してみたが、この日はこれ以外に見つけることはかなわなかった。
この標柱はいったい何なのだろうか。その後、幾つかの文献をあさったり、山内家宝物資料館や三里史談会などに問い合わせてもみたのだが未だに謎は解けないままである。大畑山には藩政末期に土佐藩の焔硝倉(えんしょうぐら=火薬庫のこと)があって、火薬谷山などのホノギが残されているが、そこは標柱のある所とは反対側になる。結局、「山内家」が「土佐藩主山内家」のことなのかすら分からないままである。謎が解けるのはいつのことだろうか。眠れない夜はまだしばらく続きそうである。


山内家と刻まれた「謎」の標石。




私たちのコースタイムは以下の通り。
【全行程】
東孕登山口<17分>黒崎越え(峠)<17分>展望広場<19分>大畑山山頂<14分>マリンヒルズ仁井田団地(下山口)
=67分


登山ガイド

【登山口】
今回の登山口は「県道高知南インター線」の「大畑山トンネル」北口の近くにある、五台山東孕4464番地山本さん宅の西側になります。高知市中心部からだと主要地方道「桂浜宝永線」の八州橋信号から大畑山の北麓に沿って唐谷に向かうと、県道高知南インター線の下をくぐって最初の南側にある住宅が山本さんのお宅です。付近の道路は狭いので駐車する場合は地域住民の方に必ず了承を得てください。
また、今回の下山口は十津のマリンヒルズ仁井田団地になります。主要地方道「桂浜宝永線」の「自由の松原」信号で東にそれてマリンヒルズ仁井田団地に向かい、カフェレスト晩餐館の角を左に回り込むとすぐ右手に空き地があります。空き地の奥にフェンスに囲まれたパンザマストが立っていますが、この奥に下山することになります。マイカーを回送するか、自転車などをデポしておくと良いでしょう。なお、大畑山の山頂から真っ直ぐ西に下りる鉄塔巡視路を下ると高知市環境事業公社に至ります。また、山頂のすぐ西の鉄塔から山内家の標柱に向かって北に下ると大石谷のバス停に下山することも可能ですが、明確な道はありませんので注意してください。大畑山は里山なのでいろんな登山コースを設定してみるのもきっと楽しいことでしょう。

【コース案内】
民家の横から黒崎越えの道に入ります。コンクリート製の橋を渡り、生け垣やトタン塀の縁を通り竹林に入るとすぐに分岐があらわれます。足もとに見える鉄塔巡視路のL鋼の標柱に従い、右手の階段を登ります。窪まった道を登ると大畑山トンネル北口の真上に出ます。ここで道は直登する巡視路と左に迂回する黒崎越えの古道とに分かれます。どちらを辿っても尾根の手前で合流し、ヤセ尾根を行くと黒崎越えの峠に出ます。切り通しの峠は南に抜けるとすぐに鉄塔巡視路の標柱に従い右手(西)にとって尾根に取り付きます。尾根に出てからは尾根筋を忠実に辿ります。鉄塔巡視路は尾根を離れて下りますので惑わされないよう注意してください。後は尾根を辿れば展望広場を経て大畑山山頂に至ります。
山頂からマリンヒルズ仁井田団地に下山する場合は、山頂から更に尾根を西に向かい、送電鉄塔を過ぎるとすぐに左にとって、あとは道なりに下れば浦戸線NO2の鉄塔の下をくぐって団地まで下りることができます。この場合は、文中でも触れた階段や急な斜面に注意してください。
山頂の西で鉄塔が立つピークから北に派生する支尾根を辿ると山内家の標柱に向けて下ることもできますが、標柱を過ぎると右手に折り返すようにして民家の裏に見える墓地へ向けて下ってください。なお、標柱は通常の登山後、麓から改めて訪ねられる方が良いでしょう。


備考

登山道に水場はありません。

山内家の標柱についてお心当たりのある方は是非ともお知らせ下さい。


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