大滝山(土佐山村)  2003年12月

支度を整えて歩き始めようとしたら初老の男性が「登るかね」と声をかけてきた。
地元東川の人だという男性は「登山道を整備するとき一度登ったが、ここからはしんどいのでわしらはもっぱら裏から登っている」という。
それはそうだろう。ここから2時間ほどかかる道程も裏から登れば20分とかからないらしい。
苦笑いしながら「ゆっくり行ってきます」と頭を下げて、帰りに浸かる温泉を楽しみにオーベルジュ土佐山の手前にある登山口を出発した。

これから向かう大滝山は土佐山村中川の人々がクワやチェーンソーを手に3年がかりで登山道を整備した山である。土佐山村といえば県民の森工石山があまりにも有名だが、その工石山同様に楽しめるようにと地元の人々が整備してくれたのである。
確かに山頂の北を走るふるさと林道工石線からの「裏道」なら労せず頂に立てる大滝山も、折角地元の方々が汗水流して整備した道をやはり歩いてみたいと思うのは、「人」に育てられる「山」があるのを知っているからでもある。


大滝山登山口。石垣の上に案内板や道標がある。

登山道は擁壁の上にあがると、いきなりの急坂から始まる。
照葉樹と植林を繰り返し、所々に炭窯跡を見ながら急な斜面を登ってゆく。倒木を越え、落石に注意しながらガレ場を克服し、黙々と歩き続ける。
ゆっくり行ってきますと言ったはずが、前を行く今日の彼は普段にも増してハイペースである。だいたい彼と二人だけの時はペースが速い。このくらいなら着いてこられるだろうと考えてのことだろうが、学生時代に長距離ランナーだった彼のスタミナには驚くばかりである。もちろん不真面目だったとはいえ私も一応登山部に籍を置いていた手前、音をあげる訳にもゆかないが、時々カメラを構えたりメモを採ったりしているとうっかり離されては早足で追いかけることになる。


登山道は照葉樹の林を縫って、標高を稼いでゆく。

そうして、ようやく身体が慣れてきた頃、上方が少し開けてきたと思ったら林道の終点に這い出た。
右手の山腹から延びてきた林道は草木に覆われ、このところ車の通った形跡が無い。その林道を横断し更に尾根を登ると、すぐにまた林道を横断する。
支尾根を直登する山道は足もとにシイの実などを見ながら、照葉樹林を抜けてまたもや林道に出る。今度は左手の山腹から延びてきた林道の終点である。ここも対岸に横断すると、もうこれ以後林道は現れない。


林道を横断して山手に駆け上がる。矢印の通りの直登が待っている。

それにしても、延々と続く尾根の直登はきつい。大げさなようだが心臓はいつ破裂してもおかしくないくらいに脈うち、頭の中は小休止のことしか考えられなくなる。せめてもの救いは樹種豊かな照葉樹林とわずかに覗くやまなみだが、それすら見渡す余裕もなくなる。
次第に傾斜を増してどんどんきつくなる坂道は足もとに松葉を踏み、赤い実を下げたヤブコウジの群生を見る頃、ようやくなだらかになってひと息つく。木々の間からは左前方にめざす大滝山山頂がそそり立って見え始める。やがてヤセ尾根を進むと尾根の途中で展望の良い「第1見晴台」に着く。ここは「藤が滝展望所」とも呼ばれる。
ここからは南西に久万川の集落を俯瞰し、鏡ダムを越えて土佐市の市街地が見えて、南東には北山の尾根が連なり遙かに水平線まで望まれる。一方、樹間から北には大滝山の山頂も見えている。ここから眺める山頂はいまだ遙かに遠くだが、辿る予定の尾根には楽しみな広葉樹林が認められる。ともかくも一服の清涼剤のような眺望にザックを下ろして待望の小休止にする。


第1見晴台からの眺望。中央上部が鏡ダム。

喉を潤し、元気を呼び込むと、再びヤセ尾根を辿る。
まもなく尾根沿いの坂道が始まり、小さなコブを登りきると「藤が滝」の頂上に出る。ここからは右手にも尾根道が見えるが、左にとって尾根を下る。尾根の右奥にはやまなみがたおやかな背を横たえている。
足もとにイチヤクソウを見下ろしながら雑木林を下ると、すぐに登り返しの坂道が始まり、アセビの張り付いたヤセ尾根を数分で「第2踊り場」の標識が立つ展望所に着く。北を望めば大滝山の山頂直下にある「魚売石(うおうりいし)」がはっきりと確認できる。ここからも南の眺望が良く、眼下に見える寒蘭センターから目線を起こしてゆけば北山の向こうにはやはり太平洋が見える。しかし肉眼では水平線まで見える眺望もなかなか写真には撮れなくてもどかしい。


第2踊り場から大滝山山頂を望む。

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