「第2踊り場」からはアセビやリョウブ、カゴノキなどの林を急下降するとすぐに「ゆりこみのたお」とか「猪の出会場」とか呼ばれる鞍部を通過して再び尾根の直登が始まる。
手近な立木を手繰り寄せながら、ザレて足場の悪い急坂をよじ登ると、崖では右手に山腹を巻いてなおも尾根の直登は続く。傾斜のきつさはヤブツバキの花が足元に見えるほどである。
しかし急坂は長くは続かなかった。前方にツガの大木が数本見えてくると、小高いピークに出て「子石鎚山(標高741m)」の頂に着いた。
子石鎚山には石鎚遙拝所の小さな祠があり、石積みの祠の中には蔵王権現が祀られてある。そこからこの頂を「権現の森」とも呼んでいる。
祠の背後にある石鎚のお札が新しいのは今でも祭礼を欠かさない証拠であろう。
子石鎚山の頂はツガとヒノキの大木やアセビに囲まれて雰囲気のよい所である。ピークの一画からは雪光山やつつじが森などを垣間見ることができる。


子石鎚山の頂で石積みの祠に祀られた蔵王権現を覗き込む。

子石鎚山を後に尾根を下ると、岩場でちょっとした鎖場を伝い、雰囲気の良いヤセ尾根を進んでゆく。冬に備えてすっかり落葉した木々の向こうにはめざす大滝山が迫り、まもなく登り坂になると、坂の途中の岩場からも雪光山方向の展望に恵まれる。
同じ急坂でも植林とは違って照葉樹の林は心地よい。そんな坂道では2匹のニホンリス(ホンドリス)ともすれ違った。
やがて少しなだらかなヤセ尾根を進んで「第3猿討ち」に出ると、ここからも南に眺望がよい。登山道はこんな風に所々を意図的に刈り払ってアクセントを加えてくれているが、こういう展望が登り坂の苦労を随分和らげてくれている。


急坂を登る。登山道にはこんな急登がたびたび現れる。

「第3猿討ち」からはすぐに尾根に出ると左側は一面の植林で、木々の向こうには山頂が聳えて見える。少し下って一面の植林に吸い込まれると、いよいよ最後の登り坂が始まる。
植林を抜ける頃から傾斜が増して、岩場のヤセ尾根を辿る急登が続く。見上げると山頂はそそり立って見え、中腹には魚売石(うおうりいし)が不気味に白く光って見えている。
汗を流しながら最後の力を振り絞り、登山道に立ちはだかる大岩の上部に真新しい鎖を伝ってよじ登ると、ようやく「魚売石」との分岐になる。真っ直ぐに登ると山頂だが、ひとまず左にとって魚売石に立ち寄る。


魚売石分岐の手前にある急坂では小さな鎖が下げられている。

「魚売石」は山頂の南直下に聳える大岩で、分岐から数歩でその大岩の上に立つことができる。岩上は数人がくつろげるほどの広さがあり、そこには背後の山肌以外に遮る物のないパノラマが広がっている。
見渡すと幾筋もの渓谷が流入を繰り返しながら鏡川に注ぎ込み、高知市の水瓶である鏡ダムを潤している様もよく分かる。足もとには寄り添う小さな集落があちらこちらに点在し、辿ってきた尾根筋も一望のもとにある。
試しに重畳たるやまなみから目に付いた山々を拾っただけでも、雪光山や鷹羽ケ森、黒森山、虚空蔵山、石土ノ森、烏帽子、三宝山などなど、数え上げればきりがない。陽光に輝く太平洋を望みながら、急坂を克服した苦労が忽ちにして報われる眺望に、胸のすく思いで立ちつくした。
ちなみに「魚売石」とは、その昔、この岩の上から魚市場の競りの声も聞こえたことから、こう呼ばれるようになったという。なるほど、耳を澄ませば太平洋のさざ波さえ聞こえそうな雰囲気のある、そんな雄大な景観がそこにはあった。


雄大な眺望が広がる「魚売石見晴台」の上に立つ。

ところで、昼食の前に大滝山の頂を踏んでおくことにして、魚売石を後に分岐まで引き返した。分岐からは標高差20mほどを一気に直登すると、3等三角点の標石が埋まる大滝山の山頂にたどり着く。
山頂は周りが刈り払われ、特に南に展望がよい。北は樹木に遮られているが、工石山からつつじが森への稜線は覗いている。ここからも魚売石同様の眺望が広がっているが、ゆっくりくつろぐとなるとやはり魚売石であろうか。
なお、山頂から北には刈り払い道が大規模林道に向かって真っ直ぐに下っているのを確認することができる。


大滝山山頂。足もとに三角点の標石がある。

さて、魚売石まで引き返すと岩場の上に腰を下ろして荷を解いた。
穏やかな小春日和に雄大な景色を眺めながらの昼食は格別だった。加えて今日は平日でもある。実は二人して残り少ない休暇を利用してここまでやってきたのである。だからみんなが汗水流しているのに山にいられる贅沢な喜びに、また明日からしばらくがんばれる、そんな思いがするのだった。たったそれだけの幸せでも私たちには必要なのである。もちろん、それには帰りに立ち寄る温泉療養も不可欠だったのだけれど。


魚売石から太平洋を望む。さざ波も聞こえそうに近い。




私たちのコースタイムは以下の通り。
【往路】
登山口<26分>最初に出会う林道終点<26分>第1見晴台<6分>藤が滝<4分>第2踊り場<2分>ゆりこみのたお(猪の出会場)<6分>子石鎚山<12分>第3猿討ち<14分>魚売石見晴台<4分>山頂
=100分
【帰路】
山頂<2分>魚売石見晴台<9分>第3猿討ち<8分>子石鎚山<6分>ゆりこみのたお(猪の出会場)<2分>第2踊り場<5分>藤が滝<6分>第1見晴台<15分>往路で最初に出会った林道終点<22分>登山口
=75分


登山ガイド

【登山口】
高知市方面からだと、円行寺から網川トンネルを抜けて土佐山村に入ると、奈路で左折して県道33号線を西に2Kmほど走り、岩屋淵で右折して東川を遡ると温泉宿泊施設オーベルジュ土佐山に着きます。
登山口はオーベルジュ土佐山のすぐ手前の、車道山手にあります。車道を挟んで向かい側はペット霊園になっています。登山口には道標や簡単な案内板があり、駐車場もあります。
なお、大滝山の北を走る大規模林道(ふるさと林道工石線)から登る場合は、中川を更に遡り、寺屋敷から大規模林道に入るか、県道16号線(高知本山線)で工石山青少年の家に向かい、工石山登山口を経てふるさと林道を西に向かえば良いでしょう。

【コース案内】
指導標などが整備されており分岐も少ないので迷うことはないと思いますが、登山道にはザレ場や鎖場などもありますので、歩行には充分な注意が必要です。また、登山道は全般に急坂が多いので水分は充分に携行してください。


備考

登山道に水場はありません。

大滝山の南東山腹には有名な「山姥の滝」や「ゴトゴト石」があり、北東の集落「嫁石」は梅の花が有名です。四季折々に周辺を訪ねればたっぷりと楽しめることでしょう。なお、お土産は「梅干し」がお奨めです。オーベルジュ土佐山の入り口にある「とんとんの店」などを覗いてみてください。

 
大滝山の山腹には、高さ30mの荘厳な瀑布「山姥の滝」(左)や、押すとごとごと揺れる不思議な岩「ゴトゴト石」(右)などがあります。


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