三叉路からはブナやミズナラなど雰囲気の良い天然林が続き、やがて少し下ると、ほどなく左手にスズタケを刈り払った脇道が現れる。
足もとには「境第649号」の山界標石が立っている。
竜頭山の三角点へはその脇道をほんの5mほどで辿り着くことができる。
しかしそこは想像した通り展望もなく、スズタケに囲まれてひっそりと3等三角点の標石があるのみである。
幾つかの保護石に囲まれてある三角点の標石に挨拶をすませるとすぐに元の道に引き返した。


竜頭山三角点にて。中央奥に三角点の標石が見える。

元の道に引き返すと、そのまま少し先まで散策してみた。
道はこの後「境第646号」の山界標石が立つ辺りから尾根をどんどん下っている。
右手の山腹にはオオヤマツツジが数本、燃えるような赤い花が満開に山を染めている。
その姿を丹念にカメラに納めるとひとまず三叉路まで引き返すことにした。


山肌で赤く燃えるオオヤマツツジ。

往路を三叉路まで引き返すと、どこか気持ちの良い場所でコーヒータイムをとるべく、そのまま西に向かってなだらかな林を散策することにした。
ため息が出るような大きなヒメシャラや枝振りの良いブナに囲まれて快適な山道は延びている。
間もなく右手にヒノキの植林帯が現れると、ヒノキに書かれた赤い矢印が目にとまる。そばには赤いテープも巻かれている。
好奇心旺盛な私たちは矢印に従って右下方の窪地に向かい下ってみることにした。

山道から植林の中を2分足らずで窪地に下りると、湿地状のぬかるんだ一帯には水溜まりがあった。辺りには野生動物の足跡がいくつもあり、水溜まりの中は真っ黒なオタマジャクシで埋め尽くされている。しかし、彼らのうち蛙になれるのはいったい何匹だろう。外敵はもとより、恐らく共食いしながらの厳しい生存競争が待っているであろう。悠久から続けられてきた自然の営みとはいえ、何だか哀れになる。


窪地には水溜まりが点在している。

ところで、窪地から元の尾根道に戻り、更に先に向かうと、足もとに「境第665号」の山界標石を過ぎた辺りで声を上げたくなるような自然林が現れる。
筆舌に尽くしがたいほどの素晴らしい景観は、いつまでものんびり歩いていたい、そんな気持ちにさせる。


素晴らしい自然林に包まれる。

そんな林を快適に行けば、やがて道の右脇にコブをふたつ付けて、幹に洞の空いたミズナラの大木が現れる。
このミズナラは胴回り4〜5mあり、株元の部分は空洞になっていて大人二人ぐらいならすっぽりと入れるほどである。幹の上部にはまるで2階の小窓のような三角形の穴が開いていて、中から見上げるとそこから小さな光が射し込んで見える。
これはこの山で一番の神木(霊木)であろう。今日の散策はここまでにして、ここでコーヒータイムにしてザックを下ろした。


奇妙な形のミズナラ。まるでこの山の主のような古木である。

温かいコーヒーをすすりながら、毎度楽しいひとときを過ごしたら下山することにした。

宇宙(そら)からは下り坂で重いガスが高い山からゆっくりと下りてきている。
私たちもそれに合わせるようにゆっくりと下山する。
どうにか無事に麓の吊り橋まで下りてきてから杉村さんがぽつりとつぶやいた。
「上と下が良かった」。
ああ、私も同感だと思った。



*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
登山口<26分>作業小屋<35分>ザレ場<25分>尾根道との合流点<19分>三叉路<3分>竜頭山山頂<4分>三叉路<7分>湿地<9分>ミズナラの古木
=計128分

【復路】
ミズナラの古木<6分>三叉路<10分>尾根道との合流点<17分>ザレ場<24分>作業小屋<20分>登山口
=計77分

(*山頂までは108分、そのまま直に引き返すなら復路は約70分でしょう)


備考

ミズナラの古木から更に東に向かえば県境稜線に出るものと思われますが確認はしていません。どなたか確認された方はお知らせください。


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