さて、心身ともに涼しい展望に気分一新した後、再び登山道を歩き始めると、すぐにめざしていた第2のピーク(標高約1250m)に立つ。
ここからは下りはじめてほどなく見事なシャクナゲの大群落になり、その花時は想像するだけでも心浮き立つほどである。
シャクナゲの群落を抜けると今度はアセビの群落が出迎えてくれる。春なら度々足を止めて和むことだろう。
登山道にシャクナゲのアーチ。見事な群落が続く。
アセビの群落を出ると登山道はやがてもとの自然林になり、ササがやや深くなると、間もなく右手に窪地が現れる。
この辺りから踏み跡は少々頼りなくなりブッシュも厚くなるが村界尾根を外さないように二重尾根の左手の尾根を登りヒノキの若木林へと入って行く。
やがて鬱陶しい灌木帯を抜けながら足を止めて左前方に目をやるとめざす山頂が間近に見えてきて、正面には第3のピークが見えている。
第3のピーク(標高約1280m)には第2のピークから30分ほどで辿り着く。
ここからは北西方向に寒峰や矢筈山や黒笠山などを望み、南西方向には山頂にアンテナを冠した梶ケ森など高知県側の展望を得ることができる。
そして、めざす三方山の山頂はもうすぐ目の前である。
第3のピーク付近から北西に寒峰や矢筈山の眺望。
第3のピークからは、少し下ってから山頂に向けて最後の登り坂になる。息を切らして第3のピークから10分足らず、道は県境の尾根に出る。
ここで南西の尾根から延びてきた県境の尾根道と合流して、左に登ればたちまち三方山の山頂である。
辿り着いた三方山の頂はカヤ原に覆われて二等三角点の標石があり、比較的マイナーな山にしては賑やかな数の山名板がある。
こんな頂にこそ我ながらの証を残そうと涙ぐましくも立派な山名板も立てられている。
山頂から東には京柱峠へと土阿県境の山稜沿いに道が続いており、その道はたまに健脚の岳人に利用されているようである。
私はまだそのルートを試したことが無いが、三方山から京柱峠までは距離にして約5Kmはあろう、アップダウンも頻繁にあり一筋縄ではいきそうにないように思える。それでも、三方山から県境を東に2Kmほどの所にある弘瀬山(1373.4m)の三角点までは南の大豊町から林道が延びてきており、交差縦走やエスケープに使えそうである。
しかし、もう一度この山に来るならやっぱり南の西峰方面から赤根川を遡り、山頂から南西に延びる県境尾根を辿ってみたいと私の場合は秘かに考えている。それが三角点の点名「西峰」にも相応しいように思える。
三方山の頂にて。中央に見える山名板の傍には三角点の標石がある。画面右奥には小檜曽山が見える。
さて山頂からの展望だが、頂の北側はヒノキの若木林で遮られて展望は皆無だが、南側180度は伐採されていて大豊町の梶ケ森をはじめとして著名な山々を見渡すことができる。
例えば、首を伸ばせば東にはピラミダルな天狗塚が覗き、転じて西には野鹿池山など県境の山々が連なり、本山の白髪山も見えている。
南には梶ケ森をはじめ奥神賀山や鉢ケ森などを望むことができる。
一方、眼下には大豊町桃原などの集落が望まれ、足元には吉野川の支流「赤根川」を挟むように西峰の尾根が肩を並べているのを眺めることができる。
想像したより恵まれた展望に、昼食の弁当も格別の味がした。
余談だが、この日コンビニで「カルビ弁当」を仕入れてきた浜田さんはそのおかげかどうか何度も「美味」を繰り返した。
しかし、そんな浜田さんだったが不幸にも帰途には度々「水」を口にすることになる。山で焼き肉の類はスタミナはつくけれど、喉が渇くのでご注意を。
三方山山頂から南に赤根川沿いのやまなみを俯瞰し、彼方に鉢ケ森など大豊町の山々を遠望する。
さて、昼食も終わり、またひとつ確認を終えた私達は予定より早く三方山を後にした。
帰途は丸山峠まで往路を引き返し、峠からは東西に走る往還を東に向かい、東祖谷山村釣井に向かって地図に記された破線をしばらく辿ることにした。
ここで辿る道は少々複雑な地形を走るので注意が必要だ。
峠から明瞭な道を歩み10分足らずで小さな谷を渡り、更に5分足らずで出会う分岐は左に向かい丸山峠から20分あまりで村界尾根を越えると後は一本道で林道まで下ることになる。
ただ、村界尾根を越えてからの下りは地図に記された破線の道とは辿る位置が少々異なるが、迷わず道なりに下って行けばよい。
釣井分岐からは北に向かい谷川を渡る。
尾根を越えてからは、頭上に鈴なりのオニグルミを眺めながら15分あまりで林道に下り立つことができる。
下り立った「中尾登山口」からは車道を歩いて更に15分ほどで「今久保登山口」まで帰り着くことができた。
下山してきた中尾登山口、右端には「丸山峠へ1時間、釣井分岐経由、中尾口」と書かれた白いプレートが下げられている。矢印は登山道入り口、草が繁茂しているのもしばらくの間だけ。
ところで、この山にはたいへん貴重な植物が自生している。
ここでその植物の名前や生息地を明かすことはできないが、もしその植物を見かけることがあれば、どうかそっとしておいていただきたい。
その植物の元気な姿を見るためだけにでも、何度もこの山に足を運ぶ価値はあるのだから。
*全行程の私たちの所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
今久保登山口<45分>丸山峠<31分>シャクナゲ群落<32分>三方山山頂
=計108分
【復路】
三方山山頂<28分>シャクナゲ群落<21分>丸山峠<19分>釣井分岐(水場)<17分>中尾登山口<15分>今久保登山口
=計100分
*往路をそのまま引き返した場合の所要時間は約80分をみておけばよいでしょう。
備考
ヤブこぎに慣れていない方(よく手入れされた登山道しか歩いたことのない方)は丸山峠から山頂までのコースタイムに3割ほどの余裕をみておいてください。
徳島県西祖谷山村善徳には有名な祖谷のかずら橋があります。
少々商業ベースに乗せられた感は有りますが、興味のある方は帰途に立ち寄ると良いでしょう。
ちなみに、このかずら橋は平家の落人が祖谷に隠棲した折、追っ手(源氏)が攻めてきたら即座に橋を切り落として交通を遮断するために架けられたといわれています。
大豊町から登る場合は沖の集落から林道を使用して赤根川の上流に到ることができます。