三嶺ヒュッテから山頂までは、はやる気持ちと裏腹に、まるで箱庭のようなその雄大な景色に幾度も足を止めては見入ってしまう。
まぎれもなく目の当たりにしている風景は雲上の別世界である。

山頂からヒュッテ方面
 稜線上の群落はコメツツジ、その南側は険しく切り立っている。

山頂に辿り着くと一挙に西方の眺望が開ける。
間近に眺める西熊山(にしくまやま)、天狗塚(てんぐづか)、綱附森(つなつけもり)の向こうには、嶺北の、その遥かには石鎚山系の山なみが幾重にも続く。
南西の眼下には、ここ三嶺への代表的な登山ルートを辿ることもできる。
南の眼前に白髪山が、そのやや左手には石立山(いしだてやま)が、その肩越しに太平洋が。

西方への眺望
 山頂から西には、西熊山、天狗塚へと雄大な縦走路がつづく。

北には寒峰(かんぽう)、矢筈山(やはずやま)がひときわ映えて、その間には落合峠が白く輝く。
転じて東には剣山(つるぎさん)、次郎笈(じろうぎゅう)、丸笹山(まるざさやま)など徳島県の名峰が聳(そび)える。
ひとたび佇(たたず)めば三嶺頂上からの展望はまるで飽くことがない。

日中はもとより、日没後の徳島方面の夜景や、特に早朝の雲海と日の出は感動すら覚える。
世界中の時刻(とき)が止まったように漂う雲海が彼方まで続き、水墨画のように雲海の迷路から突き出す名峰の遥かから昇る朝日は、すべての生命の源のようでさえある。
日の出前からの数分間は、人を詩人にさせ、その風景は筆舌に尽くしがたいものがある。

東方への眺望
 山頂から東には、次郎笈、剣山がひときわ眼を惹く。中央に見える山小屋が三嶺ヒュッテ。

さて、三嶺山頂は、みごとな展望同様にアマチュア無線でのロケーションも素晴らしい。
コンディションにもよるが全エリア(北海道から九州地方まで)と交信が可能である。ただし当然の事ながら混信がきついことはお忘れなく。

なお、この山での私のアマチュア無線の運用は主に夕刻から早朝にかけてである。日中は登山者が多いこともあり極力運用を控えてのことである。

アマチュア無線移動運用
 三嶺山頂はアマチュア無線の運用地としても高知県屈指のロケーションを誇る。

私はこの頂で何度か独りきりの夜を過ごしている。
闇に浮かぶ一筋の遠雷、懐中電灯に戯れる虫たち、小さな石隗(いしくれ)の巻き起こす落石の音、夜行動物の呻(うめ)き声、荒ぶる風や雨。
そのたびに心細くなりながらも、とぎすまされた五感は大地と共振して、今更ながらに自然の中で呼吸をしていることを痛感するのである。


備考

山頂には二等三角点があります。
初夏の頃の一時期、登山口一帯には「アブ」(テジロアブ)が大発生をするため、虫除け薬を常備されるようお願いします。
三嶺の池の水は飲用には不適です。
山頂一帯に広がるミヤマクマザサとコメツツジの群落は国の天然記念物です。むやみに登山道を外れて植生地に踏み込まないようお願いします。