山頂から、平家の滝への指標が立つ稜線の分岐までは20分ほどで下ってこられる。
ここで、もと来た道へと急坂を下れば、30分もあれば登山口まで帰ることができるであろう。しかし、私たちはここから更に南東へと、敷ノ山を目指した。
急な坂をどんどん下ってゆくと敷ノ山を走る林道の終点広場に降り立つ。ここまで稜線の分岐から20分足らず、ここにも雪光山への指標が立っている。
指標の元を西に下る道は柿の又の集落へと続いている。ここから私たちは林道を歩く。
林道終点の広場からすぐには小さな谷があり、水が流れている。
荒れた林道を行くと両脇にはウドが多く、正面には敷ノ山が見える。
切り通しの林道にあちこち白い石は石灰岩で、緑の山肌に同じく白く見えるのは、この時期だけ白くなるマタタビの新葉と、スイカズラ(金銀花)の花である。
林道をしばらく進んで背後を振り返ると雪光山の山容が素晴らしい。ピラミダルに聳える雪光山は、ここから見上げると気高い独立峰として、人を寄せつけないような美しさがある。
敷ノ山に向かう林道から振り返る雪光山の山容。
林道を歩き始めてから25分も行くと、右手に登山道が現れる。標高は670m。
林道から分かれてこの道にとりつき、雑木林の中を登ると、あちこちに風化した石灰岩がおもしろい。
やがて15分も歩けばTVの共聴アンテナが立つなだらかな場所に出る。樹木が切り払われて伊野町方面の展望が開けている。
敷ノ山の一角で望む景色、そばにはTVの共聴アンテナが建っている。
更にカルスト台地様の尾根を進むと再び林道に降り立つ。敷ノ山には縦横に林道が走り、ここもその林道の枝のひとつで、ここが終点になっている。標高約740m。ここを仮に「2番目の林道終点広場」と呼ぶことにする。
ここからも対岸の赤いテープを追いながら尾根を行くが、石灰岩の岩場は歩きにくい。
やがて足元に「大セ」と刻まれた標石を過ぎ、伐採跡地に出ると左手に林道が見える。
ここは通称「中の宿(なかのしゅく)」と呼ばれるあたりで、ここから先は黒鞘を経て白岩や草の峰の集落に降りて行くことになるのだが、私たちの敷ノ山散策はここでひとまず終わりとして、来た道を引き返すことになる。
この地点まで、山頂から直線距離で約1kmあまり、歩行時間約100分。
白く石灰岩が露出する尾根。敷ノ山は山としては今ひとつだが、強いて言えばこの石灰岩がおもしろい。
帰途は、ひとまず20分ほど歩いて「2番目の林道終点広場」まで引き返す。ここからは林道を歩いて下る。
林道にはいくつもの分岐があるが、すぐの分岐は右にとり、左にカーブして下って行く。
約5分下って出会う分岐は右に、更に10分ほど下って出会う分岐は左へ、更に10分ほど下って出会う分岐は右へと、常に下る方向に歩を進める。
林道歩きは味気ないと言ってしまえばそれまでだが、足元がしっかりしている分、脇見しながら、おしゃべりしながら歩いて行ける。ちょうど辺りにはキイチゴが熟れ頃で、黄色い果実を口に放りこめば疲れも忘れさせてくれる。
林道脇でたわわに実を付けるキイチゴ(モミジイチゴ)。
林道を行けば、ここからしか見られない雪光山の山容もある。下りながら、左手の山肌に巨大な石灰岩の岩塊を認めると驚きの声さえ出る。こんな帰途も捨てたものではない。
傍らに色づきはじめた紫陽花が、人家の近いことを教えてくれ、やがて林道は作業小屋の脇を通り、田植えが終わったばかりの水田が現れると、行きに車で走り抜けた手水の舗装道路へと降り立つ。ここまで「2番目の林道終点広場」から延々林道を約1時間。
ここからは左手に登り返し、行きには車から眺めた風景をのんびりと足で確かめながら約15分、駐車した車まで帰り着くことが出来る。
それにしても、敷ノ山の植林で出会った人々には感謝が絶えない。
引き返した辺りを「中の宿(なかのしゅく)」だと教えてくれたおじさん、そして、林道の下り方をくどいほどに教えてくれた老夫婦。
山で出会う人達は何故に、こんなにも優しいのだろう、忙しい手を休めて親切に教えてくれた。
しかし、ここで出会った人たちが、もう随分な高齢だったことが私には気がかりでならない。
山を愛して農作業にいそしむあの人たちが、再び山に来られない日が遠からずあるとしたら、この山はどんなに姿を変えてしまうのだろう、、、。
備考
山頂では、今でも3月3日と11月1日に例祭が行われている。
山頂に座す恵比寿様は、かつて麓におろされていた時期もあったが、集落ごとに意見があわず、現在では山頂にとどまっていただくことになったらしい。
なお、車を2台確保できるなら、黒鞘の集落まで回送しおいてから片道縦走するのも良いかも?
余談ですが、雪光山の稜線分岐の看板にある「平家の滝」へは、歩いて行くよりは、車で迂回した方が良いでしょう。