田井山 2003年2月1日
この日は旧正月。それならめでたい名前の山に行こうと、当初は高知県東部の高善森を目的地にしていたが、同行予定の友人が参加できなくなり、それなら単独行のついでにマイナーな山に遊んでみようかと、めでたいはめでたいでも「めで田井(たい)」で、田井山に行くことにした。
しかし予想通り、田井山は植林やブッシュに囲まれ展望も皆無と、まったくのめでたくない山であった。
田井山は高知県本山町と土佐町とにまたがる標高800m余の山で、土佐町田井地区の真裏に聳えるところから田井山と呼ばれてきた。
この山は里山として土地の人々の生活に密着してきたこともあり、あちらこちらからの道が複雑に入り組んでいるが、一応山頂に向かうコースは3コースで、本山町本山ないし大石からと、南の土佐町伊勢川から、そして今回紹介する土佐町田井からのコースがあげられる。
しかし、どのコースも直接山頂に到る登山道ではなく、三角点に到るには正確な読図によるアプローチが必要になる。
登山の対象として踏まれていない山に向かう時はそのほとんどがそうであるように、この山においても手強いブッシュや危険なコース取りなどを覚悟しておかなければならない。
したがって、くれぐれも安易な挑戦は避けていただけるよう、あらかじめ記しておきます。
国道439号線で本山町から土佐町に入ると田井地区の直線部分で左手に中江産業土佐事業所がある。
今回の登山口はその事業所とホームセンターマルニとの間にある道路を南に折れて、住宅地を東西に走る狭い道路と交わった交差点である。
民家が立ち並ぶ登山口周辺。真っ直ぐに山手へと登って行く。
登山口から、南に向かい山の中に入って行く道を進む。
民家の裏手を真っ直ぐ登り、畑や墓地の右手を通って、スギやヒノキの植林にはいると、右手には谷があり、大きな砂防堰堤がある。山中には「土砂流出防備保安林」の標柱も見える。
道なりに登って行くと歩き始めてから5分ほどで横道を横断し、急坂をジグザグの登りになる。
間もなく竹混じりの林からクリの木の傍を通る頃には、所々に積雪が目立ち始める。
先日およそ1ケ月ぶりの寒波で降り積もった雪はまだ融けないで樹上の木の枝にも残っている。そんな木の枝から時々落ちてくる雪を避けながら登山口から10分ほどで林道(支線)の終点に出る。
一面を雪に覆われた林道からはすぐに山手に延びる歩道へと踏み込む。
雪に覆われた林道に出ると右手の山道に向かう。
林に入るとすぐの分岐は左にとり、ほどなく東(左手)から延びてきた道と出会って更に上方をめざす。ここで左手から延びてきた道は先ほどの林道の本線からの道で、下山時にうっかりするとそちらに向かってしまうので注意が必要である。
さて、相変わらずの植林の中、展望は無くとも広くて快適な道を登って行くと、間伐された明るい植林になり、再び林道に飛び出す。
この林道はすぐ右手で終点になっている。
ここでも林道を横断し正面の山道を登って行く。植林の中にはひっそりとシイタケのほだ木が並んでいる。
湿った雪を踏みながら山道を進むとまたもや林道を横断する。
バラスの敷かれた立派な林道は先ほどまでに出会った林道の本線で、登山口の東方の集落から上がってきた林道である。
この林道をマイカーで上がってくればここまでの道程を省略することができる。その場合は、ここより更に奥に向かい、山手に「下り急勾配15%」の標識を見つけたら、その手前で側溝にグレーティングのある道の方が状態は良い。どちらにしてもこの上で道は合流する。
林道を横断して植林の中の山道を行くが、いたる所に倒木があり少々うんざりさせられる。後方からは国道を行き交う車の音が聞こえている。
やがて辺りにマツの木が目立ち始めるとまたもや林道に出る。この林道が車での最終到達点である。
いたる所で倒木が道をふさいでいる。
この林道は伊勢川川沿いにある上野上の集落から延びてきた車道で、ここまでマイカーを利用すれば往路を都合30分ほど省略することができる。
林道は未舗装ではあるが路面の状態はそれほど悪くもないのでセダンタイプの乗用車でも大丈夫と思われる。しかし、幅員が狭いので駐車には苦労するかも知れない。
ちなみに今回の私が車道を利用しなかったのには訳があって、実は、帰途に山頂の南を走る山道を利用して本山に下山し、国道を歩いてもとの登山口まで大回遊を計画していたためだった。残念ながら今回はその計画を断念したのだが、詳しくは後半で述べることになる。
ところで、この林道からは車道を右(西)へ10mほど下った山側に見える道に入って行くことになる。入り口には白いテープが下げられている。
また、この入り口から逆に路肩側へ目をやるとすぐ下方にしっかりとした山道が下っているのが確認できる。この道が先程ふれた「下り急勾配15%」の標識の近くから登ってきた道であり、私は帰途にこの道を下ってみた。
車での最終到達点である林道脇の登山口。右手の山道を林の中へ向かう。
さて、いよいよここから山頂までは車道とも出会うことなく山道となる。
林道と別れて山道に入ると数分で右手に白いテープの巻かれたスギの木が見えてくる。
これは右手の尾根の端にある三角点への目印であろう、ここから踏み跡を辿り尾根に乗って引き返すように北に向かうと雪の中に三角点がある。
この三角点の点名は上野で、等級は4等、山道から三角点までは3分足らずである。三角点は展望が望める訳でもなく特筆すべきものは何もないがルートファインディングの練習に三方を石で囲まれた三角点を見ておくのも良いかもしれない。
少し寄り道してしまったが、本道に戻ると再び山頂をめざす。
右手に雑木林、左手にヒノキの若木林を見ながら、再び両側がヒノキ林になると上方に田井山の尾根が見えてくる。
ヒノキの若木林を左手にまだらに雪の残る山道を進む。
一面の雪の上に獣たちの足跡だけを追いかけながら登ってゆくと、後方には植林の木々越しに鮮やかな赤い橋が見えている。どうやら早明浦ダムの上流にある上吉野川橋のようである。
やがて伐採された一帯に出て北に展望が広がる。
眼下に本山町吉野や寺家の集落を俯瞰し、その背後には長瀬山からきびす山、更に白髪山が続いている。
四国の水瓶早明浦ダムの上方には修験の霊峰「鎌滝山」が聳え、その中腹には大淵の集落も見えている。
北方遠くに大森山や玉取山など土予県境の山々が横たわり、鎌滝山の右遙かには大登岐山が覗いている。また、早明浦ダムの左右には岩躑躅山や大座礼山、東光森山などお馴染みの山々も見えている。
ふと目を凝らすと、吉野運動公園には昨年の国体山岳競技用に作られた「吉野クライミングセンター」の銀色のドームも輝いて見えている。
登山道中唯一の展望に、しばらく小休止してあちこち目を凝らせてみた。
今回のコース唯一の展望。眼下に寺家や吉野の集落、左手には早明浦ダムが見えている。