景色を眺めながらじっとしていると汗がひいて少し肌寒くなってきた。体温が下がらない内に再び歩き始める。
伐採地から植林に入ると目も眩むような急斜面を東にトラバースして行く。よくもまあこんな急斜面にまでくまなく植林をしたものである。滑落すればひとたまりもないような斜面までびっしりと植林に覆われているが、おかげで恐怖心は薄れる。
やがて道は次第に高度を上げながら、ジグザグの急登へと移ってゆく。
伐採地での小休止とトラバースした急斜面とで冷えていたはずの肝も身体も、再び熱せられてたちまち息があがり始める。
少しペースダウンして息を整えながら登って行くと、植林帯の登り坂で道は二股の分岐になる。
ちょっと考えてから左手へ登っていくことにした。
左右の道はどちらも、道幅も踏まれ方も同じ具合なのだが、田井山の頂は現在地よりかなり左手のはずなので、ここは単純に左の道を選んだ。
ちなみに、右手への道は確かめてはいないが伊勢川からの林道に向かっているように思われた。
分岐から間もなく、なだらかに山腹をゆく。
さて、分岐を左にとって少し登ると、道は山肌をほぼ水平に東へとトラバースして行く。
積雪で道が判然としなくなり、降雨でできた溝か作業道なのか、度々立ち止まっては注意深く観察しなければならなくなった。
分岐から10分ほど、感覚的には幾分東に振りすぎたかなと思う頃、植林の立木に取り付けられたピンクのコースサインが目に止まった。
俄然元気づけられてそのテープを辿りながら尾根に向かって登って行ったのだが、尾根に近くなると前方では切り倒された倒木や伐採後のブッシュが行く手を遮っている。
山道をおおいつくす倒木、その奥の尾根沿いには灌木のブッシュが待ちかまえている。
無秩序に伐倒された木々は山道を完全に覆い尽くし、伐採地でわがもの顔のブッシュは落葉してなお人を寄せつけない不気味さで尾根筋を埋め尽くしている。少し挑戦してはみたのだが、尾根までは今少し標高差があり、地図を開けば田井山の三角点は頭上の尾根よりはまだ左(東)である。体力を消耗する闇雲な突進はする気になれず、ここは一旦引き返して植林の中を迂回することにした。
遠巻きに迂回して、壁のような急斜面をよじ登り一旦尾根に出るが、尾根筋にはかすかな踏み跡はあるもののブッシュがひどくて、再び北斜面を迂回し尾根の東から逆に三角点へ向かうことにした。
一旦尾根に出て伐採地を振り返る。南(左手)には笹ケ峰(1131.4m)が、南西には三辻山のアンテナも見えている。
田井山の北斜面は地図で見る「等高線」の通りに鋭く切れ落ちた急斜面が続いている。もちろん道などは無く、獣たちでさえ足をとられそうな急斜面は落石や滑落に細心の注意を払わなければならない。
立木を支えにただでさえ滑りやすい斜面を積雪と格闘しながら野ウサギの足跡を追いかけ東に向かう。
用心して持参したアイゼンを着けようか着けまいか考えている内に下方から上がってきたかすかな踏み跡と出会い、それを辿って尾根に出ると立木に赤いテープを見つけると同時に、足元に三角点の標石を見つけた。
伐採地と植林帯との境目付近で木立に囲まれて三角点の標石がある。
木立に囲まれて展望皆無の山頂に3等三角点の標石がひっそりと土に埋もれてある。
傍には平成10年と記された登頂記念の山名板がひとつだけ横たわっている。
特にこれと言って取り上げるべきものもなく、三角点を写真に納めると簡単な行動食をとって帰途についた。
復路は時間に余裕があれば山頂の南を走る山道(本山町大石の上を走る点線の道)を利用して本山に下り、本山茂宗氏の居城跡(城山=371.6m、文末の備考を参照)や十二所神社などを散策してから国道を歩いてもとの登山口まで回遊しようと考えていた。
しかし、尾根のブッシュを越えなければならないことや歩行距離の長くなることを考えると、登頂までに費やした時間が想像以上だったこともあって、今回は大事をとって往路をほぼ忠実に引き返すことにした。
もっとも、そのおかげで、一番上で出会った林道から下る別ルートを辿ることもできたし、途中で出会った横道の探索もできた。
もちろんちょっぴり心残りもあったが、今回見送ったコースは、いつもの仲間たちとあれこれヨーダイを言いながら歩いた方がきっとずっと楽しいに違いないと思った。
楽しい時はもちろんのことだが、こいう山こそみんなで行けば怖くない、、、のである。
車での最終到達点から別ルートで下山する。こちらの方が道の状態が良い。静かに歩いていると野ウサギに出会える。
*全行程の私の所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
登山口<11分>林道終点<6分>林道(A)<3分>林道(B)<10分>林道(C)<20分>伐採地(展望)<11分>二股分岐<42分>田井山山頂
=計103分
【復路】
田井山山頂<22分>二股分岐<8分>伐採地<14分>林道(C)<6分>「下り急勾配15%」の標識付近<5分>林道(B)<4分>林道終点<7分>登山口
=計66分
備考
田井山三角点から西の尾根一帯は激しいブッシュにおおわれています。くれぐれも注意してください。
なお、登山道中に水場はありません。
戦国時代に土佐の七守護の一人であった本山氏(*1)の居城跡は「城山」と呼ばれ、付近は「城山の森生活環境保全林」として、遊歩道や休憩所などが整備されています。
城山には4等三角点の標石があり、登山口からは遊歩道を歩いて15分ほどです。
なお、城跡は本山町指定文化財して保護されています。
(*1)本山養明(ようめい)−本山茂宗(しげむね/梅慶)−本山茂辰(しげとき)と三代に渡り本山城を本拠として活躍。「長元物語」より、安芸、香宗我部、長宗我部、本山、大平、吉良、津野の豪族七家を七守護とよんでいる。なお、幡多の一条家は別格とされている。
本山城跡にある石碑。