高尻木山  2002年5月25日

地図に山名が記されていたら一度は登っておきたい、そこに三角点があれば尚更のこと、山に魅せられるとそんな衝動を抑えられなくなる。
たとえ、およそ想像するに展望は皆無、くわえて何ら見どころが無いだろう山だとしても。
久しぶりの五月晴れだというのに何の因果で青い空も見えない山に向かうか、自分に聞かせる愚痴を繰り返しながら土佐山村菖蒲に向かって車を走らせる。
向かう「高尻木山」は土佐山村菖蒲の北に位置し、穴内川の源流部「桑ノ川」の源頭部にある。

主要県道33号線「南国伊野線」で土佐山村菖蒲(しょうぶ)に入る。
土居地区の小さな商店から県道を逸れて、北へと林道菖蒲線を行くと嶽ノ首(たけのくび)集落入口のヘアピンに高尻木山への道標があり、そこから更に林道を走って2km余りで舗装が切れる辺りまで行く。
右カーブのヘアピンの左手に作業道が現れ、その作業道の先に1軒の山小屋が見えたらカーブに車を止めて身支度を整える。

舗装された林道を2分ほど歩くと舗装が切れて二股の分岐になる。
右側の道の入り口には錆びた水源かんよう保安林の看板と「作業道路、品川白煉瓦株式会社高尻木山植林地入口」の石柱が立っている。
しばらくはこの作業道を歩かせてもらうことになる。
なお、この作業道は私道であり、また駐車できる待避所もないので車の乗り入れは遠慮したい。


作業道入り口。私道なので車は遠慮して歩く。

作業道の両側はヒノキの植林だが空が開けているので鬱陶しい感じは無い。
ヒノキの間越しには高知市街が見えている。
作業道を入り口から5分ほど行くと左手に折り返す道が上がっているが、ここは無視して真っ直ぐに行く。


作業道の脇の植林の間から高知市街を遠望する。


道の脇にはユニークな顔をしたヒメハギの花が咲いている。

すっかり展葉したウドや、今が花時のマムシグサ、伸びきったイタドリなどを眺めながら作業道を歩いて行く。
山肌にはコガクウツギの白い花やヤブウツギの濃紅の花が咲いてマルハナバチやハナアブなどを誘っている。

作業道入り口から20分ほど登ってくると二股の分岐になる。
ここは左の登る方に進み、1分も歩くと左手に草の蔓延(はびこ)ったかつての作業道を見つけて踏み込む。この廃道化した道の入り口にはヒノキの枝に赤テープの目印がある。

かつては車道として広かった道も今はカヤが蔓延(はびこ)り、人ひとりの通行にも少々狭い。
このかつての車道を道なりに5分ほど行くとにぎやかな赤テープが見つかる。
ここから右手の植林の中に踏み跡を見つけて駆け上がる。


植林の中の踏み跡を直登する。

踏み跡をほぼ真っ直ぐに登って行くと5分ほどで尾根に出て、足元に青い地籍調査用の杭などを見ながらなだらかに行くと、左は相変わらずの植林だが、右手には雑木林が現れる。頻繁に踏まれる道ではないので傍らの草木が茂って少々歩きづらいがブッシュというほどでもない。
小枝やイバラをステッキで払いながら、土佐山村と南国市の境を西に5分ほどで高尻木山の山頂に辿り着く。


高尻木山山頂。国土地理院の標注の向こうに三角点の標石がある。山頂のスペースはここで見える範囲がすべてである。

山頂は本当にこぢんまりとしいて猫の額ほどの広さもない。一度に5人も立てば満員電車のように身動きできなくなるほどである。
しかも山頂の周りはヒノキの若木林と、アセビ、クヌギなどの雑木に囲まれて展望は皆無。
無理すればヒノキの若木林から高知市方面がちらほら見える程度である。
山頂には3等三角点の標石があり、それでも1987年の登頂記念のペグや倒れた山名板が1枚ある。
こんな山だが、私のようにささやかな確認を終えた人々は少なからず存在するようである。

帰途は往路を引き返し、登山口まで30分もあれば帰り着くことが出来る。

帰りには菖蒲地区にある白山神社にお詣りして、近くにある菖蒲洞を訪ねてみたい。
菖蒲洞からは、夏なら涼しい風と清らかな水が吹き出しており、鍾乳洞の冷気に山歩きの汗もひくことだろう。


*全行程の私の所要時間(コースタイム)は以下の通り。
【往路】
林道カーブ登山口<2分>品川(株)作業道入り口<6分>最初の分岐<14分>2番目の分岐<1分>廃道化した作業道入り口<6分>山肌(植林)への入り口<10分>山頂

【復路】
山頂<31分>林道カーブ登山口


備考

この山へは、南の蓬原や井ノ沢、あるいは蟹越えから南国市と土佐山村との境に出て、市村界の尾根を北上するルートも考えられますが、いずれにしても植林と林道は覚悟しておいた方が良いと思います。

菖蒲洞(しょうぶどう)は高知県指定の天然記念物で、古生代二畳紀の鍾乳洞である。
洞内は東西二つからなり共に奥行きは6mを超え、洞内には様々な鍾乳石や石筍がある。
この洞の現在知られている規模は本洞だけでも350m、支洞や水路を含む総延長は700mにもおよび、洞内からは多量の水が流れ出している。
また、洞の上方50mに位置する「初平の岩屋(初平ケ岩屋洞窟遺跡または菖蒲洞洞窟遺跡とも呼ぶ)」からは弥生式土器や獣骨などが発見されている。
洞窟の奥には弘法大師が彫った薬師如来像があるという伝説が残されている。
なお、現在入り口には鍵が掛けられ洞内に入ることは出来ない。


菖蒲洞入口。柵があって中には入れない。

白山神社にあるイチイガシは周囲4.5m、樹高30mの巨木で「白山様のイチイ」として注連縄が巻かれて祀られている。
その推定樹齢は500年ともいわれる。
なお、白山神社には不思議な形の手水石があり、絵金の絵馬もあるという。


白山神社(後方)とイチイガシ

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