足元に去年の落ち葉を踏みながら2度目の休憩場所から20分、登山口から休憩も含めて都合約1時間20分で山頂にたどり着いた。


明るい、天狗森の山頂。浜田さんの足元に一等三角点の石標がある。

山頂は10畳ほどの広さが刈り払われ、1等3角点の石標がある。
頂からの展望は、目の前(北東方向)に谷山、遙かに甚吉森。また、東方向には貧田丸、南に鐘ケ竜森、馬路の集落、安田川の遙かには安田町が、ただ、残念なことに太平洋はかすんでいた。



中央に小さく馬路の集落、その向こうが安田町、そして空気の澄んだ頃には太平洋も見えるはずなのだが、、、


とあるガイドブックでは、北に稗己屋山が見えると紹介されていたが、残念ながら天狗森の山頂は木々に遮られ展望の許す範囲は少なく、稗己屋山は確認できなかった。しかし、
ここからは南東の野根山、南西の安芸方面の山並みが美しく、そんなことはまるで気にならなかった。
天狗森は分水嶺のひとつで、西に安田川、東に奈半利川が流れている。
ダムのまったく無い安田川、魚梁瀬ダムを持つ奈半利川と、両河川は対照的だが、共に良質の鮎が捕れることでは有名で、四万十川に劣らず美しい流れである。
余談だが、安田川のテナガエビは四万十産に勝るとも劣らない。
時間が許すなら、この山を挟んで流れる、そんな水や生き物と戯れるのもきっと楽しいことだろう。



北東方面の展望。木々に葉の茂る夏の見晴らしはあまり良くないだろう。

さて、帰途は来た道を引き返す。
45分ほど下ると、間伐後まもない林をぬけ、登りで最初の合流点だった分岐にさしかかる。
ここはうっかりすると登ってきた右側(下る方向で右側)の道を通り過ぎてしまうかも知れないが、心配は要らない。すぐに下方で登山道は合流する。
滑りやすいカヤに注意して下れば、山頂から1時間程度で登山口に降り立つことができる。

なお、山頂から10分ほど下ったところ(標高1190m)で左手にかすかな踏み跡がスズタケのヤブに入り込んでいるのを確認した。おそらくは、尾根続きの谷山に向かう道だろうと少し踏み込んではみたが、踏み跡がどうも定かでない。この日は時間の都合で確かめるにはいたらなかった。

ところで、
この日は、この山ともゆかりのある金林寺に立ち寄った。
天狗森と金林寺のゆかりとは、この寺を建立の折、天狗が邪魔をしに来たので追い返すと、天狗たちはかの天狗森に逃げ帰ったとされる、この地方の言い伝えによる。
金林寺(月光山珠勝院金林寺薬師堂)は、平安時代に建てられたと臆され、本堂は大同2年(807年)に弘法大師一夜建立と言われている。不動明王立像と毘沙門天立像は国の重要文化財に指定されており、他にも薬師如来座像など県や村により指定を受けた文化財も多い。

女坂、男坂の厄坂を登り、小高い林の中で出会う薬師堂は、厳かに私たちを迎えてくれた。
いにしえに、荒ぶる山神は人々を苦しめたかも知れない、天狗森の天狗たちも同様だったかもしれない。
そのたびに、人々は勇気を持って対抗したに違いないし、その都度都度、信仰の対象として金林寺は里人を励ましてきたのだろう。それは、この貴重な建造物を守ってきた人々の心に現れているように思える。
冒頭で紹介したように、様々な試みで元気な村を維持している人々には、今もそんな熱い血が脈々と受け継がれているに違いない。


月光山珠勝院金林寺薬師堂

さて、話しは変わるが、やっぱりカモシカには出会えなかった。(そう簡単には姿を現してはくれない)
それでも、この山で実際にカモシカを見た浜田さんの話を聞きながら、またいつか、きっと出直そうと思った。


備考

登山道に水場はありません、急登が多いので充分な水を確保してから登られてください。