ネイチャーハントのピークで一息ついた後、三角点をめざしてザックを背負った。
杖立山三角点への道は、先ほどのピークのすぐ西側の植林の中にある。ところどころ赤いテープの目印があるので、注意すればすぐに見つかるだろう。
ほぼ水平に尾根を行けば10分ほどで三角点の石標に辿り着くことが出来る。ここは梶ヶ森県立自然公園の西端でもある。

杖立山の尾根から
 杖立山の尾根筋から、杖立峠〜梶ヶ森の縦走路をのぞむ。

ネイチャーハントのピークから山頂の三角点までの尾根筋には岩場の好展望所があり、ここから眺める杖立峠〜梶ヶ森への尾根は非常に魅力的である。
一方西に目をやれば幾重にも重なる嶺北の山々に、やさしい山容の白髪山がひときわ眼をひく。

西方の眺め
 杖立山の尾根筋から西を望む。中央に見えるなだらかな山は本山町の白髪山。

さて、三角点がある杖立山山頂は木々に遮られ展望はきかない。
ここより道は北西に下り大豊町穴内(あなない)に向かっているが、あまり踏まれた様子はない。
最近各種ガイドブックで紹介され注目されだした山だが、春の見頃にはまだ少し早いとはいえ、この日この山を訪れたのは私達だけだった。まだまだ静かな山歩きが楽しめる場所である。

山頂です
 杖立山山頂(三角点)。ご覧の通り山頂からの展望は良くない。

下山後に、この日のもう一つの目的だった鈴が森渓谷を訪ねた。
鈴が森渓谷は、穴内川の支流久寿軒川の枝谷の上方にある切り立った岩場の渓谷で、奥大田渓谷、霧石渓谷とならび大豊町を代表する渓谷のひとつである。
ここには有名な「六本の滝」があり、清爽な流れは飛沫をあげて蒼黒の深淵に降りそそいでいる。

六本の滝
 荘厳な、鈴が森渓谷「六本の滝」。

滝の上に登ると上段の滝が作る見事な滝壺(「かま」という)を眺めることができるが、滑落の危険があるのであまりお奨めできない。
それより滝の奥には巨岩や奇岩が重なり、断崖絶壁の渓谷には人を寄せ付けない美しさがある。それだけに、岩場に咲くアケボノツツジやヒカゲツツジの美しさは地元の人だけが知る秘かな楽しみでもある。

滝の上流で見つけた蕗の薹に、二人してしゃがみ込みしばらく和んでみた。

備考
六本の滝の「六本」とは、かつてこの辺りに六本の松の木があり、この場所を六本松と呼んでいたことからきている。六本の滝へは2ルートあるが、どちらもわかりづらいと思われるので、地元の人に聞くと良いだろう。滝から西(滝に向かい左手)に行くと、滝の上流部へ出る山道があるが、大きく上流部に迂回するため滝のすぐ上部まではかなりな回り道になるので注意して欲しい。

杖立峠の「送り狼の伝説」とは、以下のようなものらしい。
昔、大豊町の船戸に住む儀右衛門という男が二人連れで土佐山田町に出かけるため杖立峠をめざしていたら、峠の手前から狼につけられはじめた。そのうち途中で道に飛びだした狼は二人の着物の袂(たもと)を喰わえて、座れ座れとの仕草をしたので、二人が座ると、今度は寝ろとの仕草なので、二人は道に寝ころんだ。すると狼は寝ている二人の上に腹ばいになっておおいかぶさってしまった。
と、やがて突如山が荒れ地鳴りがして魔人の集団がやってきた。魔人は二人を見て「うまそうな肴がいるが、狼さまが取っているのではどうにもならん」と言って通り過ぎて行ったという。
やがて山が元の静けさを取り戻すと、狼はその後も二人を「笠松」のあたりまで送ってくれたので、二人は持っていた弁当に火打ち石で火をうち、狼に与えたという。その後、無事に峠を越えられた儀右衛門は「どんなことがあっても杖立山で狼に鉄砲を向けるな」と、子孫に言い伝えたという。

やまとの部屋