綱附森  2001年6月3日

三嶺山系の西端に聳える天狗塚の南方約6kmに位置する綱附森は、ピラミダルな天狗塚とは対照的に、そのなだらかな山容からは母性的な魅力を感じる。
お隣りの手軽な土佐矢筈山や、人気の高い三嶺などと比べればまだまだ静かな山歩きが楽しめるし、何より山頂からの360度の展望はこの山の醍醐味でもある。

綱附森への登山道としては、三嶺登山口として有名な光石登山口から綱附新道を登るコースと、土佐矢筈山の登山口として有名な矢筈峠(別称アリラン峠)からの2つのコースが代表的であり、今回は後者の矢筈峠からのコースを辿ることにする。矢筈峠からのコースは、平成10年に行われた全国高等学校登山大会に使用され、登山道が整備されて快適な山歩きが楽しめる。登山大会というと、その度に新道をつけたりするのには首を傾げたくなるが、おかげでスズタケが刈り払われ既存のコースが歩きやすくなるのは、身勝手ながらありがたいことである。

物部村大栃から矢筈峠を目指し、帰途に立ち寄る予定の笹渓谷温泉を過ぎて、普賢堂(
詳細は備考にて)のある笹上(ささがみ)から矢筈峠に向かう。峠へと向かう林道は最近舗装されており、かつては土埃をあげながら走った道も今は峠まで快適なアスファルト舗装である。
辿り着いた矢筈峠は高知徳島の県境に位置し別名「アリラン峠」とも呼ばれる。戦後厳しい道路工事に従事していた朝鮮人労働者の人々が、この峠から見る風景に故郷を偲んで「アリラン峠」と呼んだという。峠にはアリラン峠由来の説明板が建っている

アリラン峠に着くと、土佐矢筈山の登山口として整備されたトイレ付きの駐車場を貫いて東笹林道を東へとマイカーを走らせる。ほどなく林道は広場の先で一般車通行止めのチェーンに出会う。綱付森の登山口はこの「通行止め」チェーンの手前左にあり、マイカーは右手の広場に駐車する。広場には充分な駐車スペースがある。


綱附森登山口、約5kmの案内板が立っている。

ザックを整え、登山靴の紐を締め直して、道標の立つ登山口から綱附森への登山道に踏み込む。林の中には咲き遅れたミツバツツジの花が見える。
坂道を5分あまり行くと登山道は一旦なだらかになるが、それもつかの間、登山口から約10分でスズタケの中の急登になる。
背丈ほどのスズタケの中を真っ直ぐに登って行くと、左手(西方向)には土佐矢筈山が見えている。標高を稼ぐごとに土佐矢筈山山頂のササ原が見えてきて、下方には出発してきたアリラン峠も確認できるようになる。
尾根の小ピークに出るまで続くこの急登が、このコース中一番きつい場所なのでオーバーペースにならないよう、やや押さえ気味に登って行く。


登山道から西には土佐矢筈山の頂が見える。左下方はアリラン峠(矢筈峠)。

登山口から約20分、スズタケの急登を登りきると標高約1385mの小ピークに出る。
ここからは高知徳島両県の県境に沿って林の中を南東方向へと下って行く。
スズタケの林床にブナやモミ、リョウブなどが点在する中を歩いて行くと、樹間からは北方向に三角錐の天狗塚が見えている。


県境尾根にて、樹間から北方向に見える天狗塚を眺めてしばし立ち止まる。

この日、お隣の土佐矢筈山には山仲間である杉村さんが一人ですでに山頂に達していた。無線で矢筈山の様子を聞くと、すでに幾つものパーティーで山頂は結構なにぎわいらしい。喧騒を離れて、杉村さんはこれより小檜曽山(こびそやま)までの縦走に向かうとのこと。それに比べればこちらは静かな山歩きである。

ところどころ木の葉越しのやさしい陽射しをうけながら、県境の尾根を登り返し、登山口から約30分で小さなコブを越える。
更に約3分でコルから再び登り返し、また小さなコブを越える。


登山道で出会ったヨコグラツクバネ(ユリ科)。その名の通り「横倉山」で採取されたものを牧野富太郎博士が命名した。良く似たものに花柄の長いツクバネソウ、花が下向きに咲くウナズキツクバネソウがある。大きな4枚の葉の上に緑の花を咲かせて、黄色い雄しべと4本の赤い髭のような(柱頭という)雌しべがあり、花が終わると黒紫色の実をつける。その実の下側には反り返った緑色の花びらが残り、その姿が羽根つきの羽根、つまり「ツクバネ(衝羽根)」に似ているところからツクバネの名がついた。

ヨコグラツクバネなどの花に和みながら登山道を歩いて行くと、ササの中にギンリョウソウを見つけた。ギンリョウソウはその特異な姿から別名ユウレイタケとも呼ばれているが、先端の花を上に向けて持ち上げると鮮やかな青色が美しい。
なお、ギンリョウソウとは、白い鱗のような葉を持つ姿を「銀色の龍」にみたてて「銀竜草」名付けられた。
この植物は、緑葉が無いので光合成を行うことができず、分解した有機物を吸収する腐生植物として有名である。(有機物を吸収する菌類と共生しているらしい)


よく見るとかわいいギンリョウソウ。別名「スイショウラン(水晶蘭)」の方が似合っている。

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