村界の尾根に出てから約10分、登山道は尾根を左に逸れて山肌を巻いて進んでゆくと、間もなく再び尾根に出る。
ここには左手に展望の良い岩場があり、みんなで次々とつつじの咲く岩場によじ登ると、ここまでの苦労を忘れさせてくれる素晴らしい展望が目に飛び込んできた。南に高知市が一望で、西には雪光山(国見山)や敷ノ山が、その後方には鷹羽ケ森も見える。
少し汗ばんだ額に春の風を受けながら、胸にはこんな一瞬のために山に登り続けているんだという思いがあふれてくる。
尾根の岩場から西方向の展望。雪光山の尾根続きは敷ノ山(左)。
岩場に立って、こんな景色や感性を共有できる仲間がいることにこの上ない喜びを感じながら、たっぷりと風景を目に焼き付けた後は登山道に戻り、尾根の西斜面をトラバースして薄暗い植林を登って行く。
岩場から約5分、登山口からは都合約1時間35分で、山頂の手前にあるススキの原っぱへと飛び出す。
ここにはかつて四国電力の反射板が建っていたのだが、今は撤去されて背丈ほどのカヤが一面にはびこっている。
かつて反射板の建っていた広場も今は一面のカヤ原。しかし昼食や休憩には充分なスペースがある。
カヤの中の確かな踏み跡を辿り、広場を奥へと向かい、右手に灌木を掻き分けておよそ2分で「つつじが森山頂」に辿り着く。
しかし、山頂には3等三角点の標石といくつかの山名板があるだけで、展望は皆無、しかも狭い山頂はくつろぐにも不自由で、即座にカヤの広場へと引き返して昼食を摂ることにした。
山頂で揃って記念撮影。狭い山頂には三角点の標石といくつかの山名板がある。展望はきかない。
狭い山頂を後に広場へと引き返し、早い昼食にする。
思い思いの昼食をひろげると、なんと伊藤君はコンビニで豪華弁当を仕入れて来ていた。これには全員の羨望まなざし。
それに比べると私たちの昼食は粗末だが、それでもおむすびやカップヌードルにみそ汁、最近はこれに野菜サラダが加わり食後にはコーヒーゼリーや本格的コーヒーにショウガ湯など、山で食べる食事は満足そのものである。
さて、食事が終わると、私は辻越峠への道を簡単に散策してみた。
私たちは帰路は往路を辿らないで、西へと地図にある破線を辿ろうというのである。
いよいよ、ここからは私たちの小さな冒険が始まる。浜田さんは腕にはめたグローブを今一度ぎゅっと手元に引き寄せた。
カヤ原から、つつじが森山頂の三角点手前まで戻り、左手(北北西)に尾根を下って行く。
するとすぐに三角形の岩場があり、よじ登るとこれから目指す尾根筋が一望である。
春色の萌える山肌は美しく私たちを誘っているかのように見えるが、しかし、「見ると歩くは大違い」であることは今までの経験が物語っている。
見た目には無粋とも思える植林帯の方が、かえって歩きやすいという現実は、この後でものの見事に的中する。
山頂の北西にある岩の上から辻越えの往還道に向けて、これから辿る尾根を眺める。
山頂を出発してほんの少しの間だけは気持ちの良い尾根の下りなのだが、間もなく私たちは予想通りスズタケとの悪戦苦闘を強いられる。
それでも、かすかに辿れるだけの踏み跡を探して進んでゆく。
山頂から尾根を下る。こんな林も前方にはスズタケのブッシュが待っている。