〜押し寄せる自由化と子どもの忍耐力〜


@我慢することは悪いこと?
 「今、子供たちに最も足りないと思う力は?」…こう聞かれると、いろいろな答えが返ってきます。「ありすぎて、答えられない」…そんな人もいるでしょう。その中でも「忍耐力」は、多くの人が足りないと答えるもののひとつです。「なんで50分の授業をじっと座って受けられないんだろう?」、「ゲームがほしくて我慢できないからって、万引きしちゃったら犯罪じゃん!」…まさに忍耐力のなくなった現代社会の象徴的な声です。しかし、世の中は人間の自由と権利を尊重する「忍耐力を必要としない社会」に近づいているような気もします。受験戦争・過度の部活動は緩和され、学校は週5日制に移行します。そんな中で、子供たちはこれからどのようにして忍耐力をつけていくのでしょうか? さまざまな考えがあると思いますが、今日は人間の生活の基本となる「衣・食・住」をテーマとしてお話を進めていきましょう!
A「衣」…学校が唯一、強制できるテリトリー
 「ズボンをちゃんとあげなさい!」、「そんな短いスカート、だめです!!」…中学校で毎日のように行われる生活指導。「衣」は衣・食・住のなかで今、学校が指導できるたった一つの分野です。しかし、生徒は試行錯誤してファッションにこだわります。ピアス・ルーズソックス・腰パン(ズボンをダラ〜っと下げて、腰でベルトを引っ掛ける)・茶髪…ありとあらゆる方法で生徒は反抗し、おしゃれをします。逆に、まったく無頓着な生徒もいます。顔も洗わなければ、歯も磨かない…。これらの生徒にも、もちろん指導が入ります。しかし、この「衣」の分野にも自由化の波が押し寄せてきています。髪形についての指導は昔に比べてずいぶん少なくなりました。修学旅行などの宿泊学習も私服で行く学校が増えています。体育で使用する体操服も、かっこいいジャージやハーフパンツが人気のようです。近い将来、「お父さんが中学生のときは、制服っていうのがあってな〜…」と、息子に昔話をする父の声を聞きながら、「え〜、じゃあみんな同じ格好をしていて、誰だか区別つかないじゃん!」と息子が答える…こんな家庭での会話が聞こえるような世の中がくるでしょう。しかし、学校で衣・食・住のすべての指導ができなくなったら、今度はそれを家庭がカバーしていかなければなりません。皆さんの家庭はどうですか? まだ子どものいない方、親になる前にしっかり指導体制を整えておきましょうね。
B「食」…給食を食べない子どもたち
 「衣」と同じく、「食」は家では自由だけど学校では厳しく規制されます。学校にお菓子を持ってきて食べている生徒がいたら、茶髪に対してよりも厳しい指導が行われることが多いようです(学校にもよりますが…)。このような指導はきっとこれからも継続されていくことだと思います。しかし、この「食」についてさえも自由化の波が迫ってきています。それが「給食」です。「給食なんてメニューが決まっているから、指導も何もないのでは?…」と、思う方がいらっしゃるかもしれません。が、最近なんと「給食を食べない生徒」が多くの学校で増えているのです。ケーキやデザートが出たときだけはそれを食べ、あとは毎日まったく給食を食べないのです。理由はごく単純、「給食がおいしくないから」です。これは学校によってもずいぶん異なります。「自校式給食」のところはいいのですが、「センター式給食」となると搬送の時間が長い地域では、お世辞にもおいしいとはいえないものになってしまいます。急速に食文化が発達する世の中にあって、給食の味の進歩は非常に緩やかです。しかも問題なのは、給食の時間に給食を食べないことで生徒が「ダイエットができた」とか、「食べないでも我慢できる『忍耐力』がついた」と勘違いしていることです。さらに厄介なことに、給食を食べさせるように強く指導をすること自体、「体罰」にもつながりかねないのです。このような事態は今後ますます深刻化していくはずです。では、いったいどうすれば改善していくことができるのでしょうか?…
C「食」〜その2〜…やっぱり忍耐力は食事から!
 まず間違いなく大切だと思われるのが、「幼いときから家庭で好き嫌いをしないようにしつけをする」ということでしょう。好き嫌いさえなければこのような問題は起こらないし、何でも食べるようになれば本当の意味での「忍耐力」も身につきます。やっぱり基本は食生活なんだ…と改めて思ったりもします。しかし現実のところ、好き嫌いを許されるままに中学生になってしまった生徒に対しては、その指導はなかなか難しいものがあります。そこで、私が給食を通して食生活の指導をするならばただひとつ、「1人分の給食の量を減らしてその分、嫌いなものまで食べさせるような『調理』にお金をかけること」が有効なのではないかと思います。その理由として、

@)給食の量に対して、食べる時間が非常に短い(学校生活上、長く取れない)。
A)子どもの「食べ物に対するありがたみ」が薄れてきている。
B)嫌いなものも、工夫次第で食べられるようになる子どもは、まだ多い(…と思う…)。

などがあげられます。特にB)なんて、授業の「教科教育」そのものに似ているような気もします。きっと、先生の工夫次第で嫌いな教科も少しずつ好きになれるのかも…なんて、自分に言い聞かせたりする私なのでした…。

※学校給食についていろいろ知りたい方は、「給食リンク」なるものが存在しているようですのでこちらをど〜ぞ!

D「住」…やっぱり基本は家庭から!
 衣・食・住のうち、「住」は、学校が強制することのできないテリトリーです。それどころか、子ども自身もこればっかりは好き嫌いをいうことができません。家が大きくても小さくても、きれいでも汚くても、子供は住む家を選択することはできないのです。どんなにわがままな生徒でも、親が選んだ家で毎日を生活しなければいけません。ある意味、この「住」こそが子どもの忍耐力の「最後の砦」といえます。幼いころに理想の「自分の家(生活)」を思い描くからこそ、子どもは夢を持ち、その実現に向けてがんばろうとできるわけです。しかし最近都会では、高校生のころから「一人暮らしをするために家を出る」という、すごい生徒が現れているようです。もちろんその家賃は全部親払い! 数年前、子ども(しかも中学生!)の多額の携帯電話代を肩代わりする母親にビックリした記憶がありますが、ついにその親バカぶりは来るべきところまできてしまったのでしょうか? しかし、私の教え子で一人暮らしを始めた生徒が半年後、「家を出て、初めて親のありがたみがわかったよ…」と言ってきました。まだまだ自分で稼いだお金で生活はしていないものの、衣・食・住のすべてにおいて足かせが外れたとき、皮肉にも「我慢すること」の大切さがどうやらわかったようです。ま、すべての生徒がこう思っているとはいいませんが、案外「まったくのフリー状態」を一度体験してみることが、「忍耐力」と「落ち着き」の大切さを知る結果になるのかもしれませんね。
E大切なのは、「バランスよい人間形成」!
 衣・食・住についていろいろ述べましたが、では結局どのようにすれば子どもの忍耐力の育成につながるのでしょうか? ま、私自身は自由化の波が学校に押し寄せる中で、ある程度の譲れない生活スタイルのライン(基準)は校則以上に法整備化してもいいのではないかと思っています。衣・食・住のうち、「これは欠けててもいいや…」なんてものはひとつもないですし…あんまり個性に任せすぎるのも考え物ですね。「理想的な中学生」みたいな形で国が具体的な指針を出しておかないと、何十年後かになって恐ろしい国民の住む「変な国」になっちゃってるかも…柄にもなく国家レベルでの将来をちょっと考えてしまったよっちゃんなのでした…。