〜学校を選ぶ保護者たち〜


@越境入学
 「越境入学」という言葉を聞いたことがありますか? 簡単に説明すると、「小学校卒業後、本来入学しなければならない中学校に通わずに、通学区を越えて隣りの(または別の)公立中学校に入学してしまう」ことです。これは地域によっては「えっ? そんなことができるの?」とおっしゃる人もいるかもしれません。が、通学距離の問題や生徒の人間関係を考慮してやむをえない場合は、実際にこのような措置をとらなければならないときもあります。しかし最近、これを利用して学区などおかまいなしに、自分の子供にあった学校を選ぼうとする保護者が続出する地域が増えてきているようです。学区制崩壊にもつながりかねない、保護者による「学校の品定め」…いったい保護者はどのようにして公立学校を選んでいるのでしょうか。
A生徒の人間関係
 「うちの子は小学生のとき、ずいぶん友達にいじめられて…」 あなたがこの保護者だったら、子供をそのまま学区内の中学校に入学せますか。中学生になって、心身ともに新たに頑張って欲しいと思い、越境入学させる親も多いことでしょう。そうすれば親も子も、そして学校の先生だってトラブルを減らすことができて、困る人は一人もいません。本来、越境入学をする生徒はこのタイプが9割以上を占めていました。しかし、「そんなことができるんだったら、うちの子だって…」と、わがままを言い出す保護者が以下のような点で学校を選び始めたのです…。
B荒れた学校はイヤ!
 最近、学級崩壊が叫ばれています。一部の生徒が授業をめちゃくちゃにする。または、学校全体がすさんだ空気に包まれている…。こんな学校に我が子を通わせるのは、誰だっていやなはずです。でも昔は、そんな中でも「周りに影響されるな。おまえの人生だろ!」と、親に叱咤されながら、生徒はイヤな学校生活を送りながらも、その中で人間関係を作る難しさを体得してきたといえます。しかし、今は「とにかくうちの子だけは、そんな雰囲気に染まらないように…」と、すぐに転校させてしまう親もたくさんいます。ま、確かに我が子が友達にナイフでさされて死ぬかもしれない、なんて考えたら当然かもしれませんが…。しかしそんなことを言っていたら、マスコミで報道されてしまった学校なんて、生徒が一人もいなくなってしまいます。親も学校から逃げるばかりでなく、積極的に教育活動に参加して自分たちの手で学校を変えようとしてくれれば…と考える私なのであります…。
Cやっぱりいい高校に進学させたい!
 公立中学校といえども、地域の様子や学校の教師の取り組み方によって、学力や高校への進学についてはずいぶん差があります。公立中学校のくせに私立開成高校(東大進学立No,1)に何人も合格させる学校もあれば、都会の学校なのに高校進学率がたった7割というすごい学校もあります。そこで、「私立には行かせられないけど、できるだけ学習熱の高い公立中学校に我が子を行かせよう!」という親が増えてきました。時代を逆行しているようにも見えますが、やっぱりこれが親の本音なのでしょうか、と思ったりもします。でも、このままいったら、今後は公立中学校が「あそこは偏差値が高い中学校でねぇ」などと、学習塾によってランクされたりして…そんなばかな事にはならないでほしいですよね。ま、この学習という面については、学校の取り組み方によってずいぶん変えることができると私は考えています。全国の先生方(私も含めて)、保護者に見放されないようにFight!
Dあの先生についていく!
 よく、「部活の名将」と呼ばれるほど部活に打ち込み、どんな生徒が入部しても県大会、全国大会に出場してしまう顧問の先生がいます。しかし、その先生が突然異動してしまうと大変なことになります。そのような部活では父母会を結成し、地域を挙げて部活に取り組むところが多いからです。すごい家庭になると、「あの先生が異動した学校に転校する!」なんて言い出す生徒や保護者もまれにいます。まるで全国大会で優勝することだけが人生の目的みたいで、その後の人生のことを全く考えていないようです。これでは本末転倒です。家庭、先生ともに大変問題があります。このような転校も、学校の品定めができる現在では許されてしまうのです。学校教育の目的って何なのでしょう? 改めて考えさせられてしまう課題であります…。
E「保護者VS教師」 「教師VS教師」
 生徒の人間関係のもつれから越境入学が行われることは、上記したとおりです。しかし、人間関係といえばそれだけではありません。保護者と教師、そして教師と教師の人間関係のもつれから転校を余儀なくされる事だってあります。でも、バカバカしいと思わなければなりません。保護者、教師ともに生徒のことを思って意見を対立させているつもりで、結局当事者である生徒は大人に振りまわされて生きていかなければならないということです。ちょっと冷静になれば、双方ともに理解できると思います。かわいい子供だからこそ、その教育方針は自分の思い通りにしたい…その気持ち、わからないでもないですが、もっと子供を理解しなければならない大人に原因があるような気がしませんか?
F新たな品定めの危機「総合的な学習の時間」
 教師の方はまず知っていらっしゃるはずですが、2002年から授業の中に「総合的な学習の時間」というものが取り入れられます。これは学校が独自のカリキュラムを組んで体験的な活動を中心にして子供の生きる力を育もうとするものです。実はこの「学校独自のカリキュラム」こそ、学校の品定めの新たなポイントになろうとしています。学校独自ということは、「環境」「情報教育」「国際理解」「福祉」など、授業の内容は学校ごとに違うということなのです。また、週に2時間ずつ均等に授業してもよし。また1ヶ月間に授業時間を集中して、1ヶ月丸まるすべての時間を国際理解の授業にしてもいいのです。恐らく今は、全国の保護者はその事をほとんど理解していないでしょう。しかし、気付き始めたら最後、「隣りの学校だと、中学校卒業したときに全生徒がパソコンを自由自在に使えるようになってるらしいわよ。」なんてうわさが飛び交い始めたとします。本来ならここで、保護者が学校教育に参加して、カリキュラムの内容を教師と共に検討していくような雰囲気を作れれば良いのかもしれませんが、恐らくそうはならないでしょう。保護者はますます「学校の品定め」をしながら、よい公立学校を探すようになるかもしれません。「総合的な学習の時間」…どのように利用するかは、我々教師だけでなく保護者にもかかっているといっても過言ではないでしょう。