人体とテコ
柔術系統の技の多くが、テコの原理で説明されるのはよく知られている。力を増幅して使いたい時に非常に有効な原理だといえるが、人体に応用すると力点、支点、作用点という力学的な仕事をするばかりではない。例えば、支点から力点を短くして力点を固定し、作用点に強い抵抗が与えられると、支点が武器になる。こんな応用方法も、多くの合気道の型に取り入れられているようだ。なぜ技が効くのか、効かないのかを考える際には、まずテコに照らして考えてみると、解決方法が発見しやすくなると思う。もちろん、これだけでは技は理解しきれないし、使えないと思うが、考える糸口としては有効だろう。
これを効果的に使うためには、重心操作や体の軸を崩さずに一気に落下するとか回転するとか、体を落としつつ進むとか、力まずにある部分を固定するというような技が必要になるようだ。また、支点を設定する精確さも必要だと思う。例えば肘当て呼吸投げをする時、僕が参加する道場では安全のために肘を外して相手の上腕に支点を持って行かせているが、本来この支点は肘でなければいけないだろう。肘を支点にした場合、力点までの距離は短くなるが、肘の逆が極まるため、相手は崩れる。その崩れに乗って体を進めて投げる。これを稽古でやっていると、肘を痛めることがあるので、やはり肘は外した方がいいだろう。ただ、テコを利用して相手の肩、腰を浮かせる意識は必要だと思う。
クランクの利用
前にも三カ条の(二)という型の相手を制していく流れを取り上げたが、今度は三カ条という技自体を取り上げてみる。この型は、まさに体の操法を学ぶ公案として作りだされたような型だと思うので、次項では詳細に書いてみたいと思っている。とりあえず、ここでは三カ条の部分に絞る。
(一)と(二)はちょっと原理が違うが、(二)はクランクを利用して三カ条の形に入る。クランクもテコになるが、これは主に回転操作で作用させる。
三カ条の(一)は相手の攻撃を捌いた後にどんな風にできるかというバリエーションのひとつだろうから、あまり説明はいらないだろう。
(二)の場合は、片手持ちや両手持ちの四方投げの最初の崩しに、よく似た作用があるらしい。これは手首が極まるので、二カ条も含んでいると思う。
例えば、正面打ちを捌いて、三カ条の(二)に持っていく場合。失敗する人のほとんどは手をこねたり、体を突っ込んだり、逆に後退したりする。それらをやってしまうと、まず効かない。相手の手を捻り上げるのが技ではないだろう。
技のポイントは、相手が攻め続けている内に、相手の中心を乗っ取ってしまうことかと思う。仕手が体を突っ込んだり、捻ろうとして手をこねれば、相手はすぐに身を引く。相手の重みで下がってしまう人が多いが、すでに負けていると思った方がいい。もっとも勝ち負けに拘泥しては、こんな技は使えないだろうが。
この技は、クランクをイメージするといいだろう。自転車のペダルを水平にしたようにして考えてみる。そうして考れば、体の回転軸がどこにあるべきなのかわかる。あるべきところに軸を置き、そこを中心にすれば、自然に技が効いてくる。もちろん今の僕レベルでの効き方だが。まずは軸を明確にして回ることを試すといいだろう。
バネの利用
テコと併せて、体の中にバネを探るといいと思う。ただし、バネといっても、普通にいわれる跳躍力のようなバネではない。相手との関係を維持するためのバネである。僕は、今のところ、力学的な機構とは異なるこのバネ的な感覚が、最も重要な技術のひとつではないかと感じ、稽古でも重視している。
例えば、緩んで緩まない形の例としてあげた二カ条の形。これは一部テコ的な作用もあるが、体の中に感じるのはバネのような作用である。また僕は居合の抜き付けにもこんな体の作用を使おうとしている。バネを使えば腕を使わずに勢いのある刀が抜ける気がする。鞘引きが重視されるのは、このためではないかと、今のところ思っている。
このヒントは、電車の線路からもらった。JR渋谷駅のホームで電車を待っていた時、何気なく線路を見ていたら、H型をした鉄鋼のレールを枕木(今はコンクリートだが)に固定している金具が目にとまった。巨大な電車がもたらす振動に耐えられるとは思えないちゃちな金具だが、よくよく見ていると歪んだC字型が効率よくレールを地面に押さえつけているように感じた。しばらく見ている内に、バネなのだとわかった。
緩んで緩まない状態でこれを体に応用してみたら、二カ条の解釈が変わった。技というよりは、体感が変わったというべきかも知れない。