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まず、崩す

 合気道の型の面白い点は、三カ条の(二)でも触れたが、相手と仲良く動くことで、相手を追い込むところだろう。これはすごく難しいことだが、意識的に稽古すると面白い。命がけの場面で、こんな理論というか法則というか、が発明され実現されたのは驚異だろう。
 片手持ちの(一)を例にすると、片手を掴まれて、引かれる力に合わせて仕手は当て身すると同時に動き、自分優位なポジションをとる。次いで掴んできた相手の手を誘導するように、体を進める場合が多い。この時、相手が崩れているかどうか確認したい。ただ型通りに動いても、相手は崩れない。中には潰そうとするような動きも見られるが、これでは力の勝負になる。その型が何を要求しているのか、よく考えないとなかなか気がつかないようだ。崩せなければ、その先へ動くためのエネルギーが得られない。相手をある方向に反射的に反応させることで、崩しのチャンスを作りだすのが、ひとつの重要な点だと思う。


反射に乗る

 片手持ち四方投げ(一)という型(右相半身)を例にして見ると、片手を掴まれて引かれ、仕手は当て身して、自分優位な位置取りをする。ここでアドバンテージを取らないと、上手くいかない。次いで、掴まれた左手を自分の前に運びつつ、相手の右手首を右手で取るが、この時受けに抵抗してもらうといい。体を固めず、しかし固定して、全体で動くことの大切さがわかると思う。
 この型では、実際はこちらが動き、相手の手首を取った時点で、相手は崩れるのが正しいと思う。相手とのいい関係を把握して動くと、受けの重心がこちらのものになりかけるために、下がろうとする。そんな相手の反射的な変化に乗って、こちらは次の足を進め、手を振りかぶる。相手は、仰け反る。そこで体を転換する。筋肉の力はほとんどいらない。自分が主として動くと、返されてしまうだろう。動きのモチーフは受けの変化であり、仕手は受けの体が望むままに動くが、重心は常に仕手が握っている。こんなことは分かり切っていることかもしれない。でも、体はなかなかついてこない。だから、なおさら考え感じながら稽古する必要があると思う。


両手掴み

 両手を掴まれてしまうと、当て身は使えない。足は使えるけれど、空手のように片足上げてしまうと、簡単に崩される。そんなとき、どうするのか。
 空手は素早く重い蹴りを出せるだろうが、我々ではそうはいかない。ただ救いはある。相手も両手が使えないことだ。足や頭を使わせなければ、何とかするチャンスはある。両手持ちというのはそんなシチュエーションだろう。
 掴まれて相手の力の作用を感じ取った瞬間に優位な位置取りをすることは不可欠だ。ここをただ漠然とやってはいけないと思う。ここがすべてかもしれない。この時、相手のどちらかの腕肩はもう死んでいないといけない。前の四方投げと同じだろう。片手持ちも肘持ちも肩持ちも胸持ちも、ここがいい加減なことが多いように感じる。この瞬間にすべての攻防がかかっていると思うのだが。
 位置取りに成功すれば、後は慎重に相手との関係を確かめながら事を進めていけばいい。


力を使わせない関係

 例えば掴まれた場合に重要なのが、相手に力を使わせない関係を作ることだろう。相手が掴んできた側の肩を殺して、腰を浮かせる。この位置取りには、一種の黄金律があるようだ。相手との関係がわかれば、掴む部位は違っても技巧は似ている。
 前に書いた胸ぐらを本気で掴まれた状況でも、相手との関係を感じれば、それ以上の力を使わせずに崩すことはできる。けれど、その先がさらに難しいと思う。
 塩田剛三先生は、相手がくっいてくるようでないといかん、とビデオの中でおっしゃっていた。これは心理的な作用としても語られているが、物理的なメカニズムとして人体に適用して考えても、可能な技術だとは思う。僕にはとうていできそうにないけれど。



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