楽する、手の内。
「手の内」と言えば、剣術などでよく使われる言葉。
けっこう使われる言葉だけれど、なかなか謎めいている言葉です。
普通でも、「手の内を知る」とか「手の内を明かす」とか使い、作戦とか策略のような意味に解されやすいですが、ここでは体術的に、身体の「手」についての楽体術。
楽体の基礎が見えたなら、次はこの「手の内」に取りかかります。
1.つかまない手を、手に入れる。
物を持つ時、例えば日々持ち歩くバッグなどを手にすると、多くの人は、手でしっかりつかみます。バッグが重いほど、指先に力をこめてギュッとつかんだり。
けれど、ハンドバッグは肘に提げたり、ショルダーバッグも肩に提げる。つかんでないのに、しっかり持てている。ならば、手に持つ場合も、そのように提げてやれば、つかむまでもなく、楽にバッグを持てるのでは。
ほとんどの人は自然にそういう持ち方をしていたりするので、こんな話はあえてするまでもないでしょうが、これを自覚的に体の技術にするのも、楽体の技術のひとつです。
方法は簡単。バッグなら、指を軽く曲げて、ハンドルなり手提げ部分なりを、そこに引っかけるだけ。できれば、小指・薬指・中指の三本くらいで持つようにする。
指はギュッと握りこまず、むしろ伸ばすような心持ちに。頭の中で描いていると、ちょっと重いものでは落としてしまいそうな気がしても、実際は大丈夫。個人差はあるでしょうが、数キロくらいは問題なく持てるはず。
ギュッとつかんで持った場合と、引っかけて持った場合の体感を比べてみると良いでしょう。つかまなくても物が持てるという実感を得ることが重要です。
2.楽体で、傘を持つ。
もちろん、つかまない手で持ちます。あえて少し風の吹いている時に試すといいでしょう。
ギュッと握らず、小指と拇指の丘の2点で挟むようにして、指は軽く巻き付けるようにする。揺すると、手の中で少しグラグラするくらいでちょうどいいでしょう。
強く握らないけれど、やはり指はしっかり伸ばすような感じで、巻き付けた状態で固定しておくようにします。握らないけれど、開かない状態です。
すると、少々風に吹かれても、傘はふらりと揺れて風を流し、腕で傘のバランスを調節しやすくなります。ギュッと握っていると、風に対抗するばかりのため、ますます力を入れることになりますが、この手で持っていると、力はほとんど要りません。

3.日常の手の内。
前記2つの実用例は、物を持つ時に、ギュッと力をこめて握る必要がないことを教えてくれます。
これが、たぶん剣の手の内に通じるところでしょう。
長い棒を持たされたなら、やはり多くの人はギュッと握ると思いますが、棒は握らなくても、固定できる。棒の持ち手部分、端の方の上と少し先の辺りの下の2カ所に、何か支えるものがあれば、棒は固定されます。例えば人差し指と中指の二本をV字にして、ペンなどの先端を中指の下に、端の少し先の部分が人差し指の上に当たるようにしてみれば、ペンは落ちない。
つかまなくては持てないという固定観念が、手や腕に無用な緊張をもたらしていることがわかるはずです。何しろ、つかまなくても物は持てるのですから。
手の内については、ここでは詳しく触れませんが、つかまなくても持てると知るだけでも、けっこう楽になれます。
4.つかまない効用。
つかまないということは、手腕の筋肉を収縮させないということ。状態を維持する力はけっこう必要ですが、筋肉を縮ませるのではなく、縮ませない(伸ばす意識)ことで実現するのが楽体的な手の内です。
ゴルフをやる人ならわかるでしょう。この手はグリップとそっくりです。
バッグを持つにもインターロッキングとかオーバーラッピングのような方法ができるので、自分で工夫すると面白いでしょう。
つかまない発想は、静体と同じ。筋肉に頼らず、骨を有効活用する。静体では強い骨に体重をのせましたが、手の内では、骨を固定の道具として利用する。これにより、握力が衰えても、ある程度の荷物を持ち歩くのもいくらか楽になるかも知れません。
5.車のハンドル操作も手の内。
このところ恐ろしい運転にしょっちゅう遭遇するので、あえてお奨めしますが、ステアリングもつかまない手が基本です。これは運転教習所でもそんな風に指導しているはずですが、見ているとギュッと握っている人が多いようです。
つかめば反射は遅くなります。ステアリングには手を貼りつける、あるいは軽く巻きつけるようにする方が良いはず。固定解除が素早くできます。私は挟むようにしますが、これはまた別の話なので、武術の方で触れます。
手の内は、上半身の楽体に深く関わる重要事です。
人間は手を器用に使えるのが大きな特長です。それ故か、手先に向ける意識が強く、物を取ろうとする時などは、手先から動かします。しかし、手先から動かすと、末端から筋肉が緊張していき、意外に動きが遅く、しかも過度に緊張するもので、手先はおろか、肩までガチガチに力が入ったりします。
手の内の肝心要は、手先の力を抜くところ。
手先を緊張させないことで、腕全体の筋肉も萎縮させないということです。これは武術的な面でも、たぶん重要なことでしょう。
例えば、目の前のテーブルに置かれているミカンをひとつ食べようと、手を伸ばすにしても、手先から動かさず、肩から動かしてみる。劇的な違いは感じられないかも知れませんが、ミカンに触れるまで前腕から先の筋肉は緩んだままでいられるはず。
あらゆる動作を体幹の方から始動するのが、楽体の方法論。
骨の操作は難しいけれど、日常的な楽体としては、ここに記した意識的な変化だけでも充分、楽になれるかと思います。
